小児のかかる結核。第2次大戦後,化学療法の進歩,BCG接種,定期健康診断,社会環境の改善によって結核患者,結核による死亡者はともに激減したが,近年老人人口の増加に伴って老人結核が増加する傾向にあり,また小児結核も家族感染によるものが注目されている。小児結核が成人のそれと異なる点は,成人に多くみられる慢性肺結核症が10歳以上にあること,大部分が初期結核症であること,乳幼児では比較的急性な経過をとり,粟粒結核(ぞくりゆうけつかく)や髄膜炎を起こしやすいこと,などである。
結核菌にはヒト型,ウシ型,トリ型,冷血動物型の4種類があり,日本ではほとんどがヒト型菌によるが,欧米ではウシ型菌によるものも報告されている。感染経路は塵埃(じんあい),飛沫によるもののほか,欧米では牛乳による経口感染もある。結核の母親による胎内感染である先天性結核症もまれにみられる。ほとんどの場合,気道を通って肺で原発巣をつくる。原発巣は米粒大かそれよりも小さいのでX線には写らない。ふつう1~3個で,自然に石灰化して治ってしまうが,進展する場合はしだいに大きくなり,エンドウ豆大かソラマメ大にもなることがある。原発巣内の結核菌はリンパ液の流れによって所属リンパ節に入り,そこに結核性の病変を起こす。X線写真ではリンパ節病巣だけが写ることが多いが,原発巣が大きいと両方が対になって写り,これを初期変化群と呼んでいる。リンパ節病巣だけが写るものは肺門リンパ節結核といい,小児結核のなかで最も多い。無症状のものが少なくないが,不定の症状(咳,食欲不振,発熱,顔色不良など)をあらわすものが多い。なかでも発熱は重視されるが,程度や熱型は不定である。この時期に治すことが結核の広がるのを防ぐことになる。
初期変化群を形成した菌が,さらにつぎつぎとリンパ節を侵して血行に入ると,肺全体に病巣をつくり粟粒結核となる。全身状態は急に悪化し,発熱,不機嫌,呼吸困難,脾臓腫張がみられ,従来は1~2ヵ月で死亡することが多かったが,現在は治療により6ヵ月くらいでX線所見は改善する。肺の結核性病変が胸膜(肋膜)に及んだものが結核性胸膜(肋膜)炎で,発熱,咳の増強,胸痛がみられる。乳児期や幼児期前半では初期結核症の数ヵ月以内に脳に菌が入ることがある。脳を包んでいる髄膜の炎症があるので結核性髄膜炎というが,症状は微熱,嘔吐,頭痛で,しだいに増強し,嘔吐は頻発し,痙攣(けいれん),ついには意識障害をきたす。治療で半数以上は軽快するが,治療が遅れると予後は悪く,生命をとりとめても知能障害や麻痺などを残す。
結核の一般療法としては栄養と安静。化学療法ではヒドラジド,リファンピシン,ピラシナミドの三種類を6か月用いる治療が標準的である。
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
小児にみられる結核で、小児人口10万人に対して約2人という割合のまれな疾患になっている。その特徴は初期(一次)結核症をつくることと、血行によって結核菌が全身に撒布(さっぷ)されて、重篤になることが多いことである。
初期結核症に罹患(りかん)すると、乳児では熱が出たり咳(せき)や下痢がみられ、食欲がなくて不機嫌で、体重が増えないといった症状がある。年長児では、疲れやすい、元気がない、微熱があるといった程度の症状で、ツベルクリン反応およびX線検査で発見されたり、偶然集団検診によって発見されることがある。この時期には菌が気道を通って肺に入り、原発巣をつくる。それに対応する肺門リンパ節の腫脹(しゅちょう)がみられる。
肺門リンパ節結核は、原発巣が小さく、対応するリンパ節の腫脹が大きくてX線写真ではっきり見える。またリンパ節が気管支を圧迫すると、喘鳴(ぜんめい)(ゼーゼー聞こえる呼吸音)や咳が出たりする。リンパ節腫脹による無気肺とみられるエピツベルクローゼEpituberkuloseは乳幼児によくみられ、X線写真で一つの肺葉全体に陰影が認められる。自覚症状はないことのほうが多い。
粟粒(ぞくりゅう)結核は、初期結核症の原因となった菌が今度は血流に入って全身に撒布され、胸部X線写真では肺にアワ(粟)粒大の特有な陰影を形づくる。症状としては、食欲がなく不機嫌を訴えているうちに熱が出没し、呼吸数が増加して貧血などもみられるようになる。
結核性髄膜炎は、胸部の結核に続いておこるが、粟粒結核に合併することが多い。症状としては、まず食欲がなく、吐いたり微熱があるといった時期があり、続いて光や音に敏感になり、首が硬直して痛みを訴え、けいれんや異常な反射が現れてくる。最後に意識がなくなり、昏睡(こんすい)状態になって反応がなくなる。早く発見して早く治療を始めると、70~80%治癒するが、治療が遅れると死亡したり後遺症が出て心身障害がおこったりするので、早期発見・早期治療が必要である。
頸部(けいぶ)リンパ節結核(頸腺(けいせん)結核、るいれき)は、片側のこともあるし両側のこともある。指頭大から鶏卵大まで、大きさもさまざまである。ときには互いにくっつき合って不規則な形に触れることもある。
胸膜炎(いわゆる肋膜(ろくまく)炎)は、初感染ののちに現れ、学童期以後に多い。
治療には優れた化学療法があるが、まず乳幼児期にBCG接種で予防することが望ましい。
[山口規容子]
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