シベリア出兵中の1920年3~5月に尼港(ニコラエフスク・ナ・アムーレ)で発生した事件。同市はソ連(現,ロシア)極東のアムール川河口に近い漁業都市で日本領事館も置かれていた。日本軍はここを1918年9月占領し,20年冬には日本人居留民約380名,陸軍守備隊1個大隊,海軍通信隊約350名がいた。たまたま同年1月トリャピーツィンYa.I.Tryapitsinの率いる約4000名のパルチザン部隊が日本軍を包囲した。衆寡敵せず日本軍は敗れ,パルチザンとの間で停戦協定をむすんだ。ところが3月11日武器引渡しを要求されたのを機に日本軍は奇襲をかけ一般人もこれに加わった。結局日本人側は大半が戦死,残った者も降伏し投獄された。この間石田虎松副領事一家は自決をとげた。やがて解氷期となり日本の救援隊が向かうと,その到着前の5月下旬パルチザン側は,監獄に収容中の日本人俘虜を虐殺した。また同地を退去する際にパルチザンは市街を焼き払い,一般市民約8000名の半数を殺害したと伝えられた。この〈尼港の惨劇〉は日本に大々的に宣伝され,〈元寇以来の国辱〉として,シベリア駐兵の必要を説く軍部などに利用された。日本政府は7月3日,同事件の解決の保障として北樺太の占領を宣言し同地への出兵が行われた。この尼港事件は,その後の日ソ国交回復交渉の難点となった。なお,トリャピーツィンはのちにソ連に逮捕され,人民革命裁判所の裁判をへて7月死刑を執行された。
→シベリア出兵
執筆者:吉村 道男
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シベリア出兵中の紛争事件。1920年(大正9)2月、黒竜江のオホーツク海河口にあるニコラエフスク(尼港)を占領中の日本軍1個大隊と居留民700余名は、約4000のパルチザンに包囲され、休戦協定を受諾した。ところが3月12日、日本側が不法攻撃に出たため、パルチザンの反撃を受けて日本軍は全滅し、将兵、居留民122名が捕虜となった。5月日本の救援軍が尼港に向かうと、パルチザンは日本人捕虜と反革命派ロシア人を全員殺害し、市街を焼き払って撤退した。日本はこの事件を「過激派」の残虐性を示すものとして大々的に宣伝し、反ソ世論を高めた。参謀本部はこれを利用して、アムール州からの撤兵を中止し、7月にはハバロフスク駐兵の継続を決め、またこの事件の解決をみるまで北樺太(からふと)を保障占領するとして、これを実行した。25年日ソ国交回復交渉で日本は賠償請求したがソ連は拒み、結局5月に樺太から撤兵して解決した。
[由井正臣]
『参謀本部編『大正7年乃至11年西伯利出兵史』全3巻(1938/復刻版・全六巻・1972・新時代社)』▽『井上清著『日本の軍国主義Ⅱ』(1953・東京大学出版会)』
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ニコラエフスク事件とも。革命直後のロシアへの干渉戦争であったシベリア出兵中,黒竜江(アムール川)河口の要衝ニコラエフスク(尼港)に駐屯する日本守備隊と居留民がパルチザン軍と衝突した事件。1920年(大正9)2月5日,トリャピーツィンの指揮する約4000人のパルチザン部隊が日本守備隊を降伏させた。日本側は3月12日深夜,パルチザン司令部を奇襲して反攻を試みたが失敗,居留民と将兵130余人は投獄された。参謀本部は旭川第7師団から救援部隊を送ったが,パルチザン軍は5月25日に捕虜を殺害して撤退。日本側はこの事件を利用して北樺太の保障占領を行った。
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…日本軍は22年10月まで4年2ヵ月とどまり,さらに北サハリン占領は25年5月まで続いた。日本は侵略した側であったが,1920年春,ニコラエフスク市の日本人居留民虐殺事件,いわゆる〈尼港事件〉は〈過激派〉の恐ろしさを日本国民に印象づけるために十二分に利用された。
[日ソ基本条約]
シベリア戦争に結着をつけ,日ソ国交を開いたのは,25年1月20日調印の日ソ基本条約と付属議定書であった。…
※「尼港事件」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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