居宅保護施設保護(読み)きょたくほごしせつほご(その他表記)home care
residential care

改訂新版 世界大百科事典 「居宅保護施設保護」の意味・わかりやすい解説

居宅保護・施設保護 (きょたくほごしせつほご)
home care
residential care

社会福祉における保護やサービス援助の方法。居宅保護は保護を必要とする者が地域社会での生活を維持したままで,社会福祉の援助を受ける方法であり,施設保護とはかかえている問題特質に応じて,各種の福祉施設に入所することによって,必要なサービスの提供を受ける方法をいう。

 居宅保護と施設保護の意義を歴史的にさかのぼってみれば,イギリスやアメリカにおける伝統的な貧民救済の方法である院外救済outdoor reliefと院内救済indoor reliefにその原型を見いだすことができる。17世紀から20世紀初頭まで続いた救貧法の時代をつうじて,この二つの方法は交互に採用された。例えば,イギリスで1601年に成立したエリザベス救貧法は,院外救済を原則としていた。だが,求援抑制的効果を一般的に期待した1834年の新救貧法では,低位性の原則(保護を必要とする貧民の処遇は,一般の労働者の生活よりも低い水準で与えられる必要があるとする考え方)を基本とした労役場workhouseへの収容前提とする院内救済が実施されることになった。しかし19世紀後半以降,労役場への批判が強まり,1909年の王命委員会報告書において労役場への収容保護は否定され,居宅での貧困救済を基本的な方法とすることが確認された。施設内の処遇改善も行われ,施設保護は老人,身体障害者などの社会的な弱者の保護を目的としたものに限定されるようになり,居宅保護が中心となっていった。それ以降,この二つの方法は並列的に位置づけられて機能してきた。

 日本で,国民最低限度の生活を保障している生活保護法は,居宅保護を原則としており,これが困難な場合に施設での保護が行われる。しかし,他の社会福祉の法は,法の制定当初は施設保護中心に施策が展開されていた。1981年の国際障害者年以降,日本においてもノーマリゼーション原理心身に障害を持つ者も,人間としての権利に基づいて,障害を持たない者と同じように地域社会で生活をしていくという考え方)の普及による脱施設化や施設の社会化,またコミュニティ・ケアへという社会福祉サービス全体の動きによって,在宅福祉サービスが社会福祉サービスの主流を占めるようになった。これまで施設保護で解決をはかってきた問題を地域社会の日常的な生活空間の中で解決することが目ざされてきており,施設保護の機能は徐々に変化し,より専門的な役割が期待される傾向を示している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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