山上の垂訓(読み)さんじょうのすいくん

日本大百科全書(ニッポニカ)「山上の垂訓」の解説

山上の垂訓
さんじょうのすいくん

マタイ福音(ふくいん)書」の第5章から第7章までに記されているイエス説教。「山」に登り、そこから語りかけるという状況設定があるため、この名称が生まれた。「ルカ福音書」第6章20~49節にも、これとよく似たイエスの説教があるが、語られた場所は「平地」になっている。二つの福音書にみられるこのような変化は、おのおのの福音書記者が共通の資料を用いながら、自らの考えに基づいて編集作業を行ったことを示す。

 山上垂訓は、平地の垂訓よりもはるかに長く、「マタイ伝福音書」全体の構成において重要な位置を占める。説教の内容は、「地の塩・世の光」「主の祈り」「空の鳥・野の花」「豚に真珠」「求めよ、さらば与えられん」「狭き門」など、一般によく知られた主題や句を含んでおり、文化の諸領域に大きな影響を与えてきた。ここではユダヤ教の倫理が批判されているが、最終的には、それは決して廃棄されるわけではなく、むしろ徹底化される。イエスの意図は、人間が道徳的理想を達成しうるかのように考える楽観主を超えて、神の要求の徹底的性格を明らかにすることにあった。

[土屋 博]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「山上の垂訓」の解説

山上の垂訓
さんじょうのすいくん
Sermon on the Mount

マタイによる福音書』5章3から7章 27までに記されているイエスの山上での説教。『ルカによる福音書』6章 17に現れる「平地の説教」との類似から,両福音書の編者が共通の資料を有していたこと,山上の垂訓がイエスの説教の集成であることがわかる。旧約聖書律法預言を廃するためではなく成就するために来たものとしてイエスが説いた中心テーマは,神の国の義についてであった。ここでイエスはまず祝福を与え,次いで「地の塩」「世の光」としての弟子の道を説き,彼らの義が律法学者やパリサイ人の義にまさるべきであるとして,旧約聖書の6つの戒めに再解釈を施しそれを徹底化し,真の義,真の敬虔について教えている。衣,食,,健康などについての一切の人間的な思いわずらいを捨て,「まず神の国と神の義とを求めなさい」とすすめるイエスの言葉は,「狭い門からはいれ」との言葉どおり,きわめて厳格な要求であった。この説教をイエスの福音との関係においてどう解釈するかは,キリスト教各派ないし時代によって相違があり,神学上の問題となっている。

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百科事典マイペディア「山上の垂訓」の解説

山上の垂訓【さんじょうのすいくん】

〈山上の説教〉ともいい,英語でSermon on the Mount。イエスが山の上で群衆を前に弟子たちになしたとされる説教(《マタイによる福音書》5―7)。祝福の言葉で始まり,敵を愛すること,報い,裁きについての言葉および黄金律を含む。シナイ山での〈律法授与〉に倣う象徴的行為と解されるが,史実かどうかは不明。

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精選版 日本国語大辞典「山上の垂訓」の解説

さんじょう【山上】 の=垂訓(すいくん)[=説教(せっきょう)

イエス‐キリストが、山の上で、群集を前にして、弟子たちに行なった説教をいう。
※茗荷畠(1907)〈真山青果〉七「開けたのは馬太伝(マタイデン)の六章、有名な山上の垂訓である」

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世界大百科事典 第2版「山上の垂訓」の解説

さんじょうのすいくん【山上の垂訓 Sermon on the Mount】

〈山上の説教〉ともいう。《マタイによる福音書》5~7章の通称で,この部分は5章1節と8章1節の状況説明によって,〈山上で〉語られたイエスの説教とされているためこう呼ばれる。この場合,〈山〉は当時のユダヤ教においては,旧約聖書が伝えるシナイ山での律法授与のできごと(《出エジプト記》19章以下)以来,神からの啓示と律法が与えられる聖なる場所と考えられていた。したがって,〈山上の垂訓〉は史的事実というより,象徴的意味のもので,後80‐90年ころに福音書を著した人物マタイが,自分の読者であるキリスト教徒の共同体に向かって,旧約律法に代わり,その義に勝るべき新しい秩序(キリスト教的律法)を提示しようとしたものである。

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