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差延 さえん

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

差延
さえん

フランスの哲学者 J.デリダが作り出し,使用する différanceの訳語。これまでの用語である差異 différenceに代えて,遅らせる,延期するという意味を新たに加味している。その意味は,存在者が自己自身に現前するときには,必ず自己自身との違いや遅れが生じているということ。

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出典|ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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大辞林 第三版の解説

さえん【差延】

フランスの哲学者デリダが形而上学批判のために用いた造語。差異の解消をはたす同一性を求める形而上学に対して、その同一性を常に先送りにする時間的延期のこと。この延期ゆえに世界には差異しか存在せず、全事象は絶えず繰り延べられる何かの痕跡にすぎないとする。

出典|三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

差延
さえん
diffranceフランス語

フランスの哲学者デリダの造語で、「差異」と「遅延」という二つの意味を合わせもつ。デリダの脱構築思想の基本概念の一つで、意識の現前性に回収されない、文字や痕跡の働きのこと。差延と訳される用語diffranceは、「差異」を意味するフランス語diffrenceの後半部分のeをaに変えてつくられた言葉であり、それによって「遅らせる」「延期する」という動詞的な意味が含まれるようになる。しかし、発音上は変わらず、文字によってのみ区別される。
 プラトンからフッサールに至る「現前の形而上学」は、意識に生き生きと現前するものを本質的で純粋な意味とみなして特権化し、その表現の純粋さを保証してくれるのは文字ではなく、ひとりごとのような声であると考えた。文字は意味の純粋さを不純にしてしまう危険をはらんでいるとみなされていたのである。それに対してデリダは、意識の自己同一性(アイデンティティ)に対して「差異」が先立っていること、この差異が自己への現前を「遅らせ」、現前性や現在の特権化を禁じていることを主張する。また、文字は声の純粋さを乱すような不純なものではなく、むしろエクリチュール(文字や書記行為)こそが、意味の発生を可能にしていると考える。差延は、意識の現前性を可能にすると同時に不可能にし、能動的でもあり受動的でもあるようなものとして、意識の純粋さに寄生しているのである。
 デリダがこうした思想を生み出すに際して依拠しているのは、ソシュール、フロイト、ニーチェ、レビナス、ハイデッガーである。ソシュールの言語学をモデルとした構造主義は、意味がつねに他の意味との関係においてのみ価値をもつことを示し、同一性に対する差異の優位を説く。またフロイトは、無意識の事後性(幼時の体験の意味が抑圧され、成人になって遅れて意識されること)の概念を導入することによって、意味の発生が遅れや迂回によって可能になることを示す。ニーチェは、さまざまな力の差異が、意識を可能にしていると説く。レビナスは、他者が自己に先立って痕跡を残していることを主張し、それは「けっして現在でなかったような過去」に生起するものであるとする。普通、過去は「かつての現在」と考えられるが、けっしてそうした意味での現在ではなく、なおかつ未来に痕跡を残すようなものが「差延」なのである。最後にハイデッガーは、西欧の形而上学は、存在の意味を現前性と規定するギリシア以来の思想に支配されてきたとし、存在論的差異について思考する。こうした思想家たちの試みを批判的に受け継ぎながら、デリダは差延の思想を練り上げるのである。
 差延の概念は、多くの新たな思考領域を開いた。まずデリダは、線状的な時間性をかき乱す差延の働きを、空間を時間化し、時間を空間化する「間隔化espacement」として主題化し、絵画論・建築論などに影響を与えた。また、文字は一つの技術でもあることから、差延の思想は今日のテクノロジーを新たに思考する道を開いた。テクノロジーとは生における差延のことである。テクノロジーは生命や身体を補足したり、代理したり、迂回させたりするものとして自己に本源的に寄生し、機械的な反復というかたちで死を持ち込むからである。最後に政治思想の領域では、差延の思想は、たとえばハバーマスのコミュニケーション行為論が理想化する、コンセンサス(合意)による相互理解に対して、誤解や無意味性の還元不可能性を説くものとなる。
 この最後の点についてハバーマス的な立場を取る論者たちは、デリダの思想を直接の政治行動を避ける日和見(ひよりみ)的な待機主義ないしは近代の価値を破壊する相対主義的なニヒリズムとして批判した。これに反論するため1990年代以降のデリダは、差延の思考を責任の問題に結びつける。責任とは、けっして現前しないが、あらゆる予測を超えて到来するような他者に対して即座に応答するため、決定不可能性のただなかにおいて決定を下すことである。差延とは、こうしたほとんど不可能な決定の場と考えられるようになるのである。[廣瀬浩司]
『ジャック・デリダ著、高橋允昭訳『声と現象』(1970・理想社) ▽ジャック・デリダ著、高橋允昭訳「ラ・ディフェランス」(『理想』1984年11月号所収・理想社) ▽ジャック・デリダ著、堅田研一訳『法の力』(1999・法政大学出版局)』

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