市取引の平穏を守護し,その場に集う人々に幸をもたらすと信ぜられる神。市姫ともいう。古く795年(延暦14)藤原冬嗣が宗像大神を都の東・西市にまつったという伝説があり,宗像三女神の市杵島(いちきしま)姫の〈市〉にちなんで祭神としたものか,この例は多い。ついで大市姫,大国主命,事代主命などをまつる例が目立ち,恵比須,大黒をまつる例もある。もともと祭神が定まっていたとは思われず,神体も卵形,丸形の自然石とか,木の六角柱などが原初的な姿と考えられ,陰陽1対の石からなる例もある。中世には斎市開設に市神を勧請したという。市神祭は正月の初市に行われるのが通例で,山伏がこれに関与し祭文を読む例が文献に見えており,山伏と市との関係を考えるうえで示唆に富む。市神の神体や信仰の消滅は急速だが,今日,東北,北陸,信州,九州南部に比較的よく残存している。市神はもともと村境や町場の市組の境などに立てられたもので,市そのものの古態を研究するうえでも有力な手がかりとなる。
執筆者:北見 俊夫
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市は交易を行う所であり、人々の生活と密接なつながりをもつ所である。この市の事業と、その場の安全を守護してくれるものと信じられている神。小さな祠(ほこら)や、市神を彫った石柱もあるが、古くは丸い石であったらしい。村の境、船着き場、橋のたもと、四つ辻(つじ)など、境界を示す場所に祀(まつ)られていることが多い。そのあり場所から、かつてそこで市が開かれていたことが推測される。市神の神名は、西日本ではえびす神とか厳島(いつくしま)神社の祭神、市杵島姫(いちきしまひめ)などが多いが、東日本では大国主命(おおくにぬしのみこと)などもあって、さまざまである。特定の祭日を決めている所は少ないが、正月の蔵(くら)開き・小正月などに、市神を祀り、1年の商運を占う所もある。市神は女性巫者(ふしゃ)イチと相通じ、女性神であるという伝承もある。
[鎌田久子]
『北見俊夫著『民俗民芸叢書56 市と行商の民俗』(1970・岩崎美術社)』
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… 市には市姫神として市杵島(いちきしま)姫がまつられたが,のちには戎神(夷)がまつられるようになり,市場祭文が唱えられた。新市が開催されるときには,どこかの市から市神(いちがみ)を勧請してくるのが常であった。また例えば,近江国長野市は〈当国の親市〉と称したが,市相互の間にかかる本末関係があったものと思われる。…
※「市神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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