市神(読み)イチガミ

デジタル大辞泉 「市神」の意味・読み・例文・類語

いち‐がみ【市神】

市の守り神として、各地市場一隅に祭られる神。市姫

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精選版 日本国語大辞典 「市神」の意味・読み・例文・類語

いち‐がみ【市神】

  1. 〘 名詞 〙(いち)の立つ場所にまつり、その場所を守護するとともに、幸運をもたらすとされる神。神体はたいてい円形自然石で、卵形石柱形など種々あり、「市神」の文字を刻んだものもある。市の神。
    1. [初出の実例]「末に蛭児明神、世に市神と崇む」(出典:琉球神道記(1608)五)

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改訂新版 世界大百科事典 「市神」の意味・わかりやすい解説

市神 (いちがみ)

市取引の平穏を守護し,その場に集う人々に幸をもたらすと信ぜられる神。市姫ともいう。古く795年(延暦14)藤原冬嗣が宗像大神を都の東・西市にまつったという伝説があり,宗像三女神の市杵島(いちきしま)姫の〈市〉にちなんで祭神としたものか,この例は多い。ついで大市姫,大国主命,事代主命などをまつる例が目立ち,恵比須大黒をまつる例もある。もともと祭神が定まっていたとは思われず,神体も卵形,丸形の自然石とか,木の六角柱などが原初的な姿と考えられ,陰陽1対の石からなる例もある。中世には斎市開設に市神を勧請したという。市神祭は正月の初市に行われるのが通例で,山伏がこれに関与し祭文を読む例が文献に見えており,山伏と市との関係を考えるうえで示唆に富む。市神の神体や信仰の消滅は急速だが,今日,東北,北陸,信州,九州南部に比較的よく残存している。市神はもともと村境や町場の市組の境などに立てられたもので,市そのものの古態を研究するうえでも有力な手がかりとなる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「市神」の意味・わかりやすい解説

市神
いちがみ

市は交易を行う所であり、人々の生活と密接なつながりをもつ所である。この市の事業と、その場の安全を守護してくれるものと信じられている神。小さな祠(ほこら)や、市神を彫った石柱もあるが、古くは丸い石であったらしい。村の境、船着き場、橋のたもと、四つ辻(つじ)など、境界を示す場所に祀(まつ)られていることが多い。そのあり場所から、かつてそこで市が開かれていたことが推測される。市神の神名は、西日本ではえびす神とか厳島(いつくしま)神社の祭神、市杵島姫(いちきしまひめ)などが多いが、東日本では大国主命(おおくにぬしのみこと)などもあって、さまざまである。特定の祭日を決めている所は少ないが、正月の蔵(くら)開き・小正月などに、市神を祀り、1年の商運を占う所もある。市神は女性巫者(ふしゃ)イチと相通じ、女性神であるという伝承もある。

[鎌田久子]

『北見俊夫著『民俗民芸叢書56 市と行商の民俗』(1970・岩崎美術社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「市神」の意味・わかりやすい解説

市神
いちがみ

市の取引の無事や幸福を与えると信じられている市の守護神。祭神は,エビスガミ,オオクニヌシノミコト,ヒコホホデミノミコト,コトシロヌシノカミ,イチキシマヒメノミコトなどとされる。神体は円形の自然石が多く,その他,石製,木製の六角柱1本のものもある。現在ではそのほとんどが,村落の神社境内に残されている。正月 10日頃に多く市神祭が行われる。

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百科事典マイペディア 「市神」の意味・わかりやすい解説

市神【いちがみ】

市場にまつられる神。蛭子(ひるこ)神,彦火火出見(ひこほほでみ)命,大市姫,市杵島(いちきしま)姫,事代主(ことしろぬし)命,大国主命などを祭神とするが,本来は道の神の信仰ともまじり,自然石,石碑(市神の字や陰陽一対を刻む)などを市の幸を与える神として信仰していた。年初,歳末に市神祭を行う。

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世界大百科事典(旧版)内の市神の言及

【市】より

… 市には市姫神として市杵島(いちきしま)姫がまつられたが,のちには戎神(夷)がまつられるようになり,市場祭文が唱えられた。新市が開催されるときには,どこかの市から市神(いちがみ)を勧請してくるのが常であった。また例えば,近江国長野市は〈当国の親市〉と称したが,市相互の間にかかる本末関係があったものと思われる。…

※「市神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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