改訂新版 世界大百科事典 「幼児婚」の意味・わかりやすい解説
幼児婚 (ようじこん)
infant marriage
幼児を双方または一方の当事者とし,その親によって取り決められる婚姻。極端な場合には中国の〈指腹婚〉のように,出生前に決めるものもある。契約と同棲が別々に行われる場合には,幼児婚約と区別し難い。中国で行われていた〈童養媳(トンヤンシー)〉のように,幼時からの同棲は,成人後の相手への性的関心を減退させるという報告もある。したがって,この場合は当人どうしの性的関係よりも,高額の花嫁代償を払えない親が息子の嫁を幼女のうちに安く買い取って,その労働力を早くから利用し,幼時からのしつけを自ら行うことによって,成人後の嫁姑関係を円滑にしようとするものと言えよう。幼児婚が性的純潔の確保のため行われることもある。たとえばインドの高カースト層では,娘が未婚のまま成熟期に達することをこの上なく不名誉とする風がある。この意味は,女性が万一,下位カーストの男と性関係を結ぶと,女性本人はもとよりそのカースト集団全体をけがれさせ,その地位を下げることになるので,その危険を避けるために,初潮前から婚姻の相手を決めておくという点にある。オーストラリアのアボリジニーも早婚の風で有名であるが,富と実権をもつ既婚の年長者がさらに幼い女子を妻とするのは,性的満足よりも,自分とその老妻の老後の世話をさせるためで,そのつとめを終えた若妻は,青年期の試練を済ませた若者と第二の結婚生活に入るのである。このほか,親どうしの社会的目的のため,幼児婚により姻縁関係を早くから確保することもある。
執筆者:末成 道男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報