乳幼児の守りをすること,またはその人のこと。家族に手が足りない時に,他家の娘を子守として雇う慣習は江戸時代からみられる。子守奉公の年齢は7歳ころから14~15歳までで,同じ地域内で行われる場合もあるが,農漁村から町家へ,あるいは漁村から富裕農家へ奉公に入ることが多かった。東北地方には,名子(なご)の娘が地主の家の子守を義務づけられていた例もある。つまり子守は概して貧家出身の娘が多く,したがっていやしめられる傾向もあり,その辛い境遇は哀調を帯びた子守歌にこめられている。しかし伊豆諸島のように,貧富の別なく,一定年齢の娘が他家の子守を行う慣習をもつ地域もあった。その場合,子守が一種の通過儀礼としての意義を有していたのである。子守奉公は通いにせよ住込みにせよ,いずれも2~3年の年季奉公で,盆暮に給金や反物,仕着(しきせ)などが与えられたが,金銭よりも現物給の方が一般的である。なお山口県の大島のように,子守たちどうしで遊び仲間をつくることもあった。子守が締める鉢巻のことは,新潟県でモリッコツツミ,山口県や福岡県の島々でモリコカツギと呼んでいる。
ところで伊豆諸島では,子守と子守をされた子どうし,および後者と子守の家族との間で擬制的親族関係が結ばれる。すなわち利島では,子が生まれると,子守を頼む家に白米,うどん,麻,お茶などを贈る。子守娘は10~13歳で,期間は3年だが,子の家では子守の父母をモリオヤ,兄弟をモリアニイ,姉妹をモリアネイと呼んで,家族ぐるみの親密な交際をその後も続ける。新島の若郷では,生後50~100日の間に7~14歳の娘を子守に頼む。期間は3年で,子守はモリッコ,子守の両親はモリトウ,モリカアと呼ばれ,子の3歳と7歳の祝いをはじめ,その後も交際が続く。子は子守を相談相手とし,結婚式にも子守とモリカアが付き添う。八丈島の場合もほぼ同様である。
執筆者:平山 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歌舞伎(かぶき)舞踊。江戸の市中によくみられた子守女の風姿を描いたもので、多くの曲がつくられたが、ほとんどが廃曲になり、現代も流行するものに2曲がある。
(1)清元(きよもと)。鳶(とんび)に油揚(あぶらあげ)をさらわれた子守が追いかけて出るので、俗に「油揚子守」ともいうが、普通、単に「子守」といえばこれをさす。1823年(文政6)3月江戸・森田座で、岩井紫若(しじゃく)(7世半四郎)が初演した五変化『大和い手向五字(やまとがなたむけのいつもじ)』の一つで、増山金八作詞、清元斎兵衛作曲。五節供のうち七夕(たなばた)にあたる。越後(えちご)出の子守女が人形を並べてのクドキ、越後座頭の振(ふり)、綾竹(あやたけ)を使った新潟おけさなど。
(2)常磐津(ときわず)。通称「三つ面(めん)子守」。五変化『菊蝶東籬妓(はなにちょうまがきのうかれめ)』の一つで、1829年(文政12)9月、江戸・河原崎座で5世瀬川菊之丞(きくのじょう)が初演。津打(つうち)治兵衛作詞、名見崎徳治(なみざきとくじ)作曲、4世西川扇蔵振付け。子守が子供をあやすため、おかめ、蛭子(えびす)、外道(げどう)の三つの面をかぶり替えて踊ってみせるものである。
[松井俊諭]
幼児のめんどうをみること、またはそれを行う者。単に「もり」ともいう。近年は託児所、保育所、幼稚園などがあって、乳幼児を預かってくれるが、このような施設の充実する以前は、祖母、兄姉、他家の少女などが子守をしてくれることが多かった。子守の形式としては、子供を背負う型と、エジコ・ツグラなどの容器に子供を安置して子守をする型があった。子守奉公ということばもあって、日本本土では、貧しい家庭の子供が雇い人として子守をすることが多かった。しかし沖縄諸島、伊豆七島には、家の貧富を問わず、少女は10歳くらいになると、他家の子供の守(も)りをする風があった。給金はないが、子供の家とは親類づきあいをし、子供とは、血縁の兄弟よりも強く結合しているものである。子守をモリアネとよび、人はだれでもモリアネをもっているものだという。精神的庇護(ひご)者としているのである。沖縄の八重山(やえやま)では、モリ子の結婚には、ムラニノアンマ(モリアネ)が付き添って行くという。子供の成長過程にあって、両親以外に、年長の女性の霊力が子供を守護してくれるという信仰があったのではないかと思われる。
[鎌田久子]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…それを変化させて,二上りの三味線で歌いだしたのが《よしこの節》の起りになっている。まもなく本調子に変わって,その旋律が清元の《子守》(1823)のなかに入り〈わたしゃどうでもこうでもあの人ばかりはあきらめられぬ じゃによって讃岐(さぬき)の金比羅(こんぴら)さんへ願でもかけましょか〉と,いまも歌い継がれている。《よしこの節》は京坂地方でも盛んに歌われるようになり,名古屋で起こって流行していた〈名古屋節〉を駆逐する勢いで広がった。…
※「子守」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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