幼児語(読み)ヨウジゴ

デジタル大辞泉 「幼児語」の意味・読み・例文・類語

ようじ‐ご〔エウジ‐〕【幼児語】

幼児期に特有の語彙ごい。犬を「わんわん」、食べ物を「うまうま」という類。
幼児期にみられる不完全な言語。「飛行機」を「こうき」と言う音の脱落、「猫が来た」を「ねこ、きた」と言う助詞の脱落などの類。

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精選版 日本国語大辞典 「幼児語」の意味・読み・例文・類語

ようじ‐ご エウジ‥【幼児語】

〘名〙 幼児期特有の言語。魚を「とと」、犬を「わんわん」、歩くことや足を「あんよ」という類。

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改訂新版 世界大百科事典 「幼児語」の意味・わかりやすい解説

幼児語 (ようじご)

幼児の言語。以下,幼児期を3期に分け,乳児期,幼児前期,幼児後期として,言語発達・言語習得の過程と幼児言語の特質を概観することとする。乳児期は言葉の準備期で,初語の出る10ヵ月から1歳ごろまで,幼児前期は,日常生活に必要な地域社会で用いる語や文や音声が使えるようになる時期,幼児後期は小学校にあがるまでで,言語による自己行動の調整(内言(頭で考える))ができるようになる時期である。この間の発達には,幼児自身の生得的能力の違いもあるが,育児者(主として母親)の働きかけを含む,育つ環境の影響が大きく,個人差がある。

 うぶ声をあげて人間はこの世に生まれてくるが,胎児の時から母親の声は聞いているとの研究もある。うぶ声の叫声は摂食等による口腔の運動,あるいは〈最小努力の法則〉によって,喉音の〈グ〉や,成人の〈ア〉音に似た音からはじまり,母音の〈ウ〉,子音の〈パ,バ,マ,ン〉が結合して,長い喃語(なんご)になっていく。6,7ヵ月ごろが一番盛んだといわれる。この喃語が初語に連続しているという説と不連続だという説があるが,種々の音の生産ができるということは,以後の言葉生産に有効なのである。一方,赤ちゃんは大部分の時間ねむっているが,起きている間は五感を使って見たり聴いたりする観察学習を行い,身の回りのものを理解している。育児者が愛情をもって赤ちゃんに話しかけたり,行動とともに対象物に対して使う言葉の繰返しが,話す人,もの,行為という構文の型を知らせているのである。8,9ヵ月ごろになると,〈おつむてんてん〉などの育児者の遊びを身ぶりでまねるとともに,自分でも欲求を指差しや身ぶり,表情で表現する。

 初語の出現で幼児前期が始まる。育児者が食事のたびに〈ウマウマよ〉と繰り返し使用している場合,その模倣の〈ウマウマ〉が初語となる。英米では〈ママ〉(母親・食べ物)が多いということである。1歳前後から2歳にかけて使用する幼児の言葉は,このように一語から成る文が多い。一語文といわれ,一語で(1)感嘆発声,(2)呼びかけ,(3)要求,(4)応答,(5)拒否,(6)否定,(7)命名,(8)質問を表現する。少ない手持ちの語で間に合わすため,四足獣を見ると皆〈ワンワン〉ですます般用現象,ものの音をまねた音まね語(掃除機を〈ガーガー〉),育児者の用いる育児語(着物を〈オベベ〉)が多い。調音器官が未熟なため幼児音で〈カチャ〉(傘),〈ダイオン〉(ライオン)など,サ行音,ラ行音の発音が特にむずかしい。使用場面にいないと理解しにくい文脈依存語なのである。なお,この部分のみを指して〈幼児語〉という人もいる。

 1歳半ごろから二語文を使用できるようになる。貯蓄できた語が多くなり,それが分化してきたからである。最初は二語羅列であるが,助詞の使用,活用形の習得によって,一文を三語文や単純な複文で表現できるようになってくる。育児者と幼児の遊び,絵本を読む,お話を聞くなどから,文と文を接続詞(〈ソレデ〉〈ダカラ〉)でつなぎ,文章を構成することを覚える。日常生活場面では育児者に率先して会話をしかけることもできるようになる。3歳ごろで,語彙の数も1000語前後となる。

 幼児後期は,ほとんどの幼児が集団生活をするようになり,これまでに習得した語や文を用いて,楽しくおしゃべりをする。〈小さい大人〉ともいわれる時期である。〈いちご〉という語は三つの音(節)から成立しているという文字についての意識もつき,頭音や尻とりのあそびもできる。三つ以上の絵を見て仲間選びをする操作能力もつく。言葉を話題にして言葉で表現することもできるようになる。そのせいか副詞を用いた限定修飾や,漢語外来語を用い,成人の使うことばを使いたがる。しかし,たとえば〈時〉についての概念には乏しく,将来のことも〈キノウ〉ですますといった現象も見られる。ことばの使い誤りも多い。この段階でも,まだ質問に対して適切に説明することは難しいのである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「幼児語」の意味・わかりやすい解説

幼児語
ようじご

子供のことばは、さまざまの面で大人のことばとは異なった特徴をもっている。音韻面では「コーキ」(飛行機)、「ネト」(猫)といった音の脱落や代置、統語面では「ブーブー オウチ カエル」(自動車で家に帰る)といった助詞の脱落や「好キクナイ」「キレイクナイ」などの活用の誤り、また意味面では四つ足の動物を全部「イヌ」とよんでしまうような汎化(はんか)の現象などのみられるのが普通である。子供のことばは、大人の規準からすれば、言語能力の未熟性の現れとみなすことができるが、しかし一方、一つのコミュニケーション・システムとしてみるならば、一定の規則性をもち、独自の組織を備えた1個の言語であるといえる。こうした観点から、子供のことばを、日本、英などと同じ意味合いで幼児語とよぶ。このような幼児語の特質を明らかにし、それに基づいて言語習得と言語使用の本質に迫ろうとする学問が言語心理学である。

 なお、狭義には、犬を「ワンワン」、寝ることを「ネンネ」というように、幼い子供と養育者の間で使われ、より単純な音構造をもつ一群の語をさして幼児語とよぶ。この場合の幼児語は、女性語、学生語、農業語などと同じく、話し手の社会的属性に基づく語彙(ごい)の差異(位相)の一つの現れということができる。

[鈴木敏昭]

『大久保愛著『幼児語』(『講座日本語の語彙 第一巻』所収・1982・明治書院)』

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