家庭医学館 「幼児難聴」の解説
ようじなんちょう【幼児難聴 Hearing Impairment in Infants】
[どんな病気か]
高度の幼児難聴はそれほど多くはないのですが(新生児1万人あたり8~24人)、ことばの発達に大きく影響するので、早期診断とその後の訓練がたいへん重要です。
[症状]
難聴が軽い場合は、ことばの遅れで発見されることがあります。いいかえると、ことばの発達が遅れている場合は、難聴を疑う必要があります。
片側だけの難聴の発見はさらに遅れ、小学校の入学時健康診断で疑われることが多いものです。
[原因]
幼児難聴の原因は、遺伝性、胎生期(たいせいき)性(妊娠中)、周生期性(出産時)、後天性の4つに分類されていますが、原因不明のものも少なくありません。
■遺伝性難聴
難聴だけのことも多いのですが、ほかの器官の形態異常をともなう症候群(しょうこうぐん)もあります。
遺伝形式はさまざまですが、劣性(れっせい)遺伝が多くなっています。ダウン症侯群(「ダウン症候群」)などの染色体異常(せんしょくたいいじょう)でも難聴がおこります。
■胎生期難聴
母親が、妊娠中に風疹(ふうしん)、サイトメガロウイルス、梅毒(ばいどく)などに感染したり、薬物(サリドマイドなど)を使用したりしておこります。
■周生期難聴
低体重、仮死、高(こう)ビリルビン血症(けっしょう)、分娩時(ぶんべんじ)外傷などが原因になります。
■後天性難聴
麻疹(ましん)(はしか)、流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)、その他のウイルス感染、細菌感染、薬物中毒、頭部外傷(とうぶがいしょう)などで生じます。
[検査と診断]
難聴がおこる可能性がある場合(出生時の仮死・高ビリルビン血症・低出生体重児・外耳の形態異常のいずれかに該当する、両親が血族結婚、家族に難聴者がいる、母親が妊娠中に風疹にかかったなど)には、聴力の脳波検査の1つであるABR(聴性脳幹反応(ちょうせいのうかんはんのう))を行なって、難聴かどうかを検査します。
その他、外耳、中耳、鼓膜(こまく)の状態を調べたり、子どもの行動を観察して、だいたいの見当をつけるとともに、さらに詳しい聴力検査を行なって難聴の程度を測定したりします。
必要があれば、CT検査なども行なわれます。
難聴の程度は、いろいろな検査の結果によって、総合的に判定されますが、その後も、定期的な検査、観察が必要です。
難聴の場合は、耳の検査に加え、精神、神経の検査も行なわれます。
なお、難聴に精神発達遅滞などをともなう重複障害児の場合は、難聴の診断が困難になります。
◎手術で治るものもある
[治療]
音を伝える中耳、鼓膜、外耳に異常がある難聴の場合は、手術による治療が可能です。手術が行なわれるまでの間は、補聴器(ほちょうき)、骨導補聴器(こつどうほちょうき)を利用します。
音を感じる内耳や神経に異常がある感音性難聴(かんおんせいなんちょう)の場合は、有効な治療法がありません。
●難聴の程度と対策
難聴が中程度以上の場合は、補聴器による訓練が必要です。
ことばの発達は、1歳から1歳半までがもっとも盛んなので、ことばを獲得するためには、遅くとも2歳までに訓練を開始する必要があります。2歳までに訓練を開始すれば、正常なことばの発達の可能性が高くなります。
幼児の難聴は、全国にある難聴幼児通園施設などでリハビリテーション、教育、療育相談などを受ける必要があります。
音がまったく聞こえない(聾(ろう))か、もしくはそれに近い場合は、人工内耳(コラム「人工内耳」)の手術が行なわれます。日本では、難聴の程度がはっきりわかり、側頭骨(耳の骨)も発達する3歳前後に手術が行なわれることが多いのですが、欧米では、もっと早い時期に行なわれています。