外見上,呼吸や心臓がとまっているように見えるが,実際は生きていて,ふたたび生き返る可能性のある状態。主として外観上の所見や状態にもとづき名づけられたもので,必ずしも厳密な医学的基準による名称ではない。したがって,呼吸や循環の機能が極度に低下していて,通常の方法では確認が困難な場合を指すことが多い。水におぼれた場合や寒さにさらされた場合,あるいは感電の場合などにおこる。分娩の過程で呼吸障害がおこり,新生児がこの状態で生まれてくる場合を新生児仮死という。いずれにせよ,生命に危険がさし迫った状態であり,ただちに人工呼吸や心臓マッサージ,その他の救急処置を行わないと死に至ることが多い。このような状態から回復して,呼吸運動や心臓の拍動が認められるようになることを蘇生という。古くは,この仮死の状態を真の死亡と間違えて,いわゆる〈早まり埋葬〉の原因となったこともある。現行法で,火葬や埋葬が死後24時間以上経過することを原則としている理由の一つも,このような事態を避け,慎重を期するためとされる。
→死
執筆者:福井 有公
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
疾病と、その結果としての死との過程を考えた場合、死の状態と認識されても、適切な処置などによって可逆的に生活現象を認める状態に戻ることがあり、これを仮死とよぶ。疾病はWHO(世界保健機関)分類により、消化管系、血液系、肝胆道系、神経系、呼吸器系、循環器系、腎(じん)、内分泌、膠原(こうげん)病、その他など、多種に分類されるが、いずれの疾病も死に至る過程では、異なった基本的病態を示すわけで、これを死因とよんでいる。死因には、消耗、呼吸不全、心不全、中枢障害、貧血(低酸素)、水・電解質などの代謝異常、ショック、事故などの例があげられる。このうち、ショック、麻酔などによって呼吸、心機能が完全に停止し死の状態に陥っても、ただちに人工呼吸、心臓マッサージなどの適切な処置をとることによって、それらの機能を取り戻すこと、つまり仮死の状態にすることが可能となる。なお、死直前の状態を死戦期とよんでいる。
[渡辺 裕]
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