広汎性発達障害(読み)コウハンセイハッタツショウガイ

デジタル大辞泉の解説

こうはんせい‐はったつしょうがい〔クワウハンセイハツタツシヤウガイ〕【広汎性発達障害】

知的障害を伴う自閉症高機能自閉症アスペルガー症候群レット症候群小児期崩壊性障害などを包括した発達障害の総称。対人的な反応に障害があって場面に即した適切な行動が取れない、言語障害コミュニケーション障害がある、想像力障害があり興味や活動が限定的で強いこだわりがある、反復的な行動(常同行動)を取る、などの特徴をもつ。PDD(pervasive developmental disorders)。→自閉スペクトラム症

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

広汎性発達障害

発達障害者支援法で注意欠陥・多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)とともに発達障害の一つに分類され、脳機能の障害とされる。対人関係が難しい、こだわりが強い、想像力が未熟、などの特徴があるとされている。

(2013-01-12 朝日新聞 朝刊 岡山全県 1地方)

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最新 心理学事典の解説

こうはんせいはったつしょうがい
広汎性発達障害
pervasive developmental disorders

PDDと略称される。広汎性発達障害という名称は,1987年にDSM-Ⅲ-R(アメリカ精神医学会『精神障害の診断と統計の手引き』第3版)で初めて用いられ,DSM-Ⅳ(同第4版)において自閉性障害autistic disorder,アスペルガー障害Asperger's disorder,レット障害Rett's disorder,小児期崩壊性障害childhood disintegrative disorder,特定不能の広汎性発達障害pervasive developmental disorder not otherwise specifiedを下位分類項目とするものとして示された。広汎性発達障害の発生率は,調査によって若干異なるが,200人に1人ほどと考えられており,そのほとんどは自閉性障害とアスペルガー障害である。また,男女の比率が4対1ほどであり,男児に多く現われることも特徴である。

【自閉性障害とアスペルガー障害】 この中で自閉性障害とは,対人的相互反応の障害,言語発達の遅れ,興味の限定と反復的な行動を主な症状とするもので,アメリカのカナーKanner,L.が1943年に初めて報告し,早期小児自閉症early infantile autismと名づけたものである。自閉症という名称は,すでに統合失調症の中の一症状を表わすものとして用いられており,類似した症状が幼児期に発症するものとしてこのように名づけられたわけだが,今ではこの名称がそのままカナーが発見した疾患を示すものとなっている。

 これと関連して,カナーの報告の翌年,1944年にオーストリアのアスペルガーAsperger,H.が類似した症状を自閉的精神病質autistischen psychopathenという名のもとで報告しており,そこで示された症例はカナーの場合より軽症のものを多く含んでいた。アスペルガーの功績は長い間忘れられていたが,自閉症の症状を示しながら初期に言語発達の遅れが見られなかったタイプをアスペルガーの名にちなんで,1992年のICD-10(WHO『国際疾病分類』第10版)ではアスペルガー症候群Asperger syndromeという名で,前述のDSM-Ⅳではアスペルガー障害の名で分類することになった。

 ところで,自閉性障害やアスペルガー障害の中には高いIQを示すようになる者が多く含まれる。IQ70以上の者は,DSM-ⅣやICD-10の分類の中にはないが,高機能自閉症high functioning autismとよばれている。高機能自閉症者の中にはIQ150ほどを示す場合もある。アスペルガー障害の児童のIQはほとんど70以上であるが,これを除き,自閉性障害の中の高IQの者のみを示して高機能自閉症とよぶことが多い。

 以上のように,自閉症の周辺にはさまざまなものが含まれるが,類似性が大きく,症例の中には判別がつきにくいものも多い。イギリスのウィングWing,L.は,社会的相互交渉の障害,コミュニケーションの障害,想像力の障害が自閉症全体を特徴づける障害の三つ組みtriad of impairmentsと考えている。そして,イギリスを中心として,以上の障害を自閉症連続体autistic continuumとしてとらえ,自閉症スペクトラムautism spectrumという名でよぶことが多くなっている。

 なお,わが国では2004年に発達障害者支援法が制定され,その中で発達障害をLD,ADHD,高機能自閉症とする,と定めたため,自閉症関連障害もこの名称の中に吸収されたかたちで示されることが多い。

 自閉症の原因については,当初は親の育て方などによって起きる心因的なものと考えられたが,1970年代より脳機能障害によるものと考えられるようになった。また,一卵性双生児では自閉症の一致率は90%以上であることや,同一親族内では自閉症の発生率が高まることから,なんらかの遺伝的な原因も関係していると考えられるが,まだ明確な結論は得られていない。

【自閉症autism】 自閉症は脳の機能障害による発達障害である,という点では研究者の間で見解が一致している。しかし,何が中核的な障害となってさまざまな症状が現われるのか,という点については多くの議論があるものの,結論が得られていない。自閉症は重度の場合は,言語を獲得できなかったり,長い間一語文レベルに止まったり,指さしがなかなか現われなかったり,目が合わなかったりとコミュニケーションの発達が著しく損なわれることが多い。また,相手が言ったことをそのまま返す反響言語echolaliaが現われたり,空間的な配置や出来事が起きる順序の変更を嫌う同一性保持preservation of samenessの傾向が生じたり,動作や行動を反復的に繰り返す,常同行動stereotyped behaviorが生じたりすることがある。しかし,これらの症状は発達に伴って消失したり,軽減したり,形を変えて現われたりすることが多い。

 自閉症者の内的世界は長い間謎のままだったが,1990年代より高機能自閉症者が次々に自伝を著わすようになり(たとえばウィリアムズWilliams,D.やグランディンGrandin,T.),以前より理解しやすいものとなってきた。それらの著書は自閉症の内的世界について多くの情報を提供しているが,なかでも注目されるのは,感覚過敏hypersensitivityの問題である。感覚過敏はいわゆる五感や筋肉感覚などすべての感覚に現われるもので,高機能自閉症者による自伝の中で共通して述べられているものである。感覚過敏があると,外部からの刺激を通常とは異なる方法で受け入れることになり,そのことが自閉症のさまざまな症状を生み出していると考えられるが,現時点での診断項目(DSM-Ⅳ,ICD-10など)の中には含まれていない。

 もう一つ特筆すべきものとして,自閉症者の一部にのみ現われるものだが,特異な能力がある。たとえば,視覚的な映像を写真で撮ったかのように鮮明に記憶したり,一度聞いただけのメロディを記憶して演奏したり,何十年ものカレンダーを記憶して日付を言われると即座に曜日を当てる能力などである。これらの能力を示す者の知的水準は一般に低く,そのなかで突出して現われるものであるため能力の孤島ともいわれる。このような特性を示す者の存在は,カナーが自閉症について報告する前から知られており,現在はサバン症候群savant syndromeと名づけられている。サバン症候群は自閉症者の一部にしか現われないものだが,類似した特徴は自閉症スペクトラム全体に見受けられる。高機能自閉症者のWISC知能診断検査の評価点は一般に下位検査項目の間でのばらつきが大きい。また,アスペルガー障害をもつ者は不器用さを伴うことが多いが,一方で科学や芸術の分野で天才的な能力を示すことも多い。能力のアンバランスは自閉症スペクトラム全体を特徴づけるものであると考えることもできる。

 以上のように自閉症にはさまざまな特徴を見いだすことができるが,それらを包含する中核的な障害は存在するのだろうか。この問題についても種々の見解があるが,ここでは,対人関係発達という視点からのアプローチと認知発達という視点からのアプローチを紹介しておきたい。

 第1の対人関係発達障害という視点は次のようなものである。人のコミュニケーション能力は通常,生後9ヵ月ころから形成される共同注意によって大きな進歩を遂げる。しかし,自閉症児はこの共同注意の形成において大きな遅れを示すことが明らかになっている。これに続き,通常では4歳ころに形成される心の理論の形成は対人関係発達において非常に重要なものだが,自閉症児の場合,他の能力と比べて著しい遅れがあることがバロン・コーエンBaron-Cohen,S.(1985)によって示されている。心の理論の障害は,自閉症者が他者の心を読みにくいことばかりでなく,ふりや噓やだましなどに気づきにくいことなどにも説明を与えるものである。

 第2の認知機能の障害という視点では,実行機能executive functionの障害説がある(Rumsey,J.M,& Hamburger,S.D.,1988など)。実行機能とはプランに従って行動を進める働きであり,大脳の前頭前野と関係する機能である。実行機能を検出する課題であるカード分類テストや「ハノイの塔」の課題を自閉症者に適用してみると低い達成水準であることが知られている。

 認知機能の障害という視点に基づくもう一つのアプローチは弱中枢統合weak central coherenceの仮説である(Frith,U.,1989)。自閉症者は外部世界を要素の集合としてとらえることには障害がないため,たとえばパズルを完成することなどには障害を示さない。しかし,それらを意味ある全体としてとらえたり,文脈上でとらえたりすることには障害をもつ。このような中枢統合的な認知機能の弱さが障害の中核をなすという考えである。

 以上のように,自閉症者にはさまざまな症状が観察され,また,それに対する研究アプローチにも種々のものがある。20世紀後半の小児発達にかかわる諸科学が最も活発に議論してきた分野の一つであると考えられる。そして,今世紀に入っても議論は続いており,自閉症についての見方は流動的である。今後もその動向を見守っていく必要がある。【自閉症スペクトラム障害児に対する教育・セラピー】 自閉症スペクトラム障害autism spectrum disorder(ASD)をもつ子どもはかつて親の育て方の問題に起因する情緒障害と考えられていたため,その教育・セラピーの方法として精神分析学的アプローチ,とくに遊戯療法が行なわれていた。しかし,研究が進むことにより,情緒障害説の妥当性と精神分析的な遊戯療法の有効性は1970年代までに否定された。今日では,脳機能の問題を背景とする認知機能の発達障害であるとするのが一般的な見解となり,その教育方法論として行動論,環境論,発達論に基づくアプローチが用いられている。さらに近年,人間の「学び」に対する新たなパラダイムを提唱する認知科学における研究成果が蓄積されるに伴い,自閉症スペクトラム障害児に対しても認知科学的学び論が新たなアプローチとして注目されている。

1.行動論に基づくアプローチ 学習を行動の変化としてとらえるスキナーSkinner,B.F.の学習理論に基づいており,その理論の中心であるオペラント条件づけを教育・セラピーに応用したのが応用行動分析applied behavior analysis(ABA)である。応用行動分析では,望ましい行動を教える(コミュニケーション,食事・排泄などの生活スキル),望ましい行動を維持・般化させる(家庭や学校で適切な行動が取れるようにする),行動問題(自傷,他害,こだわり)を減らすことなどを目標とする。基本的に,指導者が子どもに課題を提示し必要に応じプロンプトを提供しながら子どもから正反応が出た場合に強化子(褒美)を与えることによりそれを強化する,という方法で指導が行なわれる。従来このような指導は取り出し指導pull-out teachingとして行なわれ,一般には特定のスキルを個々の要素・ステップに分けて一つひとつを教えていくことを特徴としていた。しかし近年は,機会利用型指導のように,自然な場面における指導や子どもの自発性を尊重し,般化の促進をねらったアプローチも取り入れられる傾向にある。

2.環境論に基づくアプローチ 代表的な方法として,自閉症スペクトラム障害児の視覚的認知の強さという特質に着目した支援方法であるTEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped CHildren)がある。TEACCHでは,たとえばワークエリア,プレイエリア,トランジションエリアなど活動の内容に応じたスペースを設定し,それぞれの活動が行なわれるエリアを視覚的に明確化する「空間の構造化」が行なわれる。また,日々の活動において何がどういう順序で行なわれていくかをスケジュールや手順表などによって示す「時間の構造化」も行なわれる。これらは,自閉症スペクトラム障害児における中枢性統合の弱さや実行機能の障害を補うために複雑で曖味な情報を整理するサポートであり,活動の流れに対する見通しを与え不安感を軽減させることを目的としている。

3.発達論に基づくアプローチ ピアジェPiaget,J.の認知発達理論,ビゴツキーVygotsky,L.S.の「発達の最近接領域」の理論,ブルーナーBruner,J.S.の「足場かけ」の考え方,社会的コミュニケーションの発達に関する知見などに基づいている。発達の最近接領域zone of proximal developmentとは,子どもが自発的にはできないが援助があればできる課題水準を示し,最適な学習課題のレベルを設定するための指標となる。ビゴツキーは遊びが発達の最近接領域を創造するとしており,子どもは生活の中でできることよりも一歩先のことを遊びの中で行なうとする。また足場かけscaffoldingとは,「発達の最近接領域」において,おとなが指示や質問などさまざまな支援を行なうことをいう。初めは一人でできないこともおとなの支援によりできるようになり,最終的には支援なしでもできるようになる。このように「足場」は,子どもが自力でできることをめざして少しずつ外され,最終的にすべての足場が外されることになる。発達論的な視点に立つ指導法の例としては,発達的社会-語用論モデル,SCERTSモデル,対人関係発達指導法などがある。発達的社会-語用論モデルdevelopmental social-pragmatic model(DSPモデル)では子どもの自発性が重視され,指導には子どもにコミュニケーションの動機がある自然な活動や出来事が用いられる。指導場面は構造化されておらず,遊びを通じて子どもの自発的なコミュニケーション力を高めることが目標とされる。わが国で普及しているインリアル(INter REActive Learning and communication)・アプローチは,このモデルに近い支援法と考えられる。発達的社会-語用論モデルはその後,社会コミュニケーション領域に加え情動調整領域へのアプローチも統合し,交流型支援という包括的な支援の枠組みを得てSCERTSモデルSocial-Communication,Emotional Regulation and Transactional Support modelとして発展した。さらに,社会的コミュニケーションの典型発達のプロセスに焦点を当てた指導法として対人関係発達指導法relationship development intervention(RDI)がある。この指導法では子どもが他者とかかわることへの動機づけを高めることに目標がおかれ,経験共有の発達が重視される。社会性発達のアセスメントに基づき個別の指導プログラムが作成され,対象となる子どもがあるスキルを獲得するための指導を受ける準備ができているかどうかを査定し,発達段階の順序性を踏まえた指導が進められていく。なお,自然な場面でのアプローチを中心とするサービスを受けている親は,訓練的なサービスを受けている親に比べてストレスが少なく,子どもとより良好なコミュニケーションが取れていると感じる傾向があるとの知見もある。

4.認知科学的学び論に基づくアプローチ 従来の自閉症スペクトラム障害児に対する教育・セラピーの方法が,最初に子どもの特性や能力を考慮した指導計画を立て,それに基づき実践を行ない,当初の目標を達成できたか否かという基準により評価し,その評価に基づき次の指導計画を立てるという枠組みを批判的にとらえている。このような枠組みで教育・セラピーを考えている限り,般化困難の問題を本質的に解消することができないと考えるからである。認知科学的学び論に基づくアプローチの背景になっている認知科学cognitive scienceは1990年代から盛んに「学び」論を展開してきたが,その台頭の背景には1980年代にさまざまな科学的研究領域において横断的に発生したパラダイムの「行き詰まり」がある。「行き詰まり」の理由は「日常生活における複雑性の発見」にある。この問題を解決するため,心理学,教育学,コンピュータサイエンス,ロボット工学,脳科学,哲学,言語学などさまざまな分野の研究者が認知科学という新しい学際的な(文理融合型の)学問領域の中で「学び」についての探究を開始した。『「学び」の認知科学事典』(2010)によれば,たとえばロボット工学やコンピュータサイエンスではそれまで「ロボットやコンピュータにさせたいことを一つひとつ系統的にプログラムする」という基本方針で設計・開発を進めてきた。ところが1980年代,そのようなロボットは(コンピュータは)「実験室で正常に動いていたとしても日常世界の中で同様に動くとは限らない」という考え方が盛んに主張された。マッカーシーMcCarthy,J.らはその行き詰まりをフレーム問題frame problemとよび,「曖昧で複雑な日常の中では情報処理が破綻をきたしてしまうこと」に帰着した。つまり,それまでの方法では,われわれが生活している「曖昧で複雑な日常」に対し対応不可能なのである。

 認知科学における「学び」論は「学び手はどのように学んでいるか」に着目する。そして,学びは学習者がおかれた状況に大きく依存することを前提とする。さらに,「状況」の中で学ぶことを重視する認知科学では必然的に,人間が身体性embodimentをもつこと,そして学びの共同体learning communityを重視することになる。それまで最大の関心事であった「頭の中で(脳で)何が起こっているのか」という視点は,「わたしたちはどのように環境や状況と相互作用をすることによって学びを成り立たせているか」という視点に置き換わった。

 このような認知科学的学び論に基づくアプローチでは,自閉症スペクトラム障害児に対する実践の特徴として,従来の「教師が中心になり個々の子どもの特性に合わせて簡単なことから複雑なことへと一つひとつ系統的に教え込んでゆく」のではなく,子どもが周りの人びとあるいは環境や状況との関係性の中で,子ども自らの学ぶ力や完璧ではなくとも「なんとか問題をクリアしてゆく能力」の発達を支援することの重要性が示されている。

 →オペラント条件づけ →共同注意 →心の理論 →知的障害 →発達支援
〔熊谷 高幸〕・〔渡部 信一〕

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