改訂新版 世界大百科事典 「建築契約」の意味・わかりやすい解説
建築契約 (けんちくけいやく)
建築工事契約ともいう。建築工事を行うにあたって施主(建築主)と施工者との間でかわされる商的取決め。建築工事における施工者の決定方法としては,特命,見積合せ,競争入札の三つがある。信頼のおける施工者をあらかじめ選んでおき,他の建設業者と競争させることなく決定する方法が特命で,いくつかの建設業者から見積書を取り寄せ,その内容を詳しく検討して施工者を決定する方法を見積合せという。またいくつかの建設業者から工事請負金額などの条件を提出させ,もっとも有利な条件を提供するものに施工者を決定する方法を競争入札という。公共機関が契約する工事の場合には競争入札によって施工者を決めるのが原則である(建設業)。
施工者が決まると工事契約を行う。建築工事においては,ある工事を施工者が全責任をもって引き受けて完成させることに対して発注者が報酬を支払う契約方式である請負契約が一般的である。請負契約にも種々の方式があるが,もっとも多いのは一式請負である。契約時に全体請負金額や全体工期などを決めておき,それらの条件に従って工事を完成させ,すべてが完成してから施主に引き渡す方式である。工事契約時点で工事数量が不明確な場合には,工事項目ごとに単価だけを決めておく方式をとることがあるが,これを単価請負という。工事内容の中に不確定要素が多い場合にはいわゆる請負契約がむずかしいので,実費精算方式にすることもある。この場合,一定の比率の正当な報酬(利益)を支払うように規定しておかなければならない。
工事契約を行うにあたっては,工事請負契約書,工事請負契約約款,設計図書(設計図,仕様書)が必要である。〈建設業法〉によれば,工事請負契約書には,(1)工事内容(工事名,工事場所),(2)請負代金の額およびその支払方法,(3)工事着手の時期および工事完成の時期,(4)天災その他の不可抗力による損害の負担,(5)各当事者(施主,施工者)の履行の遅滞その他債務不履行の場合の遅延利息および違約金,(6)契約に関する紛争の解決方法の内容が必要とされている。契約書に施主と施工者がおのおの記名押印したときに契約が成立し,契約書は2通作成し,各自1通を保管しておく。
どの工事にも共通するような契約内容を整理してまとめたものが工事請負契約約款である。施主,施工者,監理技師の義務・権限や品質保証について詳細に規定してある。契約約款にも種々のものがあるが,民間工事では四会連合(日本建築学会,日本建築協会,日本建築家協会,全国建設業協会)協定の〈工事請負契約約款〉が広く用いられている。
→請負
執筆者:松本 信二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報