脊椎(せきつい)動物の発生において、外胚葉(がいはいよう)に働きかけて中枢神経系への分化を引き起こし、自らは頭部中胚葉、脊索、体節へと分化する部分で、初期発生における形態形成の中心となる。オルガナイザーともいう。両生類と円口類では原口背唇部と原腸蓋(がい)、硬骨魚類では胚盤葉後縁および原腸蓋、鳥類と哺乳(ほにゅう)類では原条前方域が形成体としての能力をもつ。ドイツの動物学者シュペーマンとマンゴールドHilde Mangold(1898―1924)は、イモリの初期原腸胚の原口背唇部をほかの胚の腹方に移植し、移植体自身は正常発生同様に陥入して原腸を形成し、脊索と体節に分化すること、宿主の外胚葉は神経板を形成して中枢神経系と感覚器官に分化することを観察した。こうして宿主の腹方には移植された原口背唇によって二次胚が生じたわけで、シュペーマンはこの移植体を形成体、形成体の外胚葉に対する作用を誘導とよんだ。のちには、胚発生においては形成体における誘導のみならず、各器官の形成においても種々のレベルの誘導現象が存在することが明らかになったため、形成体の誘導はとくに第一次誘導とよばれるようになった。鳥類についてはイギリスの動物学者ウォディントンが形成体の部域を明らかにした。形成体の誘導作用の本質については膨大な研究がなされ、核タンパク質やタンパク質が重要であると考えられているが、生体内での形成体の働きについては不明の部分が多い。形成体は動物胚の初期発生において第一義的な重要性をもつので、その性質の究明は現代発生学の最重要課題の一つである。
[八杉貞雄]
オーガナイザーともいう。動物発生学の用語。両生類の卵は受精すると分裂を重ねやがて中腔の胞胚となる。さらに発生が進むと胞胚の植物極側の1ヵ所で,表層の組織が内側に陥入をはじめ口唇状の原口blastoporeができる。原口の上唇部は陥入すると脊索や中胚葉を形成するほか,隣接する外胚葉を神経板neural plateに誘導する。神経板は神経管neural tubeを経て脳,感覚器官,脊髄などを形成する。一方,原口上唇部を除去すると胚は正常に発生しないし,また,それを移植された他の初期囊胚には第2次の神経管が付加的に形成される。このように,原口上唇部は未分化な胚に個体の中軸器官系を形成させる作用を保有し,形成体と呼ばれる。原口上唇部をとくに第1次形成体というのに対し,他の組織の形成を誘導する第2次,第3次などの形成体がある。形成体はイモリの胚でH.シュペーマンとH.マンゴルト(1924)がはじめて発見したものであるが,脊椎動物の胚には普遍的にこのような胚域が存在すると理解してよい。
→発生
執筆者:江口 吾朗
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「オルガナイザー」のページをご覧ください。
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…一方,鳥類および哺乳類においては,胞胚に相当する胚盤葉(鳥類)または内部細胞塊(哺乳類)の細胞がまず内外2層に分かれ,続いてその外層(予定外胚葉と予定中胚葉)に原条primitive streakとよばれる細長い肥厚部が出現し,そこから多数の細胞が両層の間隙(かんげき)(胞胚腔に相当する)にこぼれ落ちることによって,三つの胚葉が分化する(図3‐d)。 この原条の前方域および原腸蓋は形成体organizerとよばれ,まもなくその部位では活発な形態形成運動がくり広げられる。この細胞群は胚の中では最も早く組織分化を起こし,中でもその中心をなす予定脊索部は胚体の正中線上に位置し,みずからは急速に前後に伸長して棒状の支持器官に発達しながら,上方に接する外胚葉には神経管の,また左右に接する中胚葉には体節の形成を誘導する(図4)。…
…このように胚のある部分が作用系として他の部分になんらかの刺激を与え,その形成可能性の実現を誘発することを誘導という。たとえばイモリ初期囊胚の原口背唇部は,他の初期囊胚に移植されると陥入して脊索や中胚葉に分化するが,一方では形成体(オーガナイザー)としてそれに接する宿主胚の外胚葉に神経管の形成を誘発する。 目の水晶体は頭部表皮外胚葉からできてくるが,誘導現象はこの過程を明らかにしたH.シュペーマンによって1905年に発見された。…
※「形成体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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