シュペーマン(読み)しゅぺーまん(英語表記)Hans Spemann

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シュペーマン」の意味・わかりやすい解説

シュペーマン
しゅぺーまん
Hans Spemann
(1867―1941)

ドイツの動物発生学者。シュトゥットガルトで生まれ、ウュルツブルク大学のボベリTheodor Boveri(1862―1915)の下で発生学を学んだ。ロストック大学教授、カイザー・ウィルヘルム研究所(現、マックス・プランク研究所)部長、フライブルク大学教授を歴任した。両生類の胚(はい)を用い、結紮実験(けっさつじっけん)(毛や糸で縛り、その両側の物質移動など相互の影響を抑圧する実験)、あるいは自ら考案製作したガラス製微細外科手術器具を用い、巧妙かつ精密な欠損実験、移植実験を行い、発生の仕組みに関する数々の事実を明らかにした。ワイスマンの生殖質理論を否定した両生類初期胚の結紮実験、カエル胚の眼杯と水晶体の相互関係を示す実験など、けっして疑点を残さない結論に至る一連の諸結果は並はずれた彼の資質を示すものであるが、とりわけその名を不朽にしたのは形成体発見である。マンゴールド夫人Hilde Mangold(1898―1924)の協力の下に、原口背唇部を他の胚の本来は胴の皮膚になる部分に移植し、ここに二次胚を形成させた。こうして、動物の胚は、形成体により秩序ある形態と機能をもった体に編成されることを明らかにした。これら業績とともに忘れてならないのは、その門下から優れた発生学者を輩出させ、20世紀の発生学を方向づけたことである。1935年に「胚の発生における誘導作用の発見」によりノーベル医学生理学賞を受賞した。

[竹内重夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シュペーマン」の意味・わかりやすい解説

シュペーマン
Spemann, Hans

[生]1869.6.27. シュツットガルト
[没]1941.9.12. フライブルク
ドイツの発生学者。ウュルツブルク大学で,T.ボベリに師事する。ロストク大学教授 (1908) ,カイザー・ウィルヘルム研究所生物学部長 (14) ,フライブルク大学教授 (19) 。形成体 (オルガナイザー ) の概念を打立て,実験発生学に新時代を開いた。実験を通じて発生の機構を解明しようという目的から,1902年に,毛髪イモリの胚を縛り2つの半球に分けて培養し,胚の特定部位を含む半球のみが正常な発生を継続することを発見,発生を誘導する役割をになう特定の領域が胚に存在する可能性を考えた。これを直接的に実証するため,胚の一部を切取って別の胚に移植する技術を開発し (18) ,一連の移植実験を行なった末,24年に助手の H.マンゴルトとの共同研究によって,胚より原口背唇部を切出して別の胚に移植すると移植片を中心として宿主胚の組織の中で発生が進行することを明らかにした。発生を誘導する機能をもつことが立証された原口背唇部は形成体ないし編制原と名づけられた。彼が創始した胚を対象とした移植技術と,形成体による誘導の概念とは,実験発生学の発達に大きく影響し,それ以来,形成体による誘導現象の機構解明が発生学の中心課題となった。形成体発見の功績によって,35年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android