心の病気の特徴(読み)こころのびょうきのとくちょう

家庭医学館 「心の病気の特徴」の解説

こころのびょうきのとくちょう【心の病気の特徴】

◎心の病気とは
◎心の病気の症状
◎どのように治すのか

◎心の病気とは
 心はどこにあるのでしょう。脳のはたらきをもとにしていることは疑いありません。しかも科学進歩はめざましく、これまでブラックボックスといわれていた脳の機能がしだいに明らかにされてきました。それではすべてを脳に還元できるかというと、まだまだわからないことがたくさんあります。
 心の正常と異常は、どこで線を引くのでしょうか。はっきりした異常は誰の目にもわかりますし、誰でも少しばかりはずれたところをもっています。どこからを病気と考えればよいのでしょう。
 これらの疑問に、精神医学はまだ十分な答えを用意していません。心の病気の分類も、ものの見方によってさまざまです。ここではドイツの精神病理学者K・シュナイダーの考えをもとに精神障害を分けてみます。彼は、
(1)正常からの偏(かたよ)り
(2)病気
 (a)脳やからだに原因のあるもの
 (b)今のところ原因が見つかっていないもの
と分けています。
 正常からの偏りとみなしうるものには、精神遅滞(せいしんちたい)、人格障害(じんかくしょうがい)、異常体験反応(いじょうたいけんはんのう)(神経症(しんけいしょう))が含まれ、これらはどんなに重くても病気ではなく、正常な心にそのまま切れ目なくつながっていきます。
 病気とは、このつながりが断たれ、本来のその人なりの心の発展が折れ曲がってしまうことで、原因の多くを脳やからだの障害(体因性(たいいんせい))に求めることができます。実際に原因が知られているものに、さまざまな脳の病気(形態異常、外傷炎症腫瘍(しゅよう)、変性、血管障害など)、からだの病気(内分泌(ないぶんぴつ)、代謝疾患など)、アルコールや薬の中毒、お年寄りの認知症、てんかんなどがあります。
 今のところ、原因が見つかっていない病気(内因性(ないいんせい))は、気分障害(躁(そう)うつ病)と統合失調症の2つです。しかし、脳内の物質レベルの異常を示す研究成果がそろいつつあり、近い将来の原因解明が期待されています。

◎心の病気の症状
 人の心は全体でひとつのまとまりをもっています。心の病気はどれも、その全体が病むのですから、ばらばらにすることはできません。ここでは理解しやすくするために、いくつかの側面に分けて、症状をみていくことにします。
●意識
 意識がはっきりしているとは、注意が行き届き、自分や周囲のようすをはっきりつかんでいることです。意識とは、すべての心の動きをのせている舞台のようなものです。意識の明るさが減ると、舞台の照明が暗くなるように、あらゆる精神活動が落ちてきます。真っ暗になると昏睡(こんすい)ですが、その前の少しぼんやりしたあたりでは、ないものが見えたり(幻視(げんし))、日時や状況をとりちがえたり(失見当(しつけんとう))、不安で落ち着かなくなったりします。一見まともな応答をしても、後になると覚えていません。意識の障害は、脳やからだの病気、手術の後、てんかん、アルコールや薬の中毒などによくみられます。
●知覚
 対象を誤って知覚することを錯覚(さっかく)、何もないのに知覚することを幻覚(げんかく)といいます。幻覚には五感に応じて幻視(げんし)、幻聴(げんちょう)、幻嗅(げんきゅう)、幻味(げんみ)、幻触(げんしょく)などがあります。意識の障害では錯覚や幻視が多く、統合失調症では声やことばの幻聴がみられます。
●思考
 思考の流れは、躁状態や中毒では速く、うつ状態では遅く、てんかんではくどくなります。統合失調症では筋道がつながらず(連合弛緩(れんごうしかん))、まとまりが悪く(支離滅裂(しりめつれつ))、流れが中断(途絶(とぜつ))します。
 不合理な内容の考えや語句を、意に反して考えられずにいられない(強迫思考(きょうはくしこう))で、不安を和らげようと確認や動作をくり返す(強迫行為(きょうはくこうい))のは強迫性障害にみられます。
 誤った確信、病的な思いこみを妄想(もうそう)といいます。なにげない出来事を自分に結びつけてしまうこと(関係妄想(かんけいもうそう))が多く、どんなに説得してもとけませんが、おかれた状況から理解できる場合もあります。内容から被害妄想(ひがいもうそう)、誇大妄想(こだいもうそう)、微小妄想(びしょうもうそう)などがあり、統合失調症、パラノイア(強固で体系的な妄想を持ち続ける妄想疾患)、気分障害、認知症などにみられます。
●記憶
 情報の貯蔵期間から長期記憶(ちょうききおく)と短期記憶(たんききおく)、内容によって、身についた技術習慣の手続(てつづ)き記憶(きおく)、学んだ知識の意味記憶(いみきおく)、人生の思い出のエピソード記憶(きおく)などいろいろな記憶があります。
 一方、お年寄りが新しいことを覚えられないのは記銘力低下(きめいりょくていか)といいます。事故や心理的な理由などから、あることを思い出せないのは健忘(けんぼう)といいます。
●知能
 発達過程で知能が開花しなかった場合は精神遅滞(せいしんちたい)といい、脳の損傷で知能が失われた場合を認知症と呼んでいます。おもに心理的な原因(心因性(しんいんせい))から応答がちぐはぐで、子どもっぽくなったりすることを仮性(かせい)認知症と呼ぶことがあります。
●感情
 気分障害(躁うつ病)では、気分が高ぶったり(気分高揚)、滅入(めい)ったり(うつ気分)します。境界例(きょうかいれい)(コラム「境界例」)や統合失調症の初期には気分が変わりやすく、進行した統合失調症では感情の起伏がなくなり、無感動になります。
●意欲
 人はわいてくる欲動(よくどう)(食欲、性欲、権力欲、名誉欲など)にかられて活動します。欲動に方向を与え、健全な行為を促すのが意志の力です。気分障害(躁うつ病)では、意欲がありあまってはめをはずしたり、元気がなく何もやる気がおきなくなります。脳(前頭葉(ぜんとうよう))の病気や統合失調症ではエネルギーはありそうなのに、目的にむかって発せられないようにみえます。境界例では意志のコントロールが悪く、ささいなきっかけで激しい行動をおこします。
●自我
 私たちはふだん、自分が自分であるなどとあらたまって意識しているわけではありません。うつ状態や疲労時には自分自身や周囲の現実感がなく、膜(まく)を隔てたような違和感(離人症(りじんしょう))を覚えることがあります。
 また、自分が2人になる(二重身(にじゅうしん)、二重人格(にじゅうじんかく))、自他の区別がつかなくなること(変身妄想(へんしんもうそう)、つきもの妄想(もうそう))も自我の異常です。統合失調症では別の力で動かされる、考えや意志を外から支配されるさせられ体験(たいけん)がおこります。
 こうした異常や症状があるからといって、ただちに病気とはかぎりません。軽いものは誰にも経験があり、自分の心の奥を探ってみると、われながら理解しがたい事柄はいくつも見つかります。精神障害は、もともと人間の内部にある考えとも気分とも意欲ともつかない、これらのまじり合った未分化な要素が、部分的に大きくなったりゆがんだり、形を変えて外に現われたものともいえます。
 心の健康とは、こうした不可解で矛盾に満ちた内面の要素をもたないことではありません。むしろ目をそむけずに、それらをうまくコントロールして、バランスよく現実を生きることにあると思います。

◎どのように治すのか
 体因性のものは、内科治療や手術によってからだの機能が回復すると、精神症状もよくなります。
 心因性と内因性の精神障害には、薬と精神療法が治療の2つの柱です。これをどのようにバランスよく組み合わせるかが治療のポイントになります。脳機能の解明と並んで、近年の薬の進歩にはめざましいものがあり、これまでむずかしかった症状や病気にも光明がみえてきました。
 しかし、今でも「心を物質でコントロールされる」「薬づけになる」など、薬に抵抗を覚える患者さんが少なくありません。もちろん薬は万能ではありませんが、心の病気は気のもちようで治すなどという考えは、過去の話になりつつあります。
 なお、心の病気の治療で用いられる薬については「向精神薬のいろいろ」を、精神療法については「精神療法のいろいろ」を参照してください。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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