心血管造影検査

内科学 第10版 「心血管造影検査」の解説

心血管造影検査(検査法)

心血管造影法とは,X線装置と造影剤(ヨード造影剤)を使用して心臓または血管を撮影し,形態および機能を評価する検査法である.通常は造影剤注入のためのカテーテルを血管(動脈)内に刺入して侵襲的に行われる.近年,MRI(磁気共鳴法)を用いてヨード造影剤ではなくガドリニウム(Gd)造影剤を用いて心血管画像を評価できるようになったが,これは心血管造影法とはよばずMRアンギオグラフィ(MR angiography,MRA)とよばれる.心血管造影検査に含まれるものとして,左室造影,右室造影,冠動脈造影,大動脈造影,肺動脈造影,末梢動脈造影,末梢静脈造影などがある.末梢血管造影の場合は,DSA(digital subtraction angiography)の手法を用いてノイズを除去することができる.
(1)左室造影法(left ventriculography)
a.目的・方法
 左室造影は,左室機能,局所壁運動,および僧帽弁機能の評価を目的として心臓カテーテル室で実施される検査である.pigtailカテーテルを左室内に挿入し,呼吸停止中に25~35 mLの造影剤をインジェクターにより左室内に注入すると同時にX線シネ撮影を行う.通常,2方向撮影なら右前斜位(right anterior oblique: RAO)30度と左前斜位(left anterior oblique:LAO)60度,1方向撮影ならRAO30度の撮影を行う.
 左室造影の長所は,左室駆出率や左室容積の定量的測定の精度や再現性が良好であること,同一検査時に左室拡張末期圧などの血行動態測定や冠動脈造影を併せて実施できることがあげられる.一方,欠点としては,侵襲的であること,計測時に心内膜面をトレースする必要があること,造影剤が腎毒性を有すること,検査コストが高いことなどがあげられる.
b.局所壁運動評価
 正常の左室はラグビーボール型で,心収縮により心内膜面がほぼ均等に内方へ向かって動く(図5-5-57).左室の局所壁運動解析には定性的評価と定量的評価とがあり,一般診療では定性的評価が用いられる.定性的評価は,図5-5-58に示す左室造影像の各局所セグメントにおいて,拡張末期(収縮の開始)から収縮末期(収縮の終了)までの内方運動を視覚的に評価することにより,収縮異常(asynergy)の有無を評価する.収縮異常は,収縮低下(hypokinesis),無収縮(akinesis),奇異性運動(dyskinesis)に分類される(図5-5-57).奇異性運動とは,左室局所心筋が収縮期に本来とは逆の外方運動を示すことを指す.局所収縮異常は心筋梗塞で認められることが多く,前壁中隔心筋梗塞ならセグメント2,3,6,下壁心筋梗塞ならセグメント4,5,側壁心筋梗塞ならセグメント7の壁運動が低下する. 定量的評価として現在最も頻用されているのはセンターライン法である.これは左室の拡張末期辺縁と収縮末期辺縁の中点の集まりを仮想のセンターラインとし,センターラインに直交する100本のセグメントの長さ(収縮期の移動距離)により局所収縮を評価する方法である.このほか,左室辺縁から左室中心点や左室長軸へ向かう線分の収縮期短縮率を評価する方法がある.
c.心機能計測
 左室造影像から左室容積を求めて左室機能を評価することができる.一般的には左室を回転楕円体とみなしてarea-length法を用いる.回転楕円体の長軸をL,短軸をDとすると,左室容積(V)は,

となる.いま,左室造影RAO像の面積をAとすると,A=π×L×D/4であるから,D=4A/(πL)を上式に代入すると,V=8A2/(3πL)により左室容積が求まる.近年の左室造影解析用ソフトウェアでは,左室造影像の辺縁をトレースした後に心基部から心尖部への長軸を指定することにより,左室容積を算出できる.
 通常,拡張末期像(左室容積が最大となるフレーム)と収縮末期像(最小となるフレーム)をトレースして左室容積および駆出率を求める.左室造影法から算出できる心機能指標を表5-5-12に示す.同時に計測した圧指標と合わせて心血行動態評価を行う.
d.弁機能評価
 左室造影により収縮期に左室から左房へ向かう僧帽弁逆流,すなわち僧帽弁閉鎖不全症を評価することが可能である(図5-5-59).左房へ流入する造影剤のジェットの太さや左房の濃染の程度により僧帽弁逆流の重症度を4段階に分類する(Sellers分類,表5-5-13).このほか,左室から右室への造影剤の流入を確認することにより,心室中隔欠損症や心室中隔穿孔を診断できる.
(2)大動脈造影法(aortography)
 大動脈弁直上の上行大動脈基部においたカテーテル先端から造影剤を注入することにより,大動脈弁機能(大動脈弁閉鎖不全症)および上行大動脈基部の情報を得る(図5-5-60).僧帽弁逆流の場合と同様に,大動脈から左室へ流入する造影剤のジェットの太さや左室の濃染の程度により大動脈弁逆流の重症度を4段階に分類する(Sellers分類,表5-5-13).このほか,大動脈弓部や腹部大動脈で造影剤を注入し,大動脈および分枝の形態(拡張病変,狭窄病変)を評価する.
(3)心血管造影法の特徴と合併症
a.特徴
 心血管造影法は,CTやMRIと比較して解像力にすぐれ,また診断の即時性がある.侵襲的である点は弱点であるが,逆に心血行動態(特に心血管内圧)測定やカテーテル治療を同時に実施することが可能である点は大きな長所である.一方,CTやMRIは血流が途絶した血管や血管壁・血管周囲の組織も描出できるのに対し,心血管造影法は血流のある血管の内腔しか描出できないという弱点がある.
b.合併症
 心血管造影法の合併症として,造影剤アレルギー(アナフィラキシーショック),造影剤による腎障害(腎不全),血栓や空気による塞栓症(脳塞栓,冠動脈塞栓,末梢動脈塞栓),カテーテルやガイドワイヤーによる動脈穿孔(腹腔内出血,後腹膜出血),穿刺部合併症(後出血,血腫,動静脈瘻)などがある.特に腎機能低下患者では造影剤による腎障害を防止するために,検査前から生理食塩水による容量負荷を行うとともに造影剤使用量を最小にとどめる.左室造影に特有の合併症として,心室性不整脈(心室頻拍,心室細動),造影剤の心筋内注入などがある.[後藤葉一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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