劇症肝炎(読み)ゲキショウカンエン(その他表記)Fulminant hepatitis

デジタル大辞泉 「劇症肝炎」の意味・読み・例文・類語

げきしょう‐かんえん〔ゲキシヤウ‐〕【劇症肝炎】

もっとも重い急性肝炎。肝細胞の障害が急激かつ広範に起こり、肝不全となって昏睡こんすいに陥り、死亡することが多い。

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内科学 第10版 「劇症肝炎」の解説

劇症肝炎(急性肝不全)(劇症肝炎・亜急性肝炎)

劇症肝炎および急性肝不全の概念
 急性肝不全(acute liver failure)とは急激かつ高度の肝細胞機能障害に基づいて肝性昏睡をはじめとする肝不全症状をきたす予後不良の疾患群である.急性肝不全は症候群であり,種々の原因によるものを含む(表9-3-1)が,劇症肝炎(fulminant hepatitis)は,急性肝不全のうちウイルス性肝炎,薬物アレルギー性肝炎,自己免疫性肝炎(急性発症)を原因とするものに限定される.日本ではウイルス性が大多数と考えられてきたことから,これまで劇症肝炎が急性肝不全の代表として扱われてきた経緯がある.
診断・病型分類と類縁疾患
 症候群としての急性肝不全についてはTreyらの定義が広く普及している.すなわち,重篤な肝障害の結果,発症から8週以内に脳症を発現した状態で,基本的には回復する可能性のある状態をいう.日本では,この定義に準拠して1982年に劇症肝炎の診断基準が定められ,これを改訂する形で2011年,表9-3-2に示す急性肝不全の定義が定められた.この定義では,「高度の肝機能障害」の客観的指標として,蛋白合成能を表すプロトロンビン時間(prothrombin time:PT)を採用し,PT 40%以下またはPT INR 1.5以上を示す急性肝障害を急性肝不全と定めている.従来の劇症肝炎は,肝炎による昏睡型急性肝不全に相当する.
 昏睡型の急性肝不全の予後は発症あるいは黄疸の発現から肝性昏睡の発現までの期間により異なることが知られており,この期間によっていくつかの臨床病型に分けられている.わが国では劇症肝炎の全国集計を基に,初発症状から昏睡までの期間が10日以内の急性型と11日以上の亜急性型に分類している(表9-3-2).発症-昏睡期間のさらに長い遅発性肝不全は,きわめて予後不良で,急性肝不全の類縁疾患とされる.
頻度
 わが国での臨床統計は,劇症肝炎に限られてきたが,発生頻度は,急性肝炎全体の約2%といわれている.成因によって異なり,A型肝炎では0.14~0.35%,B型肝炎では1~4%,いわゆる非A非B型肝炎では2.3~4.7%に昏睡発現(劇症化)すると報告されている.
病理・病態生理
 急性肝不全の基本的な病態は肝細胞機能障害,肝再生不全,肝性脳症である.急激かつ高度の肝細胞機能障害の原因は病理組織学的には広範性あるいは亜広範性の肝細胞死による場合がほとんどで,肉眼的に肝は赤色肝萎縮あるいは黄色肝萎縮を呈する(図9-3-1).しかし,急性妊娠性脂肪肝やReye症候群では肝細胞死はほとんど認められず,細胞死を伴わない肝細胞機能障害でも急性肝不全は起こりうることを示している.また,肝は本来,再生能の強い臓器であるが,急性肝不全においては肝再生障害がみられ,予後を悪くしている重要な要因と考えられている.さらに,肝性脳症や脳浮腫は急性肝不全の本質的な病態であり予後と深い関連がある.
1)肝細胞死
ウイルス肝炎における肝細胞障害機構として,感染細胞に表出されるウイルス抗原を,これに特異的な細胞傷害性T細胞が攻撃することが想定されている.
 通常のウイルス性急性肝炎では,このような機構で巣状の壊死が形成されると考えられるが,急性肝不全においてこの機構が広汎肝細胞死にまで至る機序として,被感染者(宿主)の過剰な炎症・免疫反応やこれに伴う循環障害が想定されている.一方,ウイルス側の要因として,ウイルス遺伝子の変異による抗原性あるいは増殖力,蛋白転写活性の変化が想定されている. 欧米に多いアセトアミノフェン肝障害は典型的な薬物中毒性である.肝の抱合能をこえたアセトアミノフェンの処理のため,還元型グルタチオンが枯渇し,フリーラジカルによる肝細胞傷害が起こる.したがって,この肝障害は薬物の用量に依存する.
2)肝再生不全
生体肝移植ドナーにみられる正常肝の再生では,正常の成熟肝細胞の増殖のみで再生が完了するが,重症肝炎の再生には肝前駆細胞が動員されるといわれている.組織学的にみると,軽症肝炎に比し重症肝炎では増殖細胞の割合は少なく,肝再生不全の状態にあると考えられている.また,急性肝不全に対し自己肝を温存して部分肝移植を行い肝不全を脱却しても,自己肝の再生はきわめて緩徐であることが示されており,肝再生不全は,広汎肝細胞死と並ぶ急性肝不全の重要な病態といえる.
3)肝性脳症,脳浮腫
: 肝性脳症の機序としては,アンモニアによる神経細胞内のエネルギー代謝の抑制とともに神経伝達障害が原因と考えられている.とくに急性肝不全においてはγ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid:GABA)共役ベンゾジアゼピン受容体に結合する物質が脳内に増加していることが知られ,これがGABAの作用を増強して神経機能を抑制する方向に作用すると考えられている.また,脳浮腫の発症機序はいまだ十分に解明されていないが,血液脳関門の通過性の亢進という説と,アンモニウムグルタミンなどの蓄積による浸透圧効果が星状膠細胞に腫脹をもたらすという説,あるいはNa/KATPase活性の低下によるという細胞障害説などがある.
成因
 日本の劇症肝炎全国集計における成因を臨床病型別に示す(表9-3-3).B型肝炎ウイルスが最も多く,次いで,成因不明,薬物,自己免疫性の順である.急性型ではB型が半数以上を占め,亜急性型では成因不明が最も多い.自己免疫性肝炎は本来慢性肝炎の病型をとるが,まれに急性に発症し劇症肝炎に至るものもある.急性発症の自己免疫性肝炎は,典型的な臨床所見を示さないことも多く,通常の方法で成因診断できない場合も多い.また,薬物性の中には市販の健康食品や健康補助食品なども多く含まれており,原因として特定されずに成因不明の中に埋没している例も多くあると考えられている. したがって成因不明例の中には,相当数の薬物性肝障害や自己免疫性肝炎が含まれていると推定される.
臨床所見
 発症は急性肝炎と同様に,突然,全身倦怠感,体温変動などの感冒様症状や食欲不振,悪心,嘔吐などの消化器症状が出現し,黄疸と意識障害が急速に進行して短期間のうちにきわめて重篤な状態に陥る.他覚的には,肝性口臭,肝の萎縮を反映して肝濁音界の減少・消失,腹水の出現がみられる.急性肝不全でみられる身体所見とその頻度を表9-3-4に示すが,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)の項目は予後不良の徴候といわれている.
検査成績
 急性肝不全における一般臨床検査所見は基本的には急性肝炎と同様で,肝逸脱酵素の上昇,血清総ビリルビンの上昇などがみられる.そのほか蛋白合成能障害により血清アルブミンコリンエステラーゼや凝固因子が低下,ビリルビン抱合能低下により直接/総ビリルビン比の低下,尿素サイクルの障害により血清尿素窒素の低下と血漿アンモニアの上昇,糖新生低下とインスリン取り込み低下により低血糖,合成能の低下による血清コレステロールの低下などがみられる.わが国の全国集計における昏睡型急性肝不全の臨床検査成績を表9-3-5に示す.検査値は臨床病型により大きく異なり,亜急性型では急性型に比しトランスアミナーゼの値が高くなく,プロトロンビン時間が比較的保たれる一方,血清総ビリルビンの値が高いという特徴を示す(表9-3-5). 腹部超音波検査,腹部CT検査(図9-3-2)では広範な肝細胞死を反映して典型例では著明な肝萎縮や腹水を認めることが多い.また,胆囊は胆汁流量の低下から内腔が萎縮あるいは虚脱し,炎症の波及あるいはリンパのうっ滞から壁肥厚がみられる.
 昏睡型の脳波検査では高振幅徐波(デルタ波)および特徴的な三相波がみられる.
治療
 昏睡型の急性肝不全に対する治療法はこれまで種々のものが試みられてきたが,比較対照試験で単独で救命率を向上した治療法はなく,肝移植が生命予後を改善する唯一の治療法であると考えられている(Masら,1997).わが国では,急性肝不全の約25%に肝移植が施行されているが,そのほとんどは生体肝移植であった.2010年の臓器移植法の改正以来,脳死の臓器提供が増えつつあり,最も緊急度の高い急性肝不全では脳死移植が増えると予想される. しかし,急性肝不全は基本的には可逆的(回復可能)な状態であり,内科的治療により救命される可能性をもっている.したがって,急性肝不全の治療は,表9-3-6に示すような内科的集中治療により救命を目指すと同時に,タイミングを逸することなく肝移植ができるよう並行して準備を進めるというのが基本的な方針となる.
 内科的治療法では,厳重なモニタリングと一般的治療のうえに,肝炎の沈静化,人工肝補助と合併症予防・治療を行い,肝の十分な再生を待つのが基本的な方針である.このうち人工肝補助では,血液濾過透析(HDF)を中心にして,必要に応じて血漿交換(PE)を併用する.前者ではおもに肝の解毒機能の代償,後者では肝合成能の代償を目的として行う.
予後
 昏睡型急性肝不全の予後は,臨床病型により大きく異なり,内科的救命率は急性型で30~40%,亜急性型で10~20%である.一方,肝移植の救命率は,わが国の生体部分肝移植の成績で10年生存率68.7%と内科治療を大きく上回っている.しかし,内科的治療で救命された場合はほとんど後遺症がなく通常の生活に戻ることができるのに対し,肝移植を受けた場合は免疫抑制薬の服用など日常生活に大きな制限が生じる.したがって,肝移植の適応は慎重であるべきで,その適応基準では高い予後判別の精度が要求される.わが国では,脳死肝移植を念頭に作成された肝移植適応ガイドラインが用いられてきたが,2011年より,新たなスコアリングシステム(表9-3-7)が定められ,肝性脳症発現時のスコア5点以上を移植適応と判断している.このシステムの特徴は,各点数における内科治療の救命割合が示されていることであり,これを参考に,患者およびその家族の判断で治療法を選択することができる仕組みになっている.[滝川康裕・鈴木一幸]
■文献
Mas A, Rodes J: Fulminant hepatic failure. Lancet, 349:1081-1085, 1997.
Naiki T, Nakayama N: Novel scoring system as a useful model to predict the outcome of patients with acute liver failure: Application to indication criteria for liver transplantation. Hep Res, 45: 68-75, 2012.
Sato S, Suzuki K: Clinical epidemiology of fulminant hepatitis in Japan before the substantial introduction of liver transplantation: an analysis of 1309 cases in a 15-year national survey. Hepatol Res, 30: 155-161, 2004.

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六訂版 家庭医学大全科 「劇症肝炎」の解説

劇症肝炎
げきしょうかんえん
Fulminant hepatitis
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

どんな病気か

 劇症肝炎とは、急性肝炎のなかでもとくに重症のもので、高度の肝機能不全(かんきのうふぜん)と意識障害(肝性脳症(かんせいのうしょう)または肝性昏睡(かんせいこんすい)と呼ぶ)を特徴とします。

 日本では、表1に示すような診断基準に従って「昏睡型の急性肝不全」を診断し、そのうち肝炎によるものが劇症肝炎の病名となります。

 診断するうえでの重要なポイントは、症状(発熱、かぜ様症状、倦怠感(けんたいかん)、食欲不振など)が現れてから8週(56日)以内に肝性脳症(意識障害)が現れること、肝機能の指標であるプロトロンビン時間が40%以下(正常は80%以上)を示すことです。

 さらに、肝性脳症の出現までの日数により、2つの病型に分けています。すなわち、10日以内に肝性脳症が現れる急性型、11~56日以内に肝性脳症が現れる亜急性型です。

 このように2つの臨床病型に分けたのは、両者の最終的な予後(生存するか、死亡するか)が異なることが最大の理由です。実際に、内科的な救命率(肝移植例を除く)は急性型30%、亜急性型20%です。

原因は何か

 図3に現在の日本の劇症肝炎の原因別頻度を示しました。ウイルス、薬物(アレルギー)、自己免疫性肝炎によるものが主な原因です。今なお原因不明の例も多くみられます。

 日本ではウイルスによるものが多く、しかもそのほとんどが肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型)です。B型肝炎ウイルスによるものが多く、D型は日本ではほとんどありません。慢性肝炎や肝硬変、肝がんの原因として有名なC型が劇症肝炎を起こすことは極めてまれです。

 薬物の中には、健康食品やサプリメントによるものも少なくありません。

症状の現れ方

 劇症肝炎に特徴的な症状は肝性脳症(意識障害)ですが、初期症状は通常の経過をたどる急性肝炎と何ら変わりはありません。前述したように発熱、かぜ様症状、倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐などが最初に現れ、尿の色が濃くなって黄疸(おうだん)に気づくようになります。

 意識障害出現までの日数はさまざまで、急性型と亜急性型がありますが、急性型のうち、肝炎様症状に続いて2~3日で出現する場合を超急性型と呼んでいます。

 亜急性型ではあまり症状がなく、徐々に黄疸や腹水が増加したあとに、急に意識障害が現れることもしばしばみられます。

 肝性脳症の程度は、昏睡度(こんすいど)分類(表2)に従って判定します。昏睡Ⅰ度の判定は専門家でも難しい場合があり、普段の言動との違いから家族の方が先に気づくこともあります。昏睡Ⅱ度になると自分の置かれた状況がわからなくなるため、誰が見ても異常と判断でき、Ⅲ度に進行すると興奮状態やせん妄状態となり、体動が激しくなります。Ⅳ度はいわゆる昏睡状態で、痛みの刺激にしか反応しなくなります。

検査と診断

 血液生化学検査では、肝機能検査、腎機能検査、血液凝固検査が行われます。とくにプロトロンビン時間の測定は必須ですが、肝臓で合成される蛋白質(凝固因子も含む)や脂質の状態を反映する検査項目(アルブミン、コリンエステラーゼ、コレステロール)、ビリルビン抱合能(総ビリルビンと直接型ビリルビンとの比)、ヒト肝細胞増殖因子も重要な検査項目です。

 血清トランスアミナーゼ(AST[GOT]、ALT[GPT])は肝機能障害の指標として有名ですが、劇症肝炎の診断には役立ちません。また、原因を探るために肝炎ウイルスマーカーも検査します。

 各検査値は、どの時点で医療機関を受診したかで異なりますが、急性型と亜急性型では肝性脳症発現時の肝機能検査値に違いがみられます。

治療の方法

 劇症肝炎の内科的治療法を表3に示しました。基本的には、肝性脳症の改善を図り、破壊された肝細胞が再生されるまで人工肝補助(血漿交換(けっしょうこうかん)など)を行い、合併症(腎不全播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)、感染症、脳浮腫)の発生を防ぐことが重要です。

 人工肝補助は、肝細胞の広汎な壊死(えし)および肝機能の低下によって体内にたまった中毒性物質(アンモニアなど肝性脳症の原因となる物質)の除去と、不足した必須物質(凝固因子(ぎょうこいんし)など)を補充することを目的としています。

 原因ウイルスが明らかな例では、抗ウイルス療法も行われます。

病気に気づいたらどうする

 肝性脳症が出現したら、ただちに人工肝補助療法を開始しなければなりません。

 また、明らかな意識障害がなくても、先に述べた肝機能検査で著しい異常を認めた場合には、劇症肝炎へ移行する危険性があることを考え、肝臓専門医と相談しながら治療を行い、できるだけ早期に専門的な治療が可能な医療機関へ移送することが大切です。

滝川 康裕


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家庭医学館 「劇症肝炎」の解説

げきしょうかんえん【劇症肝炎 Fulminant Hepatitis】

◎死亡率の高い肝炎
[どんな病気か]
 急性の肝炎のうち、とくに肝細胞の破壊が急激に進んで肝臓の機能が維持できなくなり、黄疸(おうだん)の進行、肝性脳症(かんせいのうしょう)、腹水(ふくすい)など肝不全状態が出現した場合に劇症肝炎と呼ばれます。
 日本では、年間に約2000例発生しています。
 きわめて予後の悪い重篤(じゅうとく)な病気で、70~80%の人が死亡します。
[症状]
 急性肝炎の際に、黄疸に加えて吐(は)き気(け)・嘔吐(おうと)が持続し、だるさが強くなってくるときは、劇症肝炎の徴候として、注意が必要です。
 劇症肝炎になると、うわ言を言ったり、興奮・錯乱状態になって、わけのわからないことを言ったりします。
 さらに進行すると、昏睡(こんすい)状態におちいって目覚めなくなるなど、意識障害が悪化します(肝性昏睡(かんせいこんすい))。
[原因]
 急性肝炎の原因が、そのまま劇症肝炎の原因となりますが、ウイルス以外に薬剤性肝障害や肝臓の循環障害なども原因になります。
 ウイルス性の急性肝炎のなかでは、B型肝炎が比較的、劇症肝炎になりやすく(約1%)、A型肝炎では約0.1%とされ、C型肝炎ではきわめて少ないとされています。
 なお、肝硬変(かんこうへん)、肝細胞がんなどがあったり、慢性肝炎が急性悪化したりして劇症肝炎と同じ状態になることもありますが、この場合は、劇症肝炎とは呼ばないことになっています。
[検査と診断]
 急性肝炎では、肝細胞が壊される目安である血中の酵素(こうそ)のGOT、GTPが高値となりますが、1ℓあたり1万U以下であれば、肝炎の重症度とは関係しません。
 むしろ、黄疸の程度を表わすビリルビン値の持続的な悪化や、肝臓でつくられる血液凝固因子(けつえきぎょうこいんし)(血液をかため、出血を止める成分)の指標であるプロトロンビン時間(PT)の延長が劇症肝炎へ移行する重要な指標であり、PTが50%以下となるようであれば警戒が必要になります。劇症肝炎になれば、PTが40%以下となります。
 さらに、肝不全にともなって生じる精神状態の低下である肝性脳症(肝性昏睡(「肝性脳症(肝性昏睡)」))がⅡ度以上(傾眠(けいみん)、錯乱、せん妄(もう)、異常行動を示す)となれば、劇症肝炎と診断されます。
 その他、血液検査の血清(けっせい)アルブミン値、コリンエステラーゼ値、総コレステロール、アンモニア、白血球数(はっけっきゅうすう)、血小板数(けっしょうばんすう)、BUN値、超音波やCTなどの画像診断が診断の参考になります。
◎原因療法は試験段階
[治療]
 劇症肝炎はきわめて重篤な病気で、早期の発見と早期の治療開始が必要です。
 そして、劇症肝炎となれば、全身の管理と血漿交換(けっしょうこうかん)や人工肝補助装置(じんこうかんほじょそうち)を用いて時間を稼(かせ)ぐと同時に(「人工肝補助療法」)、原因の除去を行なうことが目標とされます。
●原因の除去
 薬剤性肝障害のときには、薬物を吸着して取り除いたり、ウイルス性の急性肝炎に対しては、ウイルスに対してインターフェロン療法が試みられたり、新しい抗ウイルス薬が用いられたりしていますが、これらはまだ試験的な使用の段階です。
[日常生活の注意]
 劇症肝炎は、急性の重症疾患であり、入院治療が必要となります。
 回復してからの退院後は、肝硬変(「肝硬変」)あるいは慢性肝炎(「慢性肝炎」)に準じた生活上の注意が必要となります。
 この病気は厚労省の特定疾患(とくていしっかん)(難病(なんびょう))に指定され、治療費の自己負担分の大部分は公費の補助が受けられます。
[予防]
 急性肝炎(「急性肝炎」)と同じ生活上の注意が必要となります。
 また、急性肝炎がすでにおこっているときには、劇症化するか否かに十分注意をし、もし劇症化するきざしがあるようであれば、肝臓専門医のいる病院で集中管理することが望まれます。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「劇症肝炎」の意味・わかりやすい解説

劇症肝炎
げきしょうかんえん

ウイルス肝炎や薬物性肝障害の経過中8週間以内に重症化し、急激に高度の肝機能障害と意識障害が起こる病気。1976年(昭和51)から厚生省(現、厚生労働省)の特定疾患(難病)に指定された。急性肝炎の1~2%が劇症肝炎に移行するとされ、日本では年間450人前後が発病している。

[恩地森一]

原因

原因は肝炎ウイルスが多く、そのなかでもB型肝炎ウイルス(HBV)と、原因不明であるものが多い。B型肝炎では変異株で劇症肝炎が発症することが多いとされている。ほかにはD型肝炎ウイルス、高齢者のA型肝炎、薬物としてはアセトアミノフェン、糖尿病用薬などがある。自己免疫性肝炎のなかには劇症肝炎として発症する例もある。急激に悪化する機構については解明されていない。B型慢性肝疾患の経過中に急激に高度の肝障害と意識障害が出現することがある。初感染による劇症肝炎よりも予後不良であり、抗ウイルス剤と免疫抑制剤による早急な治療が必要である。

[恩地森一]

症状

症状としては、急性肝炎の一般的な症状が顕著となるとともに、出血傾向、意識障害(肝性昏睡)、腹水や腎不全が出現する。経過の比較的に長いときには黄疸(おうだん)が高度となる。発症後11日以後に肝性昏睡が出現する劇症肝炎亜急性型では原因不明が40%を超えている。診断は、肝機能検査、意識状態の把握が重要である。血液凝固検査において、肝臓で産生される半減期の短いタンパクを測定するプロトロンビン時間が40%以下となる。予後は不良である。肝性昏睡が肝炎発症後10日以内に発症する劇症肝炎急性型は、A型肝炎やB型肝炎によることが多く、比較的予後が良い。

[恩地森一]

治療

抗ウイルス剤や免疫抑制剤による治療、血漿(けっしょう)交換、交換輸血、持続血液透析やその他の対症療法が行われている。消化管出血の予防としてH2ブロッカー(胃液の分泌を抑える薬)や、出血対策としてATⅢ製剤の使用も大切である。抗ウイルス剤としては、B型肝炎ウイルスにエンテカビル(逆転写酵素阻害剤)が使用されている。肝移植(肝臓移植)も治療として重要で、日本では生体肝移植がおもに行われている。劇症肝炎すべての救命率は約30%で、急性型では50%前後、亜急性型では20%以下と予後はきわめて悪いが、肝移植では80%近くの救命率がある。

[恩地森一]

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百科事典マイペディア 「劇症肝炎」の意味・わかりやすい解説

劇症肝炎【げきしょうかんえん】

急性肝炎の経過中,意識障害などの肝不全の症状が急激に起こり,ほとんどの場合は死亡に至る,予後不良の肝炎。B型肝炎に多くみられる。
→関連項目A型肝炎急性肝萎縮症交換輸血難病森亘

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「劇症肝炎」の意味・わかりやすい解説

劇症肝炎
げきしょうかんえん
fulminant hepatitis

肝炎のうち,発病当初から症状が急激に進み,8週以内に意識障害などの肝不全症状が出る,きわめて予後の悪いタイプの疾患。肝炎の原因はA型,B型,C型の各肝炎ウイルス,薬物中毒などがあるが,こうした分類とは別のものである。ウイルス性肝炎のなかではB,C型の発症が多い。なぜ劇症化するかはよくわかっていないが,感染したウイルスの毒性,患者の体質などが考えられている。著しい止血能の低下と意識障害の出現により確定診断される。治療法としては患者の血漿を新しいものに取替える血漿交換療法が中心であるが,消化管出血や脳浮腫対策も重要である。

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改訂新版 世界大百科事典 「劇症肝炎」の意味・わかりやすい解説

劇症肝炎 (げきしょうかんえん)

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栄養・生化学辞典 「劇症肝炎」の解説

劇症肝炎

 急性肝炎の中でも最も重症のもので死亡率も高い.

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世界大百科事典(旧版)内の劇症肝炎の言及

【肝萎縮症】より

…肝臓は成人では1300~1500gあり,体内では最大の臓器である。急性肝炎に引き続き劇症肝炎fulminant hepatitisが発症したとき,および高度に進行した肝硬変では,肝臓は著しく小さくなる(萎縮する)。これを肝萎縮症という。…

【肝炎】より

…肝臓の炎症性疾患。肝炎と名がつく肝臓の疾患には,ウイルス性肝炎(急性肝炎),劇症肝炎,慢性肝炎,ルポイド肝炎,アルコール性肝炎や薬物性肝炎などがある。肝炎は,(1)肝細胞の変性,壊死(肝細胞の破壊),(2)肝細胞の機能障害,(3)間葉系反応(細胞浸潤や繊維増生),(4)胆汁鬱滞(うつたい)(胆汁の排出障害,黄疸)などの組織変化の組合せで起こる。…

※「劇症肝炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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