恋う(読み)コウ

デジタル大辞泉 「恋う」の意味・読み・例文・類語

こ・う〔こふ〕【恋う】

[動ワ五(ハ四)]特定の相手に心ひかれて、その人を思い慕う。また、特別な人物や場所などを強く慕う。恋する。「亡き妻を―・う」「故郷を―・う」「昔を―・う」
[動ハ上二]本来は、時間的、空間的、心理的に離れてしまった対象に思いが残り、それに心ひかれて嘆き悲しむ意。上代助詞「に」をうけて、「…に恋う」の形で用いられた》
に同じ。
「我が背子に―・ふれば苦しいとまあらばひりひて行かむ恋忘れ貝」〈・九六四〉
季節や植物などを賞美する。めでる。
撫子なでしこがその花にもが朝なな手に取り持ちて―・ひぬ日なけむ」〈・四〇八〉
[補説]古くは上二段であるが、中世末期ごろから「千々のあはれは妻こふ鹿の音」〈松の葉・三〉のように四段に活用する例が見られる。また、現代でも「この祖母を恋いる事を忘れて」〈三重吉小鳥の巣〉のように上一段に活用する例がまれに見られる。
[類語]慕う偲ぶ思う

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「恋う」の意味・読み・例文・類語

こ・うこふ【恋】

  1. 〘 他動詞 ハ行上二段活用 〙
  2. 人・土地・植物・季節などを思い慕う。また、めでいつくしむ。
    1. [初出の実例]「君が目の恋(こほ)しきからに泊(は)てて居てかくや姑悲(コヒ)むも君が目を欲(ほ)り」(出典:日本書紀(720)斉明七年一〇月・歌謡)
    2. 「恩を思ふ人いかでか昔をこひざらむ」(出典:観智院本三宝絵(984)下)
  3. 異性(時には同性)に特別の愛情を感じて思い慕う。恋する。恋慕する。
    1. [初出の実例]「股長(ももなが)に 寝(い)は寝(な)さむを あやに な古斐(コヒ)聞こし 八千矛の 神の命(みこと)」(出典:古事記(712)上・歌謡)
    2. 「天地(あめつち)の極(そこひ)のうらにあが如く君に故布(コフ)らむ人はさねあらじ」(出典:万葉集(8C後)一五・三七五〇)

恋うの語誌

( 1 )上代では、ふつう「に」を上に伴う。「を」を伴うようになるのは中古からである。
( 2 )特殊な活用の例として、「中華若木詩抄‐中」の「天下を中興せんと思た風を恋ふこと」、「歌謡・松の葉‐三・のんやほぶし」の「千々のあはれは妻こふ鹿の音」などのように、四段活用型の連体形用例も散見する。
( 3 )現代では、まれに「改正増補和英語林集成」の「オンナヲ koiru(コイル)」や「小鳥の巣〈鈴木三重吉〉上」の「自分がこの祖母を恋ひる事を忘れて出てゐる間に」のように、上一段活用化した用例が見られる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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