家庭医学館 「骨髄移植の知識」の解説
こつずいいしょくのちしき【骨髄移植の知識】
白血病(はっけつびょう)(「白血病とは」)や再生不良性貧血(さいせいふりょうせいひんけつ)(「再生不良性貧血」)といった血液の病気は、骨髄(こつずい)の組織中にある造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)のはたらきが異常であるためにおこる病気です。
造血幹細胞のなかでも、もっとも未分化な全能性幹細胞は、赤血球(せっけっきゅう)と白血球(はっけっきゅう)(顆粒球(かりゅうきゅう)、リンパ球)すべてのもとになっている細胞で、これからリンパ球のもとになる幹細胞と、その他の血球のもとになる多能性幹細胞ができます。
これらの幹細胞に異常があると、さまざまな血液の異常(血球の異常)が生じてきます。これらの異常な幹細胞を殺してしまい、かわりに健康な幹細胞を注入して、骨髄で増殖させようというのが、骨髄移植です。
ですから、骨髄そのものを移植するのではなく、幹細胞の含まれている骨髄液(こつずいえき)を、移植を受ける人(レシピエント)の静脈から注入するだけです。
健康な骨髄液の採取は、提供者(ドナー)の腸骨に針を刺して行なうのがふつうです。
また、赤ちゃんと胎盤(たいばん)をつなぐへその緒(お)からは、幹細胞が豊富な血液がとれ、移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう)(「移植片対宿主病(GVHD)」)をひきおこす成熟したリンパ球もないので、骨髄液のかわりに使われています。ただし、少量しかとれないので、おもに子どもに使われます。
◎移植できる骨髄液
どのような骨髄液でも移植できるかというと、そうではありません。
さまざまな血球は、遺伝的にいくつかのタイプに分けることができ、それは幹細胞によって決定されています。
また、ヒトの組織には、自分の組織であることを自分のリンパ球に示すための目印(主要組織適合抗原(こうげん)、ヒト白血球抗原、HLAともいう)がつけられており、これにも特有のタイプがあります。
患者さんの体内に、ちがったタイプの血球や組織が入ってくると、患者さんのリンパ球など免疫(めんえき)機能を担当する細胞が、それを異物(抗原)ととらえて攻撃し、殺してしまいます。これを拒絶反応といい、移植は失敗してしまいます。
拒絶反応を防ぐには、主要組織適合抗原のタイプが同じ(HLAの型の一致)である必要があります。
さらに、血球のタイプが同じ(血球の大部分は赤血球なので、ABOなどの赤血球抗原型、すなわち血液型が一致していればよい)であることが望ましいのです。
この点では、自分の骨髄液がいちばんよいわけで、あらかじめ採取した骨髄液から異常な幹細胞を取り除いたうえで、体内にもどすという方法もあります。
しかし、一部の幹細胞に異常が生じたような場合はともかく、幹細胞がすべて異常になってしまうような場合には、この方法は使えません。
この点、家族は遺伝的によく似ていますから、家族のなかから、よいドナーが見つかることが多いのですが、もし見つからなければ、骨髄バンクに登録して提供を申し出ている人のなかから探すことになります。
◎移植の準備と移植後の処置
移植にあたっては、薬剤を使用したり、全身に放射線を照射したりして、異常な幹細胞を、完全に死滅させるようにします。
このため移植後は、免疫を担当する白血球が、移植されたもの以外ほとんどなくなってしまうので、細菌やウイルスなどの感染症にかかりやすくなります(日和見感染(ひよりみかんせん)(感染症とはの「日和見感染」))。
また、移植後に間質性肺炎(かんしつせいはいえん)(「間質性肺炎とは」)がおこることもあり、これらの病気を防ぐためには、あらかじめ抗生物質などの薬剤を使用するなどして、強力な予防的治療がなされます。
また、移植したドナーの骨髄液に成熟したリンパ球があると、レシピエントの組織を非自己であるとみなし、免疫的な攻撃を加える移植片対宿主病がおこり、致命的なことになりかねません。
これを防ぐには、移植する骨髄液から、そうしたリンパ球を完全に取り除いておかねばなりません。
◎骨髄移植の適応
以上のような事情から、骨髄移植を受けるには、レシピエントが、ほかに重い病気をもっていないこと、できれば50歳くらいまでであること、ドナーとHLA型が完全に一致することが必要です。
それには、まず家族からドナーを探すのが早く、また、移植片対宿主病もおこりにくいのですが、HLA型が完全に一致していれば、かりにABO血液型がちがっていても、移植は可能です。
骨髄移植の適応となる病気には重症の再生不良性貧血(「再生不良性貧血」)、慢性骨髄性白血病(「慢性白血病」)、急性白血病(「急性白血病」)、骨髄異形成症候群(こつずいいけいせいしょうこうぐん)(「骨髄異形成症候群」)、悪性リンパ腫(「悪性リンパ腫」)、多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)(「多発性骨髄腫」)、原発性免疫不全症(「原発性免疫不全症」)、ゴーシェ病などがあります。
しかし、これらの病気だからといって、すぐに骨髄移植を行なうわけではありません。さまざまな条件を考えて、慎重に判断する必要があります。
なお最近では、関節リウマチ(「関節リウマチ」)など、難病(なんびょう)(厚労省が指定する特定疾患(とくていしっかん))といわれるいろいろな自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)(免疫のしくみとはたらきの「自己免疫疾患とは」)にも、骨髄移植が有効であることがわかってきました。自分のリンパ球が自分の組織を敵(抗原)とみなす異常がおこっているため発病すると考えられ、そのようなリンパ球が生まれるのは、造血幹細胞の異常によるものと考えられるからです。
しかし骨髄移植は、患者さんに重い負担をかけ、おそろしい病気をひきおこすこともあり、また、むずかしい条件もあるので、よほど重くないかぎり、慎重に行なうべきです。
◎骨髄(こつずい)バンク
骨髄移植を受けようと考えたら、まず現在かかっている担当の医師に相談すべきですが、骨髄バンクでも相談にのってくれます。
骨髄バンクは、従来、ドナーもレシピエントもほとんど兄弟姉妹にかぎられていたため、骨髄移植ができずに亡くなる患者さんが多い状態を改善しようと、1991年に設立された組織です。正式には骨髄移植推進財団(こつずいいしょくすいしんざいだん)といいます。
2005年現在、自分の骨髄液を提供してもよい、あるいは、他人の骨髄液の提供を受けたいと骨髄バンクに登録した人は、23万2565人で、7017例の非血縁者間の移植が実際に行なわれています。
骨髄移植推進財団では、血縁でないドナーからの移植を希望する人の相談に応じ、「非血縁者間骨髄移植ガイドライン」が定めている基準に合うと、希望する患者さんの名前を登録してくれます。
これと提供を申し出た人の登録データをつき合わせて、いろいろな条件が一致すると、実際に移植へと進むわけです。