百科事典マイペディア 「塩酸イリノテカン」の意味・わかりやすい解説 塩酸イリノテカン【えんさんイリノテカン】 DNA合成阻害作用をもつ制癌(がん)薬で,商品名はカンプト注(ヤクルト本社発売),トポテシン注(第一製薬発売)。両社の共同研究によって開発され,1994年1月に製造承認,1995年9月に新たに効能が追加された。 肺癌,子宮頸癌,卵巣腫瘍,有棘(ゆうきょく)細胞癌(皮膚癌の一種),悪性リンパ腫(非ホジキン病),手術不能または再発の乳癌,結腸・直腸癌に効能・効果がある。 制癌薬のなかでも,とりわけ骨髄機能の抑制による白血球・血小板の減少,強い下痢,悪心,嘔吐(おうと)などの副作用が強い。臨床試験の段階で副作用が原因とみられる死亡は,55人にのぼっている。このため,厚生省は1994年4月,それまで非公開だった新薬の臨床試験データを公表するサマリーベーシス(SBA)の発行を始め,第1号として塩酸イリノテカンを扱った。これによれば,医師が患者の適性を確認していない例が多く,子宮癌では不適格な使用が35%を占めていた。 さらには,発売から3年間に投与された5445人のうち,副作用が原因と思われる死亡者は42人にのぼった。1997年7月,厚生省は緊急安全性情報を製薬元や医療機関に配布して,患者への十分な説明や,骨髄機能が疑われる場合の投与中止などを指示した。 一般的に,制癌薬の単独使用による奏効率は20〜30%程度で,延命効果も確認されていないことが多いため,危険度の高い制癌薬には否定的な見方も多い。ただし,白血病の制癌薬治療については副作用による死亡率が10%を超えることもある一方,5年生存率が50〜70%と高いため,治療は許容されている。 出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報