小児癌(読み)ショウニガン

デジタル大辞泉 「小児癌」の意味・読み・例文・類語

しょうに‐がん【小児×癌】

一般に15歳以下の子どもに発生する悪性腫瘍総称白血病脳腫瘍腎芽腫神経芽細胞腫など。

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改訂新版 世界大百科事典 「小児癌」の意味・わかりやすい解説

小児癌 (しょうにがん)

小児癌という用語は,医学用語ではなく,新聞やテレビなどで使われ定着した言葉で,小児にみられるいろいろな悪性新生物を総称して用いられる。小児癌には,成人にはほとんどみられることのない特有なものと,成人にも小児にもみられるものとがある。前者には神経芽腫,ウイルムス腫瘍,網膜芽細胞腫肝芽腫などがあり,後者には白血病,悪性リンパ腫,脳腫瘍などがある。しかし,どちらともいえないものや,また同じ病名でも,成人と小児とでは病型が異なり,症状や治療法の違うものが少なくない。小児癌には多種類のものがあるが,年間の発生率は,それら全部を集めて,小児1万人に1例くらいと考えられる。したがって,日本全体で約2000例が年間に発生していると推定できる。発生数がとくに近年増加したとは考えがたいが,生存例が多くなり,そのために治療期間が長びくので,実際に治療を受けている患者数は前記の数倍になる。小児癌の予後は最近改善されているが,それでも日本で癌による15歳未満の小児死亡は年間582人(1995)であり,子どもの死因としては不慮の事故に次いで2位を占めている。

 同じ小児でも,小児癌の多くは年少児の方に発生率は高い。神経芽腫,ウイルムス腫瘍,肝芽腫,網膜芽細胞腫,睾丸胎児性癌などは,1歳に発生のピークがある。しかし白血病や悪性リンパ腫のように小児の全年齢に発生するものや,骨肉腫のように10代に発生が偏っているものもある。また,きわめてまれではあるが,先天性白血病,先天性神経芽腫と呼ばれるもののように,出生時から発症しているものも報告されている。そのようなことから,小児癌の発生には先天的因子が関与している(癌遺伝子)と考えられる。しかし同じ家族内に白血病や神経芽腫が発生したとの報告はごく例外的なので,実際上はその危険を考える必要はない。ただし網膜芽細胞腫だけは例外で,まったく健康な両親の子どもにも発生するが,本症に罹患し,治癒して成人した後に得られた子どもに再び発生する可能性は高い。また,ダウン症その他の染色体異常症や,ある種の先天性免疫不全症といった特殊の疾患は小児癌を合併しやすいことが知られている。

小児癌には多種類のものが含まれるが,主要なものは次のとおりである。

(1)白血病 急性と慢性とがあるが,小児では95%以上が急性白血病である。白血病細胞がリンパ球に由来するものがリンパ性白血病で,骨髄細胞に由来すると考えられるものが骨髄性白血病(非リンパ性)である。ただし両病型とも白血病細胞の詳しい検査でさらに多くの分類がなされ,それぞれ,制癌剤に対する反応に差が認められる。急性白血病としての概括的症状としては,貧血,皮下出血発熱,関節痛であり頸部などのリンパ節腫大,肝・脾の腫大である。今日では小児の急性白血病,特に急性リンパ性白血病の予後は化学療法の進歩により近年飛躍的に改善され,骨髄移植が行われるようになってからは5年生存率は70%以上とも報告されている。しかしそのためには,何年にもわたる制癌剤の投与や放射線照射を行ったり,感染や出血の危険を乗り越えなければならない。病型によっては,治療に反応しないで急激な経過をとるものもある。

 小児の慢性白血病には,若年性慢性骨髄性白血病がある。これは成人型の慢性白血病に比して一般に急性白血病に似た経過をとる。
白血病
(2)神経芽腫,神経芽細胞腫neuroblastoma 副腎の皮質や腹部,傍縦隔の交感神経節から発生する神経細胞の癌。腹部に出るものが多いので,腹部に硬い腫瘤を触れることができる。悪性で,全身の骨や肝臓およびリンパ節を早くから侵す。カテコールアミンを産生するものが多く,その終末代謝産物のバニリルマンデル酸(VMA)が尿中に排出されるので診断や経過観察に役立つ。このVMAを指標にして日本では全国的に集団検診が行われている。構成する神経芽細胞がある程度分化したものを神経節芽腫というが,これは神経芽腫よりは治りやすい。もっと成熟したものは神経節腫gangliomaで,これは良性の腫瘍である。

(3)ウイルムス腫瘍Wilms tumor 腎芽腫adenomyosarcomaともいう。腎臓から発生する。ほとんど無症状で偶然腹部に腫瘤が触れられることがあり,ときに腹痛,嘔吐を伴う。血尿があることもある。

(4)肝芽腫hepatoblastomaおよび肝臓癌 小児特有の肝芽腫と,成人型としての肝臓癌がある。いずれにしても,成人の肝臓癌のように肝硬変を伴うことはほとんどない。肝臓が腫大し,肺などに転移する。血中に特有のタンパク質,つまり胎児性タンパク(α-フェトプロテイン,AFP)が検出できるので診断に役立つ。
肝臓癌
(5)横紋筋肉腫rhabdomyosarcoma 四肢,臀部,頸などの横紋筋と膀胱や胆管などから発生する。

(6)網膜芽細胞腫retinoblastoma 目つきが変だ,あるいは目が光るといったことで発見される。両眼に発生することがある。

(7)レトラー=ジーベ病Letterer-Siwe disease 厳密には癌ではないが臨床的には癌とみなすことができる。高熱,全身の皮膚の湿疹様発疹,肝・脾腫,リンパ節腫張を伴い,X線で頭蓋骨やその他の骨に破壊がみられる。治療としては癌と同じように化学療法を行う。軽症例としてハンド・シュラー=クリスチャン病Hand Schueller-Christian diseaseと骨の好酸球性肉芽腫とがあり,同一範疇(はんちゆう)の疾患と考えられている。

小児癌は,発生数が少ないし,特有の症状はないので,診断できるかどうかは,それが癌かもしれないと疑うかどうかにかかっている。入念な診察で癌が疑われた場合には,血液検査,X線検査,超音波エコー検査,尿検査,内分泌検査などの検査を適宜行う。

 急性白血病については,制癌剤による化学療法が行われる。白血病細胞がリンパ性か骨髄性かなどによって使用する制癌剤の種類や用法を変える。一定の治療計画に従った長期間の治療が行われ,経過中の出血や感染には血小板の輸注,抗生物質の投与などが行われる。最近では骨髄移植も行われる。

 悪性リンパ腫のうちホジキン病以外の非ホジキン病は,小児では白血病に変わりやすいので,全身的な化学療法を早期から行う。急性白血病と同様に頭蓋内浸潤を起こすことがある。

 神経芽腫,ウィルムス腫瘍には,手術と,その後の再発を防ぐための放射線照射や化学療法を患児の年齢,腫瘍組織の病型などに応じて選択する。肝芽腫,肝臓癌は,成人と異なり肝硬変を伴っていることはほとんどないので,肝臓を切除して治癒も期待される。骨肉腫では四肢の切断などが必要であるが,近年はその治癒率は向上している。網膜芽細胞腫は,両眼に発生することもあって,眼球を摘出するかどうかの判断がむずかしい。病初期であれば,必ずしも眼球摘出を行わないで治療が行われる。

 癌の治療は,とくに小児の場合には,正常組織に対する障害を避け得ないことが多い。出血や感染などだけではなく,放射線照射を受けた部位の骨の発育が損なわれたり,性腺の成熟が抑えられるなど晩期障害の発現に留意する必要がある。また四肢の切断や眼球摘出などでの身体障害に対する配慮が必要である。小児癌の治療成績向上に伴ってリハビリテーションの重要性が高まっている。死と対決する長期にわたる治療には,患児および家族に対する心理的ケアも必要で,治療にはケースワーカーや児童精神科医の参加も望まれる。また,患者などの団体として〈がんの子供を守る会〉などが活動を行っている。

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百科事典マイペディア 「小児癌」の意味・わかりやすい解説

小児癌【しょうにがん】

まれな病気で,発症率は小児1万人につき1人の割合。白血病が最も多く,脳腫瘍(しゅよう),神経芽細胞腫,悪性リンパ腫ウイルムス腫瘍網膜芽細胞腫,骨の悪性腫瘍などがある。成人のと異なり,制癌薬に対する反応がよく,また副腎皮質ホルモンなどの薬あるいは放射線治療や手術によって,かなり延命できるようになった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小児癌」の意味・わかりやすい解説

小児癌
しょうにがん

いわゆる小児癌とは小児悪性新生物をいう。すなわち、病理学的に小児にみられる癌の意味にとれば、原発性肝癌など少数の疾患をさすことになり、小児では癌よりも多い肉腫(にくしゅ)が含まれない。癌を悪性腫瘍(しゅよう)の意味にとっても、癌と肉腫は含まれるが、小児に多い白血病は含まれないことになる。しかし、実際にはこれらをすべて含む意味で使われる場合が多い。とすれば、これは統計用語である悪性新生物と同義ということになる。

[山口規容子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「小児癌」の意味・わかりやすい解説

小児癌
しょうにがん

小児期に多い悪性腫瘍のことで,急性白血病,ウィルムス腫瘍,神経芽細胞腫,肝臓癌,脳腫瘍,悪性リンパ腫などがある。

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