日本大百科全書(ニッポニカ) 「情緒障害教育」の意味・わかりやすい解説
情緒障害教育
じょうちょしょうがいきょういく
情緒が不安定で、適切な行動がとれない児童・生徒への治療教育をさす。情緒障害ということばは、emotional disturbanceの訳語として昭和30年代ごろから一般化し、1962年(昭和37)には児童福祉施設の一つとして情緒障害児治療施設が認可された。昭和40年代に学校教育体系のなかに情緒障害学級が設置され、以来学級の数は全国的に増加した。情緒障害とは、何らかの心理的、環境的原因によって行動面に生じた障害をさすが、身体的、生理的基盤との関係も深い。
[井田範美・山根律子]
治療教育の対象
次の分類が考えられる。
(1)一次的な心身障害(知的障害、病弱など)に関連する二次的な情緒障害。
(2)人間関係の不適応を中心とする環境要因による心因性障害で、緘黙(かんもく)、不登校などにみられる行動上の問題。狭義の情緒障害がこれにあたる。
(3)自閉症。今日では脳の器質的な障害に基づく発達障害と考えられているが、その行動上の特性から教育的対応では情緒障害に含められることが多い。
以上のほかに、統合失調症などの症例にみられる精神病理学的背景をもつ者に対しては、治療教育よりもむしろ医学的処遇が必要とされる。
[井田範美・山根律子]
情緒障害児のための学校教育
情緒障害がほかの心身障害に伴う二次的なものの場合には、基となる障害の状態、程度に応じて障害種別に該当する特殊教育諸学校、特殊学級での教育が考えられる。狭義の情緒障害や自閉などの適応障害がある児童・生徒の教育の場としては情緒障害特殊学級が設けられ、1998年(平成10)時点で小学校に3871、中学校に1625の教室あった。さらに、1993年からは、通常の学級に在籍する情緒障害のある児童・生徒が通級により治療教育を受ける場として、通級指導教室が法定化され、2018年(平成30)からは一部の高等学校でも通級教育が導入された。
[井田範美・山根律子]
相談・指導の場
情緒障害のある子供の情緒的安定や社会適応を図るための相談・指導は、教育の場以外にも児童相談所、情緒障害児短期治療施設などの福祉機関や精神保健福祉センターでも行われている。児童相談所では、面接相談のほかに通所や宿泊による指導、キャンプ指導などが行われており、情緒障害児短期治療施設では、生活指導を行うとともに心理治療担当職員などによる専門的な対応が図られている。
また、1990年代以降増加傾向にある引きこもりや不登校に対応するために、文部科学省では小・中学校へのスクールカウンセラーの配置や教育センターなどを利用した適応指導教室の設置を進めている。
[井田範美・山根律子]
『内山喜久雄監修、高野清純・稲村博編『情緒障害事典』(1977・岩崎学術出版社)』▽『相馬寿明著『情緒障害児の治療と教育』(1995・田研出版)』▽『津田道夫著『情緒障害と統合教育』(1997・社会評論社)』▽『佐藤泰正編『障害児の心理』(1997・学芸図書)』▽『池弘子・山根律子著『子どもの福祉』(2000/改訂版・2010・ぎょうせい)』