日本大百科全書(ニッポニカ) 「惑星ソラリス」の意味・わかりやすい解説
惑星ソラリス
わくせいそらりす
СОЛЯРИС/Solyaris
1972年にアンドレイ・タルコフスキーが監督したソ連映画。原作はスタニスワフ・レムのSF小説『ソラリスの陽(ひ)のもとに』だが、レムはこの映画をSFではなく、ドストエフスキーの『罪と罰』だと酷評した通り、映画は人間の精神や存在を問う、哲学的かつ神学的作品となっている。タルコフスキー自身も、原作で興味があったのは倫理的部分だけだと述べ、さらにキューブリックの『2001年宇宙の旅』(1968)の「非人間的宇宙空間」(タルコフスキー)へのアンチであることも表明している。カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞。知性をもつとおぼしき海に覆われた惑星ソラリス、その上空の観測ステーションで異変が起こり、その解明のため心理学者クリスが送り込まれる。3人の科学者のうち1人はすでに自殺しており、残り2人は何か秘密を抱え黙していた。ある日クリスのもとに10年前にクリスのせいで自殺した妻のハリーが突然現れる。それは、ソラリスの海が人間の記憶や意識を具現化して送り込んできたものである。クリスは過去の記憶がよみがえり自責の念から懊悩(おうのう)する一方、コピーであるハリーは実物になってクリスとの真実の愛を求めようとするがかなわない。ラストシーンで、クリスは地球の故郷の父のもとに戻るが、それとてもソラリスの海に出現したコピーされた故郷なのかもしれない。
[田中 陽]