レム(読み)れむ(英語表記)Stanisław Lem

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レム」の意味・わかりやすい解説

レム(Stanisław Lem)
れむ
Stanisław Lem
(1921―2006)

ポーランドの小説家。世界的なSF作家の一人。ウクライナルブフ(ロシア語名リボフ)生まれ。ルブフ医科大学に学ぶが、第二次世界大戦で中断、戦後クラクフに移ってヤギェウォ大学医学部を卒業した。空想小説『火星からきた男』(戦中に執筆、1946年発表)でデビュー、『宇宙航行者たち』(1951)、『マゼラン星雲』(1955)で一躍人気作家となる。三部作『失われざる時間』(1955)は解放直後に執筆され、占領下の病院でのナチス犯罪を告発したものである。ほかに代表作『航星日記』(1957)、『エデン』(1959)、『ソラリス』(1961。邦訳『ソラリスの陽(ひ)のもとに』。『惑星ソラリス』の題名で、1972年タルコフスキー監督により映画化されている)、『星からの帰還』(1961)、『浴槽で発見された記録』(1961)、『無敵』(1964。邦訳『砂漠の惑星』)など。短編にも優れ、連作短編に『泰平ヨンの航星日記』(1957)や『ツィベリアダ』(1965。邦訳『宇宙創世記ロボットの旅』)、さらに『枯草熱』(1974)、架空の作家の作品に対する書評集『完全な真空』(1971)、実在しない書物の序文集『虚数』(1973)や評論集『空想と未来学』(1970)、自伝小説高い城』(1966)などがある。きわめて科学的な事実と作者自身の豊かな空想を結合させた哲学的作風であった。

[吉上昭三・長谷見一雄]

『深見弾訳『浴槽で発見された日記』(1980・集英社)』『深見弾訳『宇宙飛行士ピルクス物語』(1980・早川書房)』『深見弾訳『泰平ヨンの未来学会議』(1984・集英社)』『深見弾訳『捜査』『泰平ヨンの回想記』『泰平ヨンの航星日記』『ロボット物語』『泰平ヨンの現場検証』(ハヤカワ文庫SF)』『深見弾訳『天の声』(サンリオSF文庫)』『深見弾訳『すばらしきレムの世界』1、2(講談社文庫)』『吉上昭三他訳『レムの宇宙カタログ』(1981・大和書房)』『吉上昭三訳『星からの帰還』(ハヤカワ文庫SF)』『吉上昭三他訳『宇宙創世記ロボットの旅』(ハヤカワ文庫SF)』『吉上昭三他訳『枯草熱』(サンリオSF文庫)』『沼野充義・工藤幸雄・長谷見一雄訳『完全な真空』(1989・国書刊行会)』『長谷見一雄・沼野充義・西成彦訳『虚数』(1998・国書刊行会)』『飯田規和訳『砂漠の惑星』『ソラリスの陽のもとに』(ハヤカワ文庫SF)』『沼野充義訳『金星応答なし』(ハヤカワ文庫SF)』『小原雅俊訳『エデン』(ハヤカワ文庫SF)』『笠井潔著『秘儀としての文学――テクストの現象学へ』(1987・作品社)』『川又千秋著『夢意識(むいしき)の時代――SF論集』(1987・中央公論社)』『沼野充義著『夢に見られて――ロシア・ポーランドの幻想文学』(1990・作品社)』『巽孝之著『現代SFレトリック』(1992・岩波書店)』


レム(線量当量の単位)
れむ
rem

線量当量の単位放射線の生物学的効果を考慮した単位で、生体に吸収された放射線が、1ラドのX線が生ずる生物学的効果と等しい効果を示すときの線量当量。記号はrem。名称の由来はroentgen equivalent man(mammal)の略称から、1950年ごろに命名された。その後、1979年の国際度量衡総会で、線量当量の単位としてシーベルト(Sv)が採用され、1989年(平成1)からは、日本の法令においてもシーベルトが用いられているようになった。1シーベルトは100レムである。

[小泉袈裟勝・今井秀孝]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レム」の意味・わかりやすい解説

レム
Lem, Stanisław

[生]1921.9.12. ルウフ
[没]2006.3.27. クラクフ
ポーランドの作家。医科大学に学び,第2次世界大戦後の 1946年,ルウフがウクイラナに組み込まれるとクラクフに移り創作活動を始めた。1947~50年の長編3部作『失われざる時』Czas nieutraconyは共産党政権により出版を差し止められた。1951年 SF小説『金星応答なし』(原題『宇宙飛行士たち』Astronauti)で SF作家としてデビュー。人間の能力の可能性と限界,文明の未来といった基本の主題を中心に幅広く書かれた SF小説を次々と発表,SF作家として世界的に知られた。代表作に『エデン』Eden(1959),『ソラリス』Solaris(1961),『砂漠の惑星』(原題『無敵』Neizwycięzony,1964)などの長編,『宇宙飛行士ピルクス物語』Opowieściopilocie Pirxie(1968)などの短編,メタフィクション『完全な真空』Doskonala próżnia(1971)などがある。『偶然性の哲学』Filozofia przypadku(1968)など文学論も有名。『ソラリス』はアンドレイ・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』(1972),スティーブン・ソダーバーグ監督の『ソラリス』(2002)と 2度映画化された。(→SF

レム
rem

線量当量の単位。記号は rem。主として放射線防護関係に用いられる。1remは,どんな種類の放射線に対しても 1rad(ラド)の X線γ線と同じ生物学的効果を生じる量に相当する。一般に線量当量(レム)=線量(ラド)×線質係数で示される。現在,線量当量の公式の単位はレムではなく,国際単位系 SIシーベルト(Sv)を用いる。1Sv=100remである。

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