惑星運動論(読み)わくせいうんどうろん(その他表記)planetary theory

改訂新版 世界大百科事典 「惑星運動論」の意味・わかりやすい解説

惑星運動論 (わくせいうんどうろん)
planetary theory

力学法則に基づく惑星運動論の研究は,I.ニュートンによる力学体系が確立されてから始まった。ニュートン以前の天動説や地動説は,地球から見た惑星の運動を幾何学的に説明しようとしていたといってよい。ギリシア天文学を集大成したプトレマイオスによる天動説では,地球を宇宙の中心に置き,太陽と惑星の運動を円運動(周転円)の組合せで説明している。N.コペルニクスの地動説は,天動説における太陽と地球の役割をおきかえた。しかし,観測結果を説明するために天動説と同様,地球と惑星の運動を周転円の組合せで説明しようとしたので,必要となる周転円の数が天動説におけるよりも多くなり,地動説のほうが,見かけ上複雑である。J.ケプラー長年にわたる惑星の観測をもとにして,惑星の運動法則(ケプラーの法則)を発見した。しかしこの法則は経験則であって,力学法則から導かれたものではない。これを成し遂げたのがニュートンである。太陽と惑星が一つだけ存在する場合には,惑星は太陽を焦点とする楕円上を運動する。しかし他の惑星が存在すると,その楕円運動は乱される。この乱れを摂動といい,摂動を決める方法が惑星摂動理論であり,主としてフランスの天文学者によって18世紀末に開発され,惑星の運動の研究に適用された。19世紀初頭になって,天王星の運動の摂動が内側の惑星による摂動だけでは説明できず,大問題となっていた。U.J.J.ルベリエとJ.C.アダムズは,天王星の外側に未発見の惑星があると推測して,摂動論を用いて,その質量と軌道要素を推定した(1846)。その直後に新惑星の海王星が発見された。これによってニュートン力学は確固たるものとなった。19世紀末,アメリカのS.ニューカムはルベリエの内惑星の運動理論を改良し,その理論は1983年末まで国際的に用いられた。1980年,フランスのブレタニョンPierre Bretagnon(1942- )は,冥王星を除く惑星の運動理論を,コンピューター数式処理で再構築した。その理論は,最近の精密な観測を十分説明できる精度をもつ。冥王星は,海王星と見かけ上軌道が交差するため,従来の摂動論による取扱いに困難があり,冥王星の精度のよい理論は未完成である。相対論的効果は,重力が弱く,速度が光速に比べて小さい惑星の運動においては小さいので,摂動として取り扱え,最近の惑星運動理論にくりこまれている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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