出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
経口摂取したいろいろな栄養素、とくに脂肪の消化吸収が阻害された病態を指し、障害の程度や持続期間によって低栄養状態を来すことがあります。
このなかにはさまざまな病気が含まれますが、栄養素の吸収過程自体の異常に基づく原発性吸収不良症候群と、原因となる病気によって二次的に起こる続発性吸収不良症候群に大きく分けられます。日常の臨床では、後者によるものが大部分を占めています。
原発性吸収不良症候群の代表的な病気にスプルー、
スプルーは、セリアックスプルー(グルテン腸症)と熱帯性スプルーに分類されます。セリアックスプルーが、小麦蛋白のグルテンに対する過敏反応によって生じ、遺伝的素因の関与が推測されているのに対し、熱帯性スプルーは感染症に起因すると考えられています。いずれも欧米に多く、日本では極めてまれな病気です。
一方、ラクターゼなどの腸酵素の欠乏症の多くは遺伝的に規定されていると考えられています。
続発性吸収不良症候群の原因としては、クローン病など広範囲にわたる腸病変、アミロイドーシス(異常蛋白のアミロイドが体のなかに付着して臓器の機能障害を引き起こす状態)などの全身性の病気、腸切除後、放射線照射後、膵(すい)がんや胆道がんなどでの消化酵素分泌障害といったいろいろな病気があげられます。
下痢、脂肪便(泥状便で酸性臭がある)、体重減少、全身
また、日本人に多いラクターゼ欠乏症では、牛乳など乳糖を含む食物の摂取によって、腹痛、
糞便検査では脂肪便、血液検査では貧血、低蛋白血症、低アルブミン血症、低コレステロール血症、低カルシウム血症がみられます。消化吸収試験として、糞便脂肪量の測定、Dキシロース吸収試験、呼気水素試験、乳糖負荷試験、シリング試験、膵外分泌機能検査などが行われ、障害部位や程度の診断に有用です。
さらに、小腸X線検査、十二指腸・小腸内視鏡検査、生検による組織検査、腹部超音波・CT検査などは原因となる病気の診断に必要です。
消化吸収障害が軽度であれば、食事療法(低脂肪・高蛋白・低繊維食)と消化酵素の投与を行います。
消化吸収障害が高度で低栄養状態を伴う場合は、まず経腸栄養法(半消化態栄養剤または成分栄養剤を経鼻チューブか経口で投与する)あるいは完全静脈栄養法による栄養療法を行い、栄養状態の改善を目指します。
同時に、原因となる病気の診断を確定し、それに対する治療を行うことが大切です。
下痢、脂肪便、体重減少などの吸収不良症候群を疑わせる症状に気づいたら消化器内科を受診してください。ラクターゼ欠乏症では、乳糖を含む食品(牛乳、チーズなど)をなるべく制限する必要があります。
飯田 三雄
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
タンパク質,脂肪,糖質,ビタミン,無機質などの消化吸収障害によって,それぞれの栄養素が欠乏し,低栄養や栄養失調の状態がひき起こされる病態を一括した呼び方。栄養素の吸収の過程には,腸管腔内での消化,小腸粘膜細胞での吸収,吸収された栄養素のリンパ管または血管を介した運搬の三つの過程が含まれている。栄養素が十分吸収されるためには,これらの過程が円滑に行われることが必要であり,それらのいずれの過程に異常が起こっても吸収が障害され吸収不良症候群がひき起こされる。吸収不良症候群には多くの疾患が含まれているが,日本でしばしばみられるものは,胃切除,小腸切除,膵切除などの後や盲係蹄症候群(胃や腸に短絡や盲管ができるために起こる病気),慢性膵炎,閉塞性黄疸,重症肝硬変症など,主として腸管内消化異常によるもので,外国で比較的多いセリアック症候群などの小腸粘膜疾患やウィップル病,腸リンパ管拡張症などリンパ系の異常に基づくものはむしろまれである。吸収不良症候群では,初期には体重減少,下痢,脂肪便(多量の脂肪を含む糞便(ふんべん))などがみられるが,重篤になると,種々の栄養素の欠乏によって,浮腫,ビタミン欠乏症,骨の病変,出血,無月経,神経炎など種々の症状が出現する。
吸収不良症候群は,吸収試験,小腸X線検査,小腸生検などの検査を適宜組み合わせて診断される。吸収試験には糞便脂肪量定量,D-キシロース試験やビタミンB12吸収試験など種々の試験法があり,その成績から吸収障害の程度や病変部位をある程度把握できる。その情報を基に,診断確定のため小腸X線検査や小腸生検が行われる。小腸X線検査では,小腸の形態学的異常や小腸粘膜疾患の存在を知ることができる。また,小腸生検で得られた小腸粘膜の特徴的な所見から,粘膜病変を起こす種々の疾患を鑑別することができる。
吸収不良症候群の治療のうち,食事療法の基本は高タンパク質,低脂肪,高カロリー食である。薬物療法としては,アミノ酸製剤,糖液,アルブミン製剤などの補液を行うとともに,無機質,ビタミンなどのうち,とくに欠乏した栄養素を重点的に補充する。そのほか,消化異常に基づく吸収不良症候群には消化酵素剤が,盲係蹄症候群に対しては抗生物質が有効である。ところで,最近,栄養素の補給に対する画期的な治療法として中心静脈栄養法と経腸管栄養法が開発され,臨床に用いられている。中心静脈栄養法は,中心静脈に管を挿しこんで,高張糖液,アミノ酸製剤,脂肪乳剤などを輸液して高カロリーを補給する方法である。一方,経腸管栄養法は,タンパク質源として純粋のL-アミノ酸またはタンパク質水解物を,糖質としてブドウ糖またはショ糖を用い,あらゆる必要栄養素を加えた,ほとんど消化を必要としないelemental diet(ED)を腸管に直接与える方法で,1日3000calを補給することができる。
執筆者:正宗 研
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
栄養素の消化吸収障害のある状態の総称で、結果として栄養失調をきたしている。症状としては、慢性下痢、脂肪便、体重減少、るいそう(やせすぎ)、無力倦怠(けんたい)感、手足の浮腫(ふしゅ)、腹部膨隆、鼓腸、食欲不振、各種の貧血、皮膚炎、口内炎など多彩な変化がみられるが、いずれもタンパク質、脂肪、各種ビタミン、無機質の吸収障害による欠乏症状である。症状の中心となるのは低タンパク血症による手足の浮腫で、顕著なときには腹水や胸水を現すようになる。脂肪便は糞便(ふんべん)中の脂肪排出量の異常増加で、欧米では吸収不良症候群の中心症状とされているが、食事脂肪摂取量の少ない日本では糞便中脂肪量が1日に10グラムを超すことは、むしろまれである。診断検査法として消化吸収試験が行われるが、やや過量の食事に相当する量の栄養素を負荷してその消化吸収障害を検出する必要がある。
吸収不良症候群はさまざまな病気や病的状態においてみられる。(1)原因疾患のない原発性吸収不良症としては、セリアック・スプルーceliac sprue病や熱帯性スプルー病、刷子縁膜(さっしえんまく)酵素欠損症(小腸の上皮細胞の刷子縁膜にある各種の酵素が欠乏しているもので、ラクターゼ欠損症など)、先天性無リポタンパク血症などがある。(2)吸収面積減少によるものとしては、小腸の広範な病変であるクローン病、腸結核、強皮症などのほか、小腸切除後や腸管バイパス形成術後などがある。(3)腸管運動亢進(こうしん)としては、カルチノイド症候群がある。(4)腸内細菌叢(そう)の異常としては、盲嚢(もうのう)症候群(ブラインドループ症候群)がある。(5)消化障害によるものとしては、消化に関与する胃、膵(すい)、胆嚢の病気や切除術後におこるものがある。
治療としては、原因療法のほか、共通した治療法として栄養補充療法が行われる。これには、アミノ酸混合物などのように消化吸収されやすい栄養素からなる成分栄養食の経腸栄養療法などが含まれる。
[細田四郎]
…消化の過程が障害されて食物の分解が十分に行われない状態を消化不良というが,これは同時に吸収不良をともなうので,多くの場合吸収不良症候群としてまとめられ,消化不良という言葉は成人の単一病名としてはあまり用いられていない。 消化液の不足をもたらすものとして,肝臓・胆道疾患(肝炎や胆石,腫瘍による閉塞性黄疸のように胆汁分泌が障害されるもの),膵臓疾患(膵炎のように膵外分泌が障害されアミラーゼ,リパーゼなどが不足する場合),胃切除(胃手術により胃酸,ペプシンなどが不足する場合)などがあり,これらが消化吸収不良の原因となる。…
…その他ごくまれに平滑筋肉腫をみることがある。(4)吸収不良症候群 小腸における吸収障害を主徴とする疾患を総称して吸収不良症候群という。このうち小腸の粘膜上皮細胞自体に欠陥があり著しい絨毛萎縮をきたすものにスプルーsprue(特発性吸収不良)がある。…
※「吸収不良症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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