小正月の1月15日の朝,粥をたくとき,かきまわすのに使う棒。粥かき棒ともいう。普通,太さ3cmほどの木を30cmばかりに切り,皮をむいて使う。削掛けにすることもある。先端に十文字の割れ目を入れ,粥のはさまり方で占いをしたり,成木責めに用いたりする。粥が付着したまま,柱をたたき,柱に粥を供える土地もある。この日,嫁たたきといって,棒で嫁のしりをたたき,早く子どもを持つように祝う風習があるが,粥杖を用いるのが本来であるらしく,その棒を,平安時代の《枕草子》では〈粥の木〉,《狭衣物語》では〈粥杖〉と呼んでいる。農村では,粥杖を保存しておき,苗代の水口に立て,田の神としてまつる例が多い。粥杖は,もともと苗代を守るしるしとして迎えた神聖な木で,それが小正月の行事に統合されたものである。粥をかきまわすのは,苗代をかくのと同じであるというのは,その古い心持ちを表している。
執筆者:小島 瓔禮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
正月15日、小豆(あずき)粥を煮るときの燃えさしの木を削ってつくった杖。邪気を払う道具で、『枕草子(まくらのそうし)』『狭衣(さごろも)物語』などにみえ、平安時代、宮廷女房社会で行われた風習である。この杖で子のない女性の腰を打つと、男子を懐妊するといわれ、祝事として行われた。後世には民間にその風習が伝わり、松の枝や柴(しば)などを用いている。
[山中 裕]
… 懲罰として尻をたたくことは広く行われてきているが,特殊な尻たたきがある。正月15日の粥(かゆ)を炊いたときの薪の燃えさしで作った粥杖は,女性の尻をたたくと子が生まれる,または男児ができるというので,《枕草子》にみえるように平安時代から行われていた。この俗信は《狭衣(さごろも)物語》や《問はず語り》にもあり,形をかえて室町から江戸時代を経て続き,今も五島列島の一部などに残る。…
…この祝棒で果樹を打つ〈成木責め〉,子どもたちが唱え言をいいながら嫁の尻を打つ〈嫁打ち棒〉〈嫁孕(はら)み棒〉などいずれも棒のもつ増産の呪力がその背景にある。また,粥占をするのに使う〈粥かき棒(粥杖)〉も小正月の祝棒の一例で,削掛けの系統をひくものである。 諏訪の御柱(おんばしら)祭と同様に,棒を大地に立てる場合には,とくに神の依代や世界樹として観念され,やがてこれが装飾化されて山鉾,幣束,旗ざおなどとなり,天と地,神と人を結ぶものの象徴と考えられていくのである。…
※「粥杖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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