所有者不明土地法(読み)しょゆうしゃふめいとちほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「所有者不明土地法」の意味・わかりやすい解説

所有者不明土地法
しょゆうしゃふめいとちほう

所有者不明土地の問題を解消するための法律。正式名称は「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(平成30年法律第49号)。2018年(平成30)6月成立、2019年(令和1)6月施行。

 近年は、人口減少や高齢化の進展、都市部への人口集中、血縁地縁のつながりの希薄化などに伴い、所有者が特定できない不明の土地が増加しており、その利用が阻害される等の問題が起きている。そこで、この所有者不明土地問題に対処するため、本法律が成立した。

 所有者不明土地法は、①所有者不明土地を円滑に利用し、②その管理を適正に行うとともに、③土地の所有者の効果的な探索を図るため、地域福利増進事業の実施のための措置、所有者不明土地の収用または使用に関する土地収用法特例、および、土地の所有者等に関する情報の利用・提供その他の特別の措置を講じることを目的とする(所有者不明土地法1条)。この法律は、「所有者不明土地」を、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地をいう」と定義する(同法2条1項)。そして、所有者不明土地のうち、現に建築物が存在せず、かつ、業務の用その他の特別の用途に供されていない土地を、「特定所有者不明土地」としている(同法2条2項)。

①所有者不明土地の円滑な利用
上記の特定所有者不明土地を対象とし、地域住民その他の者の共同福祉または利便の増進を図るために行われる事業(事業主体は限定されない)について、都道府県知事裁定により、上限10年間または20年間の土地使用権が設定される(同法10条1項、13条1項・3項)。これにより、具体的には、所有者不明土地を、公園、購買施設、教養文化施設等として利用することができる。

 なお、土地収用法の特例として、公共事業について国・都道府県知事が事業を認定し、都道府県知事が所有者不明土地の収用を裁定して、事業主体が土地の所有権を取得する(同法32条)。すなわち、通常の土地収用は、土地収用法に基づき、合議制収用委員会権利取得裁決・明渡裁決を実施するのに対し、所有者不明土地法では審理手続を省略し、裁決を一本化して土地収用の迅速化・効率化が図られている。

②所有者不明土地の適正な管理
2020年の土地基本法(平成1年法律第84号)の改正により、土地政策の基本理念および土地所有者の責務として、土地の適正な管理の確保が明確化された(土地基本法3条、6条1項)。しかし、所有者不明土地は、管理不全状態になる蓋然(がいぜん)性が高く、その対応が急務となった。そこで、所有者不明土地法は、その目的規定を2022年に改正し、「利用の円滑化」としてだけでなく、「管理の適正化」としても位置づけた(所有者不明土地法1条)。そして、管理不全の所有者不明土地については、市町村長が確知所有者(確実に所在を把握できる所有者)に災害防止措置を講じることを勧告し(同法38条)、命令することができる(同法39条)とした。また、確知所有者がいない場合や、権限上実施できない(共有持分が不足)場合等は、市町村長が災害防止措置を代執行できるものとした(同法40条)。

 さらに、民法の財産管理制度の特例として、国・地方公共団体が所有者不明土地について、民法に基づく管理命令等を裁判所に請求し、裁判所が所有者不明土地管理人等を選任して、管理人による管理を実施(裁判所の許可があれば売却も可)するものとした(同法42条)。すなわち、民法上は、所有者不明土地管理命令および管理不全土地管理命令の請求権者は、「利害関係人」に限られている(民法264条の2第1項、264条の9第1項)のに対し、所有者土地不明法は、地方公共団体等が利害関係の有無にかかわらず、これらの管理命令を請求することができるものとした。

③土地所有者の探索の合理化
都道府県知事および市町村長は、土地所有者等の探索に必要な限度で、その保有する土地所有者等関連情報を、その保有にあたって特定された利用の目的以外の目的のために内部で利用することができる(所有者不明土地法43条1項)。具体的には、固定資産課税台帳、地籍調査票、インフラ事業者等の保有情報などの有益な所有者情報を、行政機関等が利用することができる。

④その他:基本方針・対策計画の作成
所有者不明土地法は、国土交通大臣および法務大臣が基本方針を定めることを義務づける(同法3条1項)とともに、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する施策の総合的な策定とその実施を国の責務とする(同法4条1項)。また、地方公共団体も、所有者不明土地の利用の円滑化等に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の実情に応じた施策を策定し、および実施する責務を有する(同法5条1項)。そして、これを受けて、市町村は、単独でまたは共同して、基本方針に基づき、所有者不明土地の利用の円滑化等を図るための施策に関する計画(所有者不明土地対策計画)を作成することができ(同法45条1項)、かつ、必要な協議を行うため、所有者不明土地対策協議会を組織することができるとした(同法46条1項)。

[野澤正充 2025年1月21日]

『〔WEB〕国土交通省『所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法』 https://www1.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001598917.pdf(2025年1月閲覧)』

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