精選版 日本国語大辞典 「手」の意味・読み・例文・類語
て【手】
た【手】
しゅ【手】
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解剖学では上肢を腕(うで)(上腕(じょうわん)と前腕(ぜんわん))と手とに区分し、手は手首から先をいう。俗に、手足などといって、大まかに下肢に対して上肢を「手」と表現することもある。手は、ほぼ四角形の扁平(へんぺい)な部分として手首の先に広がるが、屈曲させて凹面をつくる部分を手の掌面(しょうめん)(手掌、たなごころ)とよび、凸面側を手の背面(はいめん)(手背、手の甲)とよぶ。手の扁平部分の遠位縁からは、5本の指(五指)が出る。五指のうち、母指(ぼし)(第1指、親指(おやゆび))がもっとも太く、かつ短い。中指(ちゅうし)(第3指)がもっとも長く、以下環指(かんし)(第4指、薬指(くすりゆび))、示指(しし)(第2指、人差し指)、小指(しょうし)(第5指)の順に短くなる。各指の末端の背側部には、皮膚の表皮が角化してできる爪(つめ)が付着し、指の先端を保護している。手掌面の皮膚には、多数のしわや溝が縦横に走っている。このうち、横に走る太いしわは手掌や指を屈曲したときに生じ、運動皺襞(しゅうへき)(慣用では「うんどうすうへき」と読む)とよぶ。これらのしわは、手相学ではいろいろの意味をもつものとして取り扱われているが、科学的な根拠はない。手掌面には細い溝(皮膚小溝)と各小溝の間の高まり(皮膚小稜(しょうりょう))とが平行して走っている。その方向は、各個人に特有な紋様(掌紋)をつくっている。また、指の先端の紋様は指紋(触紋)とよばれ、これも各個人に特有な走行を示す。掌紋、指紋はともに個人識別に利用されている。指紋は胎生3か月から4か月に出現する。皮膚小稜の高いところには、汗腺(かんせん)の導管の開口部、すなわち汗口が配列している。
手掌面を見ると、母指と小指の長軸に沿った部分、第2~第4指の基部、各指の末節中央部のそれぞれに、円形あるいは楕円(だえん)形をした広い皮膚隆起が認められる。これを、それぞれ手根小球(橈側(とうそく)は母指球、尺側(しゃくそく)は小指球という)、指間小球、指小球とよんでいる。また、これらを総称して触球とよぶが、この部分には神経終末が豊富に分布し、触覚が鋭敏である。手掌面には毛、脂腺がない。また、手掌面の皮膚にはメラニン色素がないため、他の皮膚部分よりも白くなる。手掌面の汗腺の数は1立方ミリメートル当り約2個であるが、手背では約1.5個、示指先端では3個ほどとされる。
[嶋井和世]
手の構造の基礎となり、手の運動の支えとなる骨格(手骨(しゅこつ))は、約30個の骨からできている。手首(手根)の部分には8個の手根骨が配列する。手根骨は、前腕の長軸方向と直角に位置し、4個ずつがほぼ平行に並んで配列している。手根骨の遠位列と連結する骨が中手骨で、細長い5個の骨から構成される。中手骨は手掌の骨格となっている。各指の骨格となるのが指骨である。指骨は、母指が2個、他の指はそれぞれ3個からなっている。中手骨と直接連結する指骨を基節骨といい、順次先端に向かって中節骨、末節骨とよぶ。母指は基節骨と末節骨だけで、中節骨が欠ける。遠位列の手根骨と中手骨との関節(手根中手関節)や中手骨と基節骨との関節(中手指節関節)は、多軸的に動いて、手首や指の複雑な運動を可能としている。
手の骨格を動かす筋肉は、ヒトではとくに発達しており、精緻(せいち)巧妙な手の運動の原動力となっている。このことは、霊長類、とりわけヒトにおいて、その進化に大きな役割を果たしてきた。手の運動をつかさどる筋肉(骨格筋)は、前腕と手掌とにあり、ともに横紋筋である。そして、手の筋肉はすべて手掌側にある。母指を思いきり反らして、母指を外転し、伸展させると、手背の母指側で手首から母指方向に向かって三角状のくぼみができる。これを「解剖学的嗅ぎたばこ壺(かぎたばこつぼ)」とか「嗅ぎたばこ入れ」(タバチュール)という。これは、長母指伸筋と短母指伸筋の両腱(けん)に挟まれてできるくぼみである。このくぼみの底で、橈骨動脈の拍動を触れることができる。
[嶋井和世]
脊椎(せきつい)動物の前肢末端部分をいう。物をつかむ機能をもっている霊長類について用いられる語であるが、他の動物に用いられる場合は、やや擬人化した意味でこの部分をよぶ。上腕・下腕部を除いた手首・手のひら・指からなり、それぞれ腕骨・掌骨・指骨を含み、複雑な筋肉が発達している。動物の種類によって手の解剖学的構造に多くの変化がみられる。たとえば、樹上生活を営むものでは手が発達し、指が長く、先端部を保護するつめが伸びている。コウモリでは第1指(親指)に鉤(かぎ)づめがあり、他の指は長く伸び、それらの間に飛膜が発達している。ウマでは第3指骨だけが非常に発達している。クジラやオットセイの手は、水中生活に適応して退化し、魚類のひれに似た形になっている。魚類のひれと哺乳(ほにゅう)類の手は相同器官である。
[川島誠一郎]
手が宗教的観念と関連して象徴的意味をもつ現象は広くみられる。霊的存在への訴えとして手を伸ばす、打つ、指を特定の型に組む(密教の印相など)などの動作をとることが多い。妖術(ようじゅつ)師が手で触れ、指示し、凝視することにより生じる危害や凶眼から身を守る目的で指を組んで対抗する、などの慣行も広くみられる。何かを手に握って生まれた子供が特別な能力をもつとする文化も多い。岩の手形状のくぼみを役小角(えんのおづぬ)、弘法大師(こうぼうだいし)、諏訪(すわ)信仰、雷神、弁慶などと関係づけるなどの説話がある。
人体の他の部分から切り離した手だけを描写して、特定の宗教的意味をもたせた最古の例は、エジプト新王国イクナートンの改革宗教で主神アトンを象徴した太陽光線先端の手であろう。ユダヤ・キリスト教では、紀元前2世紀の成立とされる『旧約聖書』「ダニエル書」5章の「運命を予告する手」をはじめとして、偶像的表現を避ける目的で手だけで最高神を表現する文化的伝統が形成された。ユダヤ・キリスト教美術史上の「神を表す手」は、アルサケス朝パルティアの宗教美術の影響を受けた3世紀のメソポタミア(ドゥラ・エウロポス遺跡)で確認され、中世キリスト教絵画に繰り返し用いられた。4~5世紀以降には按手礼(あんしゅれい)がキリスト教の秘蹟(ひせき)とされ、この文化的伝統での手の特別な意味が確立した。聖書の上に手を置いて誓約するキリスト教の慣行、指を伸ばした手形を建物、とくに戸口の上部につけて妖術的危害の侵入を防ぐなどのアジア・環地中海地域の風習はこの伝統と関連する。
右手を神聖かつ有力で幸運な手とみなし、左手を劣位、不浄視する「右手の優越」現象は、手の象徴主義の重要テーマである。アジアの多くの地域では、排泄物(はいせつぶつ)処理に左手を用いる習慣とも結び付き、とくにこの原則を重視する。台湾の高砂(たかさご)族の右手(右肩)の優越はよく知られている。中世南インド(タミル地方)では、王国内の職業集団を都市手工業者を中心とする左手群と、農業経営者を中心とする右手群に二分する制度が発達し、祭礼時の2群の衝突事件と王権による事件調停の記録が古くからある。ただし、右手の武装を暗示する左手での握手の敵対性は右手の優越以外からも説明できる、などの問題もある。
[佐々木明]
『R・エルツ著、吉田禎吾他訳『右手の優越』(1980・垣内出版)』
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…手形は一定の金額の支払を目的として発行される有価証券である。手形という語は古くは一般に証書・証文をさしていたが,これは証書類に署名に代えて手指を押捺(おうなつ)する風習に由来するといわれる。…
…人間が特定の目的を実現しようとする場合,媒介として用いる物的な手段をいう。この意味での〈道具〉の語は室町時代以後の日本語で,それ以前や中国の漢語では仏教で用いる器具を指した。…
…また中村宗三著《糸竹初心集》(1664),村田宗清著《洞簫曲(どうしようのきよく)》(1669),著者不明《紙鳶(いかのぼり)》(1687,《糸竹大全》に収められている)の3種の入門独習書の出版が見られ,当時の一節切の流行を物語っている。それらを見ると,17世紀前半までの一節切の音楽は独奏曲(これを〈手〉という)が主体であったが,17世紀後半には流行歌(はやりうた)・踊り歌の伴奏や箏・三味線との合奏(これらを〈乱曲〉という)が盛んになったことがわかる。 しかし,流行は長くは続かず,18世紀に入るとほとんど吹かれなくなる。…
…この単位は,規模は大小さまざまだし,旋律の形も半ば固定しているものと,大まかな枠組みのみあって細部の変化が著しいものとがある。また,フシは〈手〉の対概念として説明されるものでありながら,近世邦楽におけるこの意味でのフシは,手と一体といってもよいほど,密接な関係にある。義太夫節では,地合(じあい)の進行に小段落をもたらすフシ落チという型を,丸本では単にフシと表記するほか,〈ハルフシ〉〈フシハル〉〈本ブシ〉など特定の旋律を表す語がある。…
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