スモッグ(読み)すもっぐ(英語表記)smog

翻訳|smog

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スモッグ」の意味・わかりやすい解説

スモッグ
すもっぐ
smog

煙(smoke)と霧(fog)の合成語で、両者が混在している状態。初めイギリスで使われ、1962年(昭和37)12月ごろから日本でもラジオやテレビで盛んに使われ始めたことばである。

 最近では、霧の存在とは関係なく、大気汚染濃度の高い場合によく用いられる。光化学スモッグはその例である。産業用および暖房用などの燃料石炭から石油系にかわり、それに伴って大気中に放出される汚染物質も、石炭の場合の硫黄(いおう)酸化物から、石油の場合の窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素などにかわってきた。石炭を暖房用の燃料に用いていたころのロンドンスモッグは、その煙と霧との混ざったもので、よく「黒いスモッグ」とよばれている。これに反してアメリカのロサンゼルスでは自動車の排ガスによって大気汚染が高くなり、これが太陽光線に含まれる紫外線によって光化学変化をおこして光化学スモッグとなる現象がおこった。これを黒いスモッグに対して「白いスモッグ」ともいう。ロンドンのスモッグでいままでにいちばんひどかったのは1952年12月4日濃霧とともに発生したもので、これは12月8日まで続き、スモッグの中で約4000人の死者が出たといわれている。おもな死因気管支炎気管支肺炎、心臓病で、高齢者の犠牲が多かった。このときの亜硫酸ガスの最高濃度は1.34ppmであった。これに対しロサンゼルスの光化学スモッグは晴天の続く夏の日中に多く発生する。多少視界が悪くなるが霧の場合ほどではない。しかし日中に目が痛んだりする。日本の光化学スモッグは1970年(昭和45)7月に東京で初めて発生した。これはロサンゼルスの場合と同様に石油系燃料の使用によって生じた光化学スモッグである。

 一般にスモッグは、燃料から放出されたガスが大気の上空に逃げないで、地上付近の数百メートルくらいの範囲に閉じ込められたときにおこる。このようなときには風も弱いのが普通で、他所に吹き流されてしまうこともない。光化学スモッグはそのうえに日射があることが条件で、このような気象条件は春、夏、秋の季節に日本が高気圧に覆われたときに生じる。気象庁ではこのような気象条件をあらかじめ詳しく調査しておき、その日の気象状態を解析して「スモッグ気象情報」を発表している。この場合のスモッグは高濃度の大気汚染または光化学スモッグである。この情報は各地方の行政機関へ通知され、一般にもラジオやテレビ、新聞などで発表する。各地方の担当者はこの情報や汚染測定点の測定値に基づいて大気汚染、光化学スモッグの予報、注意報、警報などを発令して、汚染物質を排出している事業者や一般に伝達する仕組みになっている。

 なお、スモッグに似たことばにスメイズsmazeがあるが、これは煙(smoke)と煙霧(haze)の合成語で、霧を含まない薄い煙の状態をさしていう。

[大田正次]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スモッグ」の意味・わかりやすい解説

スモッグ
smog

smoke (煙) と fog (霧) の合成語で,元来はロンドンで,冬季大気層が安定したとき,主として石炭暖房により発生した煤煙が地表近くに滞留して霧の凝結核となり,視程障害を起す状態をいった。しかし暖房が石油系燃料へと転換されてからは,大量に発生する酸化硫黄物が同様の気象下で地表に滞留して視程障害を引起す現象を白いスモッグとかロサンゼルス型スモッグと呼ぶようになり,本来のスモッグはロンドン型スモッグと呼ばれるようになった。さらに視程障害を起すような大気汚染現象を総称するようになり,2次的汚染物質である光化学オキシダントを光化学スモッグというようになった。日本では光化学ダイオキシンの測定を常時行なっており,気象条件からみて汚染状態が継続すると認められた場合には,注意報を発令するシステムとなっている。

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