二次元の光学像を一次元(時系列)の電気信号に変換する電子管。二次元の被写体像を画素に分解して時系列に並べ換え、各画素の明暗を電気信号の大小に変換する。以前はテレビカメラに用いられていたが、現在では暗視カメラなど一部を除き固体撮像素子に置き換えられている。
撮像管の歴史は古く、その種類もきわめて多い。1884年にドイツのP・G・ニプコーは、円板による機械走査式のテレビカメラを発明した。これは、中心からすこしずつずらせていくつもの小さい穴をあけた円板をモーターで回転させて被写体像を画素に分解し、これらの穴を通して入ってくる光の強弱を光電管で電気信号の大小に変換するもので、撮像管に類するものといえる。その後、1897年のドイツのK・F・ブラウンによる最初の陰極線管(ブラウン管)とそれを使ったオシロスコープの発明、1908年のイギリスのキャンベル・スウィントンAlan Archibald Campbell-Swinton(1863―1930)による、現在の撮像管と同じ原理による電子ビーム走査撮像管の着想などさまざまな発明を経て、1931年にはアメリカのファンスワースPhilo Taylor Farnsworth(1906―1971)が、イメージデセクター(解像管)とよばれる純電気的にテレビ信号を得る方式を確立した。しかし感度が低く実用の域には達しなかった。1933年にロシア系アメリカ人のV・K・ツウォリキンは、入射光束を有効に利用したアイコノスコープを発明した。これはイメージデセクターよりはるかに感度がよく、これによってテレビの実用化の基礎がつくられた。日本では1930年(昭和5)に浜松高等工業(現在の静岡大学工学部)の高柳健次郎が、撮像管の感度をあげる方法である蓄積方式に関する特許を出願しており、1935年にはアイコノスコープの試作に成功し、これを用いて屋外の人物像を送像した。のちアイコノスコープの改良がなされ、イメージアイコノスコープ、オルシコンなどを経て、1946年にアメリカRCA社のローズAlbert Rose(1910―1990)、ワイマーPaul K. Weimer(1914―2005)、ローHarold B. Law(1911―1984)らによってイメージオルシコンが開発された。これはきわめて高感度で、分光感度特性もよく、スタジオの照明が簡易化できること、屋外での撮像にも適していることなどのため、本格的なテレビ放送への導入に重要な役割を果たした。日本でも1950年(昭和25)ころからNHK放送技術研究所がイメージオルシコンの研究に着手、1955年には放送に使用されるまでになった。その後、酸化マグネシウムMgOターゲット、マルチアルカリ光電面などの研究が行われ、イメージオルシコンの高解像度、高感度化が図られた。このアイコノスコープ、イメージオルシコン系の撮像管はいずれも被写体の光学像を光電面上に結ばせ、そこから出る光電子放出を利用するものである。
一方、光導電現象を利用した撮像管の開発も進められ、1950年にRCA社のワイマーらは、小型で軽量なビジコンを発明した。ビジコンの光導電膜には硫化アンチモンSb2S3が用いられたが、これには残像現象があること、暗電流が大きいことなどの難点があり、ビジコンはスタジオ用カメラには不向きで、もっぱら工業用テレビカメラ、フィルム送像用カメラ、ウォーキー・ルッキー(携帯用テレビカメラ)などに用いられた。その後光導電膜の研究は続けられ、1963年にオランダのフィリップス社は、光導電膜に酸化鉛PbOを採用したプランビコンを発表した。このプランビコンは暗電流および残像現象が小さく、感度もビジコンより大幅に改善され、イメージオルシコンに匹敵する性能になった。またイメージオルシコンよりはるかに小型であることからカラーカメラの小型化に役だち、それまで撮像管の主流であったイメージオルシコンにとってかわるようになった。日本で開発された光導電現象を利用した撮像管には、東芝のハイセンシコンやカルニコンがある。さらに1972年にはNHKと日立製作所で共同開発したサチコンが実用化された。このサチコンは光導電材料に、セレンSe、ヒ素As、テルルTeなどからなるガラス状半導体を用いており、解像度がよく、三原色に対してバランスのとれた分光感度をもち、フレア(強い光によるかぶり現象)や残像が少ないなどの特長をもっている。2/3インチ(1インチは25.4ミリメートル)をはじめ1インチ単管カラー用撮像管、2インチ高解像度管などが開発された。
その後、半導体素子の発達によって、1974年ごろから撮像管と同様な機能をもつ固体撮像素子の実用化が進んだ。固体撮像素子の特長として、各画素へのアドレス(位置の割当て)が正確にできること、残像が少ないこと、低電力・低電流であること、小型化に適すること、などがあげられる。固体撮像素子の性能は急速に向上し、民生用のみならず放送などの業務用にも十分使えるようになった。その結果、1980年代以降は電子管方式の撮像管は高感度の暗視カメラなどの特殊用途を除いてほとんどが固体撮像素子に置き換えられ、その使命を終えた。詳細については「固体撮像素子」の項目を参照されたい。
[木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 光電子のエネルギー分布を測定することにより,金属その他の物質の電子のバンド構造に関する情報を得る手法を,光電子分光といい,反射,吸収などの分光手法と並び,固体の電子のバンド構造を調べる重要な手法になっている。 光電子放出は光電管,光電子増倍管,撮像管などに応用されている。光電管は光電子を放出する光陰極と光電子を集める陽極からなる二極管で,光の検知や強さの測定に用いられている。…
…しかし,高速現象の観測には非蓄積形のものも用いられ,また,いったん撮像した信号電荷を長時間保持したり,長い時間をかけて読み出す場合もある。走査は,真空管内で電子ビームを偏向して行うものが多く,撮像管という。また,半導体基板内において,シフトレジスターや電荷転送素子などを使用して走査を行うものも開発されており,固体撮像デバイス,または撮像板という。…
※「撮像管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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