電子ビームを形成・放射する装置。電子を放出する陰極と、電子を加速しながら集束してビームに成形する電極の組合せで構成される。陰極には熱電子放出型(熱陰極)が普通であるが、高分解能電子顕微鏡などの特殊用途には電界放射型(冷陰極)が用いられる。電子銃には、ブラウン管や電子顕微鏡などの1ミリアンペア程度以下の小電流用と、マイクロ波管などに用いる大電流用がある。
陰極から放出された電子は正電圧により速度が与えられるが、電圧を加える陽極にとらえられてしまう。また、電子間にはお互いに離れる力が働くので、電子ビームは広がろうとする。このため、小電流用の電子銃では、電子にエネルギーは与えるが電子をとらえないで通過させる、穴の開いた陽極を組み合わせた電子レンズを用いる。電子レンズは、短い円筒状の金属電極2個間に電位差を与えてつくられているが(磁界によってもできるが、大形になるので通常は別にしている)、光学レンズのように焦点に電子を集める。
テレビブラウン管用電子銃では、まず陰極から電子を引き出すための三極管型電極(制御格子は除く)または二極管型電極によって陰極から電子を取り出す。前者では焦点を結んだ直後の(交差した)比較的均質な、後者では電圧変動の影響は大きいが、焦点を結ぶ直前のエネルギー損失の少ない鋭い電子の束を小穴を通して主集束電極に導く。電子束はさらに3個の円筒電極のうち中央だけ0ボルト近くに電圧を低くした(ユニポテンシャル)主集束レンズ、または2個の電極で構成した(バイポテンシャル)主集束レンズに導いて管前面に焦点を結ばせている。電子束を引き出す陽極と主集束レンズの前段の電極はプリフォーカスレンズを構成する。
ユニポテンシャル集束レンズによるものはスポットは太めであるが、電源電圧変動の影響は少なく、画面全体に均質な像が得られるので家庭用受像機に用いられる。バイポテンシャルレンズによるものは電子ビームは尖鋭(せんえい)で、画面の中央はシャープであるが、周縁では焦点がぼけやすいので、大形テレビブラウン管とか監視用に用いられる。目的に応じた電子の引出し部と、ユニポテンシャルとバイポテンシャルを適宜組み合わせた主集束レンズとにより、画質を向上させたものも多い。
熱陰極型電子顕微鏡では、考案者の名を冠したベーネルト円筒で陰極を取り巻いた電極と、小孔をもつ陽極とで電子レンズを形成している。冷陰極型ではテーパーされた(円錐(えんすい)型に掘られた)小孔をもつ2個の陽極を組み合わせた電子レンズを用いている。冷陰極からは針状電極の鋭い先端から電子が取り出せるため、ビームは細く絞れるが電子流は限られる。
進行波管やクライストロンなどのマイクロ波管や電子線加速器など、偏向は必要はないが大電子流のほしい機器にはピアス型電子銃が用いられる。開発者名を冠したこの電子銃では、陰極側に陰極と等電位の円錐状の電極を配置して、陰極から放出された電子が広がろうという力を打ち消すような電場を陽極とともにつくり、電子を軸に平行な円柱状のビームとしてむだなく陽極へと導いている。
[岩田倫典]
高密度の電子ビームを放出する電極。電子顕微鏡などでは倍率を高くして使用されるので,試料面上での電子流密度を大きくする必要がある。一般には図1のタングステンヘアピン型電子銃が用いられ,約0.1mmのタングステン線を直流で加熱し,2700~2900Kにして熱電子放出を行う。高輝度電子銃としては,タングステンヘアピンのかわりにランタンヘキサボライドLaB6,あるいは電界放射型電子銃が用いられるようになってきた。電界放射型電子銃は,0.1~0.3μmの曲率半径をもつようにとがらせたタングステンのチップと第一陽極との間に数kVの電圧を加えて電界放射を行わせ,第二陽極で所要の加速電圧まで加速する(図2)。安定に動作させるためにはタングステンヘアピンの場合には電子銃部の真空度は10⁻3~10⁻5Pa程度で十分であるが,電界放射型電子銃では10⁻8~10⁻9Paの超高真空が必要とされる。しかしその利点はきわめて大きく,タングステンヘアピンの場合の明るさに比べ103~104倍,LaB6に比べても102倍以上もあり,電子源の大きさが数十~数百Åと非常に小さく,走査形電子顕微鏡では高分解能像が得られるという利点がある。放出される電子線のエネルギーのばらつきが少なく,干渉性のよい電子線束が得られ,フィラメントの寿命が非常に長いという特徴ももっている。
→電子レンズ
執筆者:松尾 達也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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陰極と,その陰極から放出される熱電子を加速し,特定な方向に向かう電子ビームとするための陽極部分とからなる装置をいう.図にその一例を示す.ブラウン管,電子顕微鏡,電子回折装置などに利用されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…家庭のテレビ受像管をはじめ,コンピューターシステム端末用の文字や図形の表示,オシロスコープ,レーダーのような観測,計測用など電子式ディスプレーデバイスとしてもっとも広く実用されている。
[代表的な構造と動作]
もっとも一般的な構造は図に示すように,漏斗形をしたガラス外管(バルブ)のコーン部底面に塗布された蛍光面と,細管部(ネック)内に固定された電子銃とからなる。電子銃は,ヒーターで加熱された陰極から放出された電子を束にして電子ビームを形成し,これを高い電圧で加速するとともに蛍光面上でもっとも細くなるように集束する働きをする。…
※「電子銃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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