日本大百科全書(ニッポニカ) 「操作主義」の意味・わかりやすい解説
操作主義
そうさしゅぎ
operationalism
概念の定義を、その概念を適用するための実験操作の指定によって与えようとする考え方。この考え方によれば、たとえば「長さ」という概念は、長さを測定するための操作により定義される。アメリカの物理学者P・W・ブリッジマンが、物理学において実際に行われている定義のあり方としてこの定義法を指摘し、それを物理学のあらゆる基礎概念に適用しようとした。概念の定義を、観察データからの論理的構成によって与えようとする論理実証主義の考えと類似した考えであるが、単に受動的に与えられる観察データではなく、実験操作という能動的な面に注目したことが、この考えの特徴である。
しかし、一つの概念を適用するための実験操作が複数ある場合(たとえば、物差しだけによる長さの測定と、三角測量による長さの測定)をどのように考えるか、という点に問題があり、厳格な操作主義では、さまざまの概念の実際のあり方をとらえられない、という批判が出されている。
[丹治信春]
心理学
心理学における操作主義は、アメリカの心理学者スティーブンスらによって改めて主張されたが、心理学的概念が具体的操作によって定義されて初めて客観性をもつという方法論的立場は物理学の場合と同様である。しかし、心理学で操作によって客観化されるという意味は、観察が自己自身に対してなされる場合を含めて他者the other oneに対してなされたものとすることで、それによって観察対象が観察者と明確に区別されることである。といっても、それは観察対象を観察手続から離して独立に客観化することではなく、観察手続と相対的に客観化することが含まれている。
操作主義では、個々の操作によって定義された概念はそれぞれ別個のものとなり、概念の一般性はどこに求められるか、真偽の基準は操作から独立に、理論的に決定されるのではないか、ということが論点となる。たとえば、知能検査によって測定されたものが知能であるとすれば、知能検査の数だけ知能があることになるのではないか、新しい知能検査の真偽は既存の知能検査によって評価されることになるのではないか、ということである。これに対しては、個々の操作によって定義された概念も、差別的性質を相関させ、共通な性質をみいだせば一般性が得られると答えている。
スティーブンスは、差別的反応をもっとも基礎的な操作であるとし、それが物理的過程として扱われて客観化されることを強調したが、プラットC. C. Prattらは、操作の公共性、反復可能性を強調しながら、それを中性的なものとしている。また、操作主義者のなかに概念の体系に関する理論的構成の相違が同じ操作の意味を変えるとする立場と、理論的構成が究極には具体的操作の集合としてつくられることを強調する立場とがある。
いずれにしても操作的定義を方法論的見解とする主張は、行動の科学としての現代心理学に浸透している。
[小川 隆]
『S. S. StevensPsychology and Science of Science, Psychol. Bull. 4 (1939, Macmillan, New York)』▽『C. C. PrattThe Logic of Modern Psychology (1939, Macmillan, New York)』