改訂新版 世界大百科事典 「放射能探査」の意味・わかりやすい解説
放射能探査 (ほうしゃのうたんさ)
radiometric prospecting
放射能の検出に基づく探査法で,物理探査の一つ。天然放射性鉱物から放射される放射線(主としてγ線)を地表あるいは空中で計測し,地表あるいは地下の地質構造や放射性鉱物の分布などを調べる探査法である。一般に岩石を構成する鉱物にはわずかながらウランやトリウムなどの放射性元素が含まれているが,その放射線の量はごく微弱である。しかし,まれには多量の放射性元素が濃集して存在し,放射性鉱床を形成していることがある。こうした放射性鉱床の探査は原子力利用の増大に伴って重要性を増しつつある。濃集した放射性元素を有する岩石は,一般の岩石に比べて格段に強力な放射線を放射しているから,地表あるいは空中から放射量を計測して面的な分布を知ることにより,その存在位置を知ることが可能となる。しかしながら,放射線のうちでも最も透過力の大きいγ線の場合でも,岩石中を透過すると数mで大半が吸収されてしまうので,地下に埋没する鉱床の地表や空中からの直接的探査には限界がある。また,放射能探査は放射性鉱床探査とは別に断層,破砕帯のような地質構造の探査にも用いられている。しばしば断層や破砕帯の周辺で微弱ながら放射能強度の異常が観測されることがあり,地下深部の放射性元素が断層や破砕帯を通路として地表付近にまで運ばれ,表土中に沈積・濃集したものと考えられている。現在では地震予知あるいは地震防災を目的とした活断層調査の一方法としても利用されている。
自然放射能の計測にはシンチレーションカウンターがおもに用いられている。従来,ガイガー=ミュラー計数管が用いられていたが,放射能探査にとって雑音となる宇宙線に対する感度が低いシンチレーションカウンターが取って代わった。放射能探査はその使用形態により車載型探査(カーボーン)と航空機搭載型の空中探査(エアボーン)に分けられる。探査手順としては,まず広域の探査対象地域を車や航空機によって調査(概査)し,次に検出された放射能異常の地点の詳細な地表調査(精査)を行って異常の範囲や原因を明らかにするのが普通である。
放射能探査のもう一つの分野として,人工放射能を用いる坑井内検層法(放射能検層あるいは中性子検層ともいう)がある。坑井内で中性子源を用い地層中に中性子を照射する。このとき,岩石は二次的にγ線を放射する。これを別に設けた坑井内ガイガー=ミュラー計数管で計測する。岩石が水や油といった水素原子の多い流体を多く含む場合には,岩石の中性子捕獲が起こりにくく,したがって放射量も小さくなる。この原理を利用して地層中の流体についての情報を得るのが中性子検層の役割である。現在では石油掘削井の物理検層法として重要な役割を果たしている。
執筆者:小川 克郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報