発光物質(シンチレーターという)と光電子増倍管を組み合わせた放射線検出器。発光物質中で荷電粒子は構成原子と衝突しイオン化を繰り返して運動エネルギーを失う。イオン化で生じた低いエネルギーの電子(δ(デルタ)線という)がさらに原子を励起していく。励起原子が基底状態に戻るときに発生した可視領域またはそれに近い波長の光を光電子増倍管に導くと、光電面で光電子が発生し、二次電子増幅されて増倍管の陽極で数マイクロアンペアから数百ミリアンペアのパルス電流として取り出される。γ(ガンマ)線は発光物質中で光電子またはコンプトン電子の運動エネルギーにかわり、前述の機構で検出される。中性子は発光物質中で反跳陽子を発生するので、それを通じて検出する。発光物質としてヨウ化ナトリウム、ヨウ化セシウムなどの無機結晶、アントラセン、ナフタレンなどの有機物の結晶または溶液、プラスチック、不活性ガスが用いられる。γ線にはおもにヨウ化ナトリウムやヨウ化セシウム、中性子には水素の多い有機物が使用される。検出感度は荷電粒子で100%、γ線、中性子で10から数十%にも及ぶが、エネルギー分解能は電離を利用した半導体検出器や比例計数管に劣る。時間分解能(時間測定の精度)が高く高速な同時測定や飛行時間測定に用いる。
[池上栄胤]
単一の原子核粒子を最初に検出したのは,E. Rutherford(ラザフォード)らが用いたシンチレーションスクリーンであった.部屋を適当に暗くしておくと,α粒子が硫化亜鉛のスクリーンに当たるとき,光子が発生して,かすかなせん光をみとめることができる.この原理に二つの点で重要な改良をほどこして復活させたのが現在のシンチレーション計数管である.第一の改良点は,せん光の検出を目視でなく光電子増倍管を使って電子工学的に行ったことであり,第二の改良点は,硫化亜鉛のかわりに,自身の放出光に対しても透明なシンチレーション材質を使ったことである.したがって,大きな体積から光を効率よく集めることができるようになった.シンチレーション物質(シンチレーター)としては,タリウムで活性化されたヨウ化ナトリウム単結晶NaI(Tl)がもっとも一般的である.減衰時間の速いシンチレーターを選べば,光電子の増倍作用は真空中で行われるので,5×10-7 s 程度の分解時間で計数することができ,出力パルスも最初の光子数に比例するので,この装置はエネルギー選択特性をもった高計数率の測定器としてなくてはならないものとなっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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