放散虫(読み)ホウサンチュウ(英語表記)radiolarian

翻訳|radiolarian

デジタル大辞泉 「放散虫」の意味・読み・例文・類語

ほうさん‐ちゅう〔ハウサン‐〕【放散虫】

肉質綱原生動物の総称。すべて海産で浮遊生活をし、6億年前から生息。大きさは40マイクロメートルから数ミリで、体は球状・円盤状・円錐状など。多くは珪酸けいさん硫酸ストロンチウム成分とする骨針や孔のあいた殻をもち、多数糸状偽足放射状に出す。

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精選版 日本国語大辞典 「放散虫」の意味・読み・例文・類語

ほうさん‐ちゅうハウサン‥【放散虫】

  1. 〘 名詞 〙 肉質虫類に属する原生動物の総称。珪酸質または硫酸ストロンチウムの骨格を持ち、海洋の表層から深海まで広くすむプランクトンの一群。普通、体は球形で、周囲に開く多数の孔から放射状に細かい糸状の仮足を出し海中を浮游する。六億年前から生息。大きさは四〇ミクロンから数ミリメートルで、現生の種類数は四〇〇以上。炭酸カルシウムより溶けにくいので死骸が深海底に堆積して放散虫軟泥をつくる。〔英和和英地学字彙(1914)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「放散虫」の意味・わかりやすい解説

放散虫 (ほうさんちゅう)
radiolarian

放散虫目Radiolariaに属する海生の原生動物の総称。体部は中心囊を内部にもつ原形質と骨格ないし殻で構成され,仮足をもち,終生浮遊生活を送る。中心囊は粘液質でここに核がある。原形質は多胞質で浮遊に役だち,中心囊膜によって内側の内質と外側の外質に二分される。外方に放射状に発達する仮足には,中心部を貫き外方へ突出する長くて直線的な有軸仮足と外質表面より出る細い糸状仮足の2種類がある。仮足を出してケイ藻類,原生動物などの餌をとらえる。ある種類では細胞質内に単細胞藻類が入っていて相利共生している場合もある。骨格や殻は透明な非晶質のケイ酸で形成され,多量の有機物を含むものもあり,また硫酸ストロンチウムで形成されるものもある。これらの構造や形態は多様で,骨針をもったり,多くの孔があいているかご状の骨格をつくるものもある。また複雑な幾何学的対称形のものも少なくない。

 大部分は単体で生活するが,一部のものは群生しコロニーをつくる。大きさは通常20~200μm程度であるが,最大個体の記録としては骨格の直径32mmのものがある。古生代初期に出現し,著しく進化発展を遂げ,現在,極海から赤道帯までの表層水から深層水に至るあらゆる深度に分布しているけれども,海表面より数百mの範囲の深度にもっとも多く生息する。生殖については不明な点が多いが,有孔虫と同様に,有性生殖と無性生殖世代交代が行われると推定されている。放散虫は,中心囊膜にある小孔の状態に基づき4群に分類されてきたが,現在の分類体系では,硫酸ストロンチウムの骨格をもつ群(アカンタリアAcantharia)を除外する傾向にある。残りは堅いケイ酸質の骨格や殻をもつポリキスティナPolycystinaと総称されるスプメラリアSpumellariaとナッセラリアNassellariaの2群と,多量の有機物を骨格や殻に含むパエオダリアPhaeodariaである。アカンタリアの遺骸は死後ただちに海水中に溶解し,パエオダリアも構造が化学的にも力学的にも脆弱(ぜいじやく)なため分解してしまう。そのため深海底に分布する放散虫軟泥を構成しているのは,主としてポリキスティナの骨格や殻である。しかし,一般に海洋底の表層堆積物中のこれら遺骸の分布は水中の放散虫の生物地理区をよく反映している。この軟泥はとくに太平洋の赤道帯北側によく発達している。アサヒムシAcanthometron pellucidumやヤリアサヒムシAmphilonche belonoidesなどは日本各地でプランクトンネットで容易に得られ,分布も広い。

 放散虫の化石は泥岩のような細粒の海成堆積岩中に含まれることが多いが,とくにこの化石が密集しているケイ質の硬い岩石は放散虫岩radiolariteと呼ばれる。一般にチャートといわれるケイ質堆積岩の一部はこれに当たる。最近このようなケイ質岩などをフッ酸で処理して化石を取り出す方法が採用された結果,国際的に放散虫の生層位学的研究が急速に進展した。そのため日本でも西南日本を中心に広がる地質構造帯の四万十帯その他で,不明だった地層の年代が判明し,従来の時代観が改まるなど,構造発達史の解明に大きく貢献している。なお,放散虫の分類上の位置については,亜綱とする人もあり,見解が分かれている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「放散虫」の意味・わかりやすい解説

放散虫
ほうさんちゅう
Radiolaria

大きさ数十マイクロメートルから数ミリメートルの原生動物(原生生物)。原形質からなる軟体部と骨格(殻(から))よりなる。原形質は中心嚢(のう)被膜により内層と外層に分けられる。外層の外側には多数の放射状有軸仮足が発達する。仮足は摂餌(せつじ)に重要な役割を果たす。骨格は、主として非晶質の二酸化ケイ素からなるもの、それ以外に多量の有機物や硫酸ストロンチウムを含むものなどがある。また、骨格の形態は、球状、円盤状、円錐(えんすい)状など変化に富み、幾何学的な美しさをもっている。これらは、放射状、環状、海綿状などの骨格の組合せにより成り立っている。骨格の化学成分や形態は、放散虫を分類するうえで重要視される。海洋の表層から数千メートルの深さまで広く分布するが、海域や深度により構成種を異にする。放散虫の骨格のうち、海水による溶解や生物による分解に対して抵抗力のあるものは、死後、海洋底に沈積し、堆積(たいせき)物となる。とくに深海堆積物では、有孔虫殻(かく)、珪藻(けいそう)殻、コッコリスなどとともに主要な構成成分の一つである。赤道太平洋の海底を占める放散虫軟泥や放散虫からなるチャートは、放散虫骨格の濃集したものである。古生代カンブリア紀の地層から現世の堆積物まで産出する。放散虫群集の地質時代の変遷史は、地層を対比する手段や過去の地球環境を知る手掛りとして有効である。とくに、古生代、中生代の地層の対比には欠くことのできないものとして注目されている。

[谷村好洋]

『日本化石集編集委員会編『日本化石集』第37集・第55集・第66集・第68集(1984~1989・築地書館)』『速水格・森啓編『古生物の科学1 古生物の総説・分類』(1998・朝倉書店)』


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百科事典マイペディア 「放散虫」の意味・わかりやすい解説

放散虫【ほうさんちゅう】

原生動物肉質綱放散虫目の総称。大多数はケイ酸質あるいは硫酸ストロンチウムの骨針や穴のあいた殻をもち,多くの糸状の仮足を放射状に出す。体内には薄膜に多くの穴のある中央嚢(のう)がある。大きさはふつう20〜200μm。世界中に広く分布。すべて浮遊生活をする海産種。死体は海底に沈殿して放散虫軟泥をつくる。種類が多い。

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