教育内容を効果的に獲得させるために教授=学習過程で用いられるもので,教育的にくふうされた具体物をいう。教具は用途によっていくつかに分類される。まず第1には,同時に多くの者が効率よく学習できることである。近代教育の祖といわれるコメニウスが作った母国語による教科書《世界図絵》(1658)はこの典型であろう。さらには広く普及している黒板や掛図があり,最近ではティーチング・マシンやコンピューターによる教育機器の開発も盛んである。第2には,実物のかわりにその本質をとり出して模型化し,直観や想像を働かせて理解の助けとするものがある。歴史的にはフレーベルが作った恩物といわれる遊具が有名である。現在では地球儀,人体模型,原子分子モデルなど多数あり,第2次大戦後日本で開発された水道方式による算数の計算過程で用いられる半具象物のタイルもその一つである。第3には,実物そのものを教育上の用具として用いる場合がある。例えば生物や岩石の標本,実験用器具や工具さらにはそろばんや計算器などがこれにあたる。第4には,電気を利用したスライドや映写機類の視聴覚教具がある。この分野は電気や機械技術の発達によって急速に開発されている。
教科書を例にとってみると,そこに書かれている内容に注目すると教材の部類に入り,紙に印刷された冊子という物質面に注目すると教具といえる。このように教材と教具の区別は相対的であり,重なりあっている部分も少なくない。また教具もしだいに機械化され大型化したり複雑化してくると教育機器の範疇に入ることになる。このように教具は,教育内容の変化や教材の開発とともに,科学や技術の発達に大きく影響を受ける。日本で近代の公教育が始まった19世紀後半には,近世以来のおもちゃ絵などのほか西洋式の教科書や掛図なども導入された。明治末期から大正期には,直観を重視する児童中心主義の考え方に立って,実物や図書や標本さらには各種実験・工作用具などがある程度普及した。そして昭和に入ると,幻灯,映画,ラジオ,電気製品による教具の開発も進められた。第2次大戦後は,とりわけ1960年代以降のさまざまな教育機器の開発によって,多様な教具がくふうされ普及してきた。しかし先進諸外国に比べると依然として教科書を主にした黒板とチョークによる授業が中心である。またコンピューターを用いた最新の教具も発明されてはいるが,教育効果の点ではいまだ実験的段階にあるといえる。
→教材 →視聴覚教育
執筆者:梅原 利夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一方,外国においても,玩具を表す言葉,たとえば英語のtoyには〈くだらないもの〉,フランス語jouetには〈わらいものになる〉という意味がある。18世紀ころから,子どもの人権を認める風潮がしだいに生まれ,玩具の教育的意義づけがされる中で,ドイツのF.フレーベルは自らの考案した玩具を〈ガーベGabe(恩物)〉と呼んだり,イタリアのM.モンテッソリはやはり自ら開発した玩具を〈マテリアmateria(教具)〉と表現したりした。日本でも,明治中期に〈教育玩具〉という言葉が生まれている。…
…教育の目標を達成するためにさまざまな文化の中から選ばれたり新しくつくりかえられたりしてできた素材のこと。〈教具〉と区別して用いる場合には,教育内容の側面に注目した文化材としてとらえるが,教材・教具と一括して用いるように実際には両者の区分は明確ではない。たとえば義務教育費国庫負担法による教材基準では,同法の経費援助を受けられる教材とは,ほとんどが教具のことをさしている。…
※「教具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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