大学事典 「教員の専門性」の解説
教員の専門性
きょういんのせんもんせい
professional standards of the faculty
[日本における専門性の課題]
大学教員の専門性は,従来その研究活動の専門分野についての専門性と捉えられてきた。すなわち,大学設置基準の第4章「大学教員資格の資格」14条「教授の資格」以降に記載されている「博士の学位を有し,研究上の業績を有する」,もしくはそれに準ずる研究業績がある研究者としての専門性が重視されてきた。しかしながら,2001年(平成13)の大学設置基準改定において,「教授(日本)となることのできる者」は,「教育研究上の能力を有する」者から,「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者」(14条)へと改正された。このことから,大学における教育者としての専門性を含めた大学教員の専門性が問われている。しかしながら,現状は,2008年の中央教育審議会答申にあげられた,「総じて,大学教員の公共的な役割・使命,専門性が必ずしも明確に認識されないままになっている」という状況が今なお続いている。
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一方,高等教育の質の保証や大学運営における各種手続き等の透明性の確立に取り組む欧州高等教育圏では,2000年代になって,多くの国が大学教員の職務内容やその職務に必要とされる専門性(professional standards)や専門的な能力(academic competence)の明確化を進めている。たとえばイギリスの教育専門性では,教育の専門性(イギリス)について,2006年に「全英の教育および学習支援の専門職能の基準枠組み」(The UK Professional Standards Framework for teaching and supporting learning: UKPSF)が作成され,2011年に改訂されている。UKPSFは,キャリア段階ごとの教育活動範囲の例示を示した「キャリア段階の基準記述」(Standard descriptor)と,教育のプロフェッショナルとしての「実践活動の領域,コアとなる知識,プロフェッショナルな価値観」の三つの領域を提示した枠組み(Dimensions of the Framework)の二つの軸で構成される(表「UKPSFにおける三つの領域枠組み」参照)。この基準枠組みは,各大学がPGCHEの教育プログラムを開発する際の指標となっている。
さらに研究者の専門性についても,大学院生および大学教員を含めた全英の研究者の専門職能開発を支援する団体であるVitaeが「研究者開発の枠組み(イギリス)」(Researcher Development Framework: RDF)を作成している。この枠組みは,成功した研究者に必要とされる専門職業能力を四つの能力領域「知識および知的能力」「自己効力」「研究ガバナンス・組織化」「関与・影響・インパクト」ごとに提示したものである。研究者がより高い能力開発を目指すための目安であるとともに,研究者開発支援者の職能開発支援の指標となっている。UKPSFとRDFの目的は,いずれも大学教員の専門職能やキャリアの開発支援にある。
著者: 加藤かおり
参考文献: 加藤かおり「イギリスにおける大学教授職の資格制度」,東北大学高等教育開発推進センター『諸外国の大学教授職の資格制度に関する実態調査報告書』(文部科学省先導的大学改革推進委託事業),2011.
参考文献: 中央教育審議会「学士課程教育の構築に向けて(答申)」,2008.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報