改訂新版 世界大百科事典 「資格制度」の意味・わかりやすい解説
資格制度 (しかくせいど)
あることを行うのに必要な条件を一般に資格と称し,設定主体と適用範囲の違いにより,(1)国等の公権力がつくっている公的な資格制度と,(2)民間のそれとに分けられる。後者には民間団体の設定するものもあるが,大部分は企業内資格制度である。
公的な資格制度
近代社会では一般に職業選択の自由が保障されているが,その例外として,放任すると人体や財産に危害を与えるおそれのある領域などについて,一定要件を備える者にのみ就業あるいは営業を認める制度を公的な資格制度(領域によっては免許制度)という。医療に従事するには医師免許状が,船舶職員たるには航海士,機関士の資格が,自動車の運転には自動車運転免許証が,小学校・中学校・高等学校の教師たるには教育職員免許状が,一定要件以上の建築物の設計者たるには建築士の資格が,それぞれ要求されるなどがその例である。公的な資格については名称の独占が認められていることが多い。一般に,科学・技術が発達し社会活動が複雑になり専門的力量を必要とする分野が広がるにしたがい,一般民衆を保護するために公的な資格の種類は増加する。なお日本では,学歴が雇用条件として重視されるほか,公的資格の授与条件の一部または全部になっていることが少なくないため,学歴自体を一種の資格とみなす風潮が強い。国の行う技能検定は,技能水準の公認が目的であり,技能士は称号であって資格ではない。
→免許
執筆者:佐々木 享
企業内資格制度
企業が,社員に対して一定の基準によって設定した資格等級を当てはめ,賃金処遇,配置,教育訓練などを結びつける制度。職務遂行能力の程度によって等級分けするしくみが,日本の資格制度の主流になっている。例示すると表のようなものになる。各等級の名称は表のように単に数字で示される場合と,上位から順に参与,参事,副参事等で示される場合とがある。等級の数は企業により異なり,数段階のものから十数段階に及ぶものもある。資格等級は表にも示されているように部長-次長-課長-係長という通常の役職位(ポスト)と対応してはいるが,むしろ厳密な対応をもたせないことをその特質としている。たとえば表の7等級には課長が対応するが,係長のなかで上位の者(たとえば重要な係の係長,古参の係長,課長と同等の職務遂行能力があるにもかかわらず課長ポストが空席でないために係長にとどまっている者など)も7等級に格付けすることが,むしろ通例である。また管理職のうちでラインの役職位とは別の広義の専門職位も,すべていずれかの等級に格付けされる。
資格制度は1960年代の後半以降,勤続年数と学歴の差を重んじた年功的人事管理(年功的労使関係)から社員の職務遂行能力に重きをおくいわゆる能力主義管理への移行にあたって,後者の制度的主柱として導入された。このため従業員の処遇,配置,教育訓練などの実際の運用にあたって,資格制度がその基準として位置づけられることになった点にとくに留意すべきである。とくに賃金制度に与えた影響は大きい。従来は年々の昇給(定期昇給とベース・アップの和)は主として勤続年数別・職位別の配分で決定されていたのに対し,資格制度のもとではその等級に応じて配分額が決定されるようになった。このことは非役職者(一般社員)についてその内部にいくつかの等級が新たに設けられることでもあり,個々人の各等級への格付け(昇格)が勤続年数だけでなく能力を加味してなされるわけであるから,必然的に年功賃金体系は修正されることを意味する。しかしこの非役職者層は労働組合の主たる構成員であるため,企業は労働組合との交渉・協議を通じて,ある程度勤続年数を重視した昇格基準を設定するのが通例である。下位の等級について,標準滞留年数の規定に加えて最長滞留年数を設定することがそれである。
運用にあたって重要な点は,(1)各等級について職能要件書(どんな仕事がどれくらいできる必要があるか,習得すべき知識・技能は何か)を具体的に展開すること,(2)人事考課(昇格査定)にあたり,部下とのフィードバック関係をもたせて考課への信頼を高め,単に査定することを目的とせずに本人のその後の自己啓発へと結びつけること,があげられる。
執筆者:石田 光男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報