自衛目的で相手領域内のミサイル発射基地などを破壊する能力。1956年に鳩山一郎内閣が、誘導弾による攻撃など「急迫不正の侵害」に対し「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」として、他に手段がない場合に限り行使は可能との政府見解を表明した。歴代内閣は日米の役割分担に基づき米国に打撃力を依存。実際の装備は保有しない立場を取ってきた。自民党は今年4月「反撃能力」と改称して保有するよう政府に提言した。
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出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
弾道ミサイルの発射基地など敵国の軍事基地や拠点などを攻撃する能力。敵基地攻撃能力に関する日本政府の見解は次の通りである。「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います」(内閣総理大臣鳩山一郎(はとやまいちろう)答弁、防衛庁長官船田中(ふなだなか)代読、昭和31年2月29日衆議院内閣委員会15号)。
21世紀に入ると、中国は軍事力を急速に拡大させ、東南アジア諸国の反対を無視して南シナ海の島嶼(とうしょ)を占領し、日本の領海にも中国の公船が頻繁に侵入するようになった。日本が射程圏に入る弾道ミサイルや巡航ミサイルを、中国は約2200発保有している。また、北朝鮮は国連決議を無視して弾道ミサイルの開発を進め、日本を射程に入れる数百発を保有している。多数の弾道ミサイルの同時攻撃(飽和攻撃)を受けた場合、現在の日本の迎撃システムでは飛来する弾道ミサイルをすべて無力化することは保証されていない。
日本の安全保障環境が悪化するなか、2022年(令和4)12月、政府は「国家安全保障戦略」(NSS)など安保関連3文書を閣議決定し、「国家安全保障戦略」に敵基地攻撃能力を反撃能力という名称で保有することを明記した。
反撃能力として地上、艦船、航空機から発射される長射程のスタンド・オフ・ミサイルが計画されている。2030年代には極超音速誘導弾や高速滑空弾も配備される予定である。当面はアメリカ軍の巡航ミサイル「トマホーク」を2025年度から約2000億円の予算で400発導入するが、主力は陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」改良型になる。当初、2026年度配備の予定であったが、2025年度に配備が始まることになった。1000発以上の保有が計画されている。改良型の射程は1000キロメートル以上になる予定であり、発射地点によっては朝鮮半島の大部分、中国の沿岸地帯が射程に入ることになる。
なお、自衛権の行使は、敵が武力攻撃に「着手」した時点で実行されることになり、かならずしも実際の被害を待たなければならないものではない。ただし、敵が武力攻撃に着手する前に敵基地を攻撃すれば、国際法で禁止された「先制攻撃」とみなされる可能性がある。また、日本政府は、日本が攻撃された武力攻撃事態だけではなく、日本と密接な関係にある他国への武力攻撃によって日本の存立が脅かされる存立危機事態の場合にも、集団的自衛権として反撃能力を行使するとしている。
[村井友秀 2024年3月19日]
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