敷布団が汚れたりするのを防ぐために上に敷く白い布。シーツsheetsともいう。素材は平織や蜂巣織の木綿が多いが,綿と化学繊維の混紡やタオル地,また夏季には花ござなども用いられる。シーツは西洋では本来上掛けと下敷用の2枚が使われ,〈pair of sheets〉の語がすでに13世紀半ばにあらわれている。おそらく衣類をすべて脱いで休む習慣からと思われる。2枚のシーツの間にくるまる〈between the sheets〉の語は,また同衾(どうきん)の意味も含んでいた。
日本では綿の入った布団を用いるようになってからも,その上に布を敷く習慣はなかった。西洋風の敷布を用いるようになったのは,明治時代以降である。幕末の1866年(慶応2)に,欧米生活を体験していた福沢諭吉は《西洋衣食住》を著し,欧米人の寝台を使用する生活方式を図解して紹介した。たとえば,〈敷蒲団ハ一番下ニ藁,其次ニ棉,其次ニ毛ノ蒲団ト順々ニ三枚モ敷キ,上ニ晒ノ白布ヲ覆ヒ,……上ニ掛ル夜具ハ甚ダ薄シ。晒ノ布二枚ニブランケットノ二枚モ重ネタル位ナリ。……夜具ノ上下ニ覆フモノハ晒ノ白木綿ニテ雪ノ如シ〉といい,〈冬ノシラミ,夏ノ蚤ナド探シテモ居ズ誠ニ清浄潔白ナリ〉と記述している。マットの上に布のシーツ2枚を敷いて,シーツとシーツの間に入って寝るという西洋寝具の生活様式は,1908年,舶来品として毛布と敷布とが売り出されてからはじめて上流階級の間にとり入れられたと思われる。その時,広幅の白木綿地1枚のシーツはすでに〈敷布〉と訳されて,上に掛けるシーツのことは忘れ去られていた。従来の寝具生活から考えれば,敷布団の上に白い綿布を敷いて布団をくるむだけでも大きな進歩であって,掛布団は,黒繻子(しゆす)の襟をかけるくらいで,従来のままだった。明治末から大正初期にかけて〈洗濯の便利のため,敷布団の上に白き敷布を被ふべきものとす〉(1912年刊《新式家事教本》ほか)という,合理的で清潔な生活が盛んに提案された。さらに〈被(か)け蒲団にも,洗濯の手数のかゝらぬやうに白布で被いをして,ひどく汚れぬうちに取換へるやうにする〉(1918年刊《新式家事教本》,1925年刊《家事教科書》)などと,敷布は現在の用語の布団カバーにもなって売り出され,第2次大戦期にかけて,都会を中心に敷布と掛布団おおいは普及していった。それらはすべて白い木綿であったが,1940年代ころからアメリカで色物や柄物のシーツが作られ,60年ころから服飾デザイナーの作品もあらわれ,世界各地に広がっていった。しかし日本では洋風のベッド生活は普及したものの,シーツの語源である上下一揃いのシーツとしては用いられず,一方は敷布,一方は布団カバーと名付けられて使われている。
→寝具
執筆者:山根 章弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
シーツともいい、敷ぶとん、ベッドのマットレスなどの上に敷いて汚れを防ぐための布類の総称。吸湿性と保温性があり、摩擦と洗濯に対する耐久性のある布地がよい。一般に白地の綿織物を用いるが、近年は木綿と低率に合成繊維を混紡した布地も用いられている。織り組織は蜂巣(はちす)織(枡(ます)織)が主であるが、キャラコ、晒天竺(さらしてんじく)などの平織も用いられる。ほかに夏向きにはタオル地や縮(ちぢみ)風のもの、冬向きに化合繊、木綿を起毛した感触の柔らかいものが用いられるようになった。また色もカラフルになり、ピンク、ブルー、グリーン、クリームなどのものが市販されている。敷布の寸法は、敷ぶとんを覆って四方を包み込むように折り曲げられる大きさを必要とする。JIS(ジス)規格では、敷ぶとん用は幅が130センチメートル、丈は227~250センチメートル。ベッド用シングルの場合は幅155、185センチメートル、丈250、279センチメートル、ダブル用は幅229、240センチメートル、丈250、279センチメートルとなっている。またセミダブル用としてこの中間のものがある。夏は冷感を与え、よく就寝できるように、寝茣蓙(ねござ)という花莚(はなむしろ)を用いる地方もある。敷布は衛生上つねに洗濯をして、清潔を保つことが必要である。
[藤本やす]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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