日本大百科全書(ニッポニカ) 「早期是正措置」の意味・わかりやすい解説
早期是正措置
そうきぜせいそち
経営破綻(はたん)や資源枯渇など、いったん陥ってしまうと、社会や生態系に取り返しのつかない悪影響を及ぼすため、事前に事業者に改善の取り組みを求める仕組み。あらかじめ一定基準を設け、基準より悪化した場合に、自動的に改善を迫る制度が多い。アメリカでの導入例などをモデルに、1998年(平成10)、銀行などの金融機関経営に対する早期是正措置が導入され、以後、保険会社や地方公共団体の経営健全性や、マグロ資源を採取する漁業者などの事業継続性などを保つ仕組みとして広がった。
金融機関に対する早期是正措置は、貸出金や債券などの資産を分母とし、資本金や有価証券含み益などを分子として算出する自己資本比率を基準に、金融庁によって発動される。海外業務を展開する金融機関の場合、自己資本比率が8%を下回ると資本増強を含む経営改善計画の提出・実行を迫られる。4%を切ると海外業務の縮小、2%未満で合併や銀行業廃止、0%未満で業務停止を命令される。国内業務のみの金融機関の基準は、それぞれ4%、2%、1%、0%未満。1999年に幸福銀行(現、関西アーバン銀行)に初めて発動され、2022年(令和4)までに累計で109の銀行、信用金庫、信用組合、農業協同組合(農協)などに発動されている。なお、早期是正措置とは別に、金融機関の資金繰りなどから、事業を継続していけるかどうかを点検する早期警戒措置がある(2008年導入)。
保険会社については1999年から、大災害や株価暴落時などで、どの程度保険金を払う能力があるかどうかを示すソルベンシー・マージン比率を指標に採用。200%未満になると経営改善計画の提出・実行を命令され、100%を割ると配当禁止や保険料の変更、0%を下回ると業務停止を命令される。過去の発動例は2000年(平成12)の大正生命保険のみ。
地方公共団体については、2009年に全面施行された「地方財政健全化法」(平成19年法律第94号)に基づき、連結実質赤字比率や将来負担比率など4指標を基準に早期是正措置を導入。当初、全国21市町村が公務員削減や公共料金引上げなどを迫られる早期是正措置の対象(財政健全化団体)だったが、財政再建が進み、2014年度決算以降、対象の地方公共団体はない。
漁業者に対しては、資源管理法(正式名称「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」平成8年法律第77号)に基づき、マグロ資源などを保護するため、国と都道府県は漁業協同組合(漁協)などの漁業者に早期是正措置を発動する制度が2018年に導入された。乱獲で絶滅危惧(きぐ)種となった太平洋クロマグロ資源を保護するため、国ごとに漁獲上限を割り当てる厳しい規制の導入で国際合意したため、国内漁業者の漁獲量が漁獲上限に近づくと、操業時間の短縮や出漁回数の制限などの早期是正措置が発動される。
[矢野 武 2022年8月18日]