パンソリ(読み)ぱんそり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パンソリ」の意味・わかりやすい解説

パンソリ
ぱんそり

朝鮮の口唱芸能。パン(場、広場)とソリ(音、声、謡(うた))の合成語。チャン(唱)、アニリ(白、語り)、バルリム(所作)を三大要素に全羅(ぜんら)道の曲調にのせて歌い語った語り物。手扇やハンカチを手に、太鼓の伴奏で1人で数役を演唱する。李朝(りちょう)の平民文学が台頭した16世紀後半から約半世紀の間に発生したとみられている。巫俗(ムソク)系の広大(クワンデ)(芸人)がよく演唱したためか巫歌(ムガー)の影響が非常に濃い。広大たちがかってに演唱していたものを、のちに「パンソリの父」とよばれた申在孝が19世紀後半に台本と唱法を体系的に整理再編した。彼の再編した12編のうち、『春香歌』『沈清歌』『興甫歌』『水宮歌』『赤壁歌』の5編が現在も上演されている。唱法には東便(トンピョン)・西便(ソピョン)・中古制(チュンコジェ)の三つと、平調(ピョンジョ)・羽調(ウジョ)・界面調(ケミョンジョ)の三つの調子がある。パンソリを演劇化したものを唱劇という。名唱に、古くは河漠潭、崔先達、椎得三、近くは金昌、宋萬甲、現在は朴緑珠(パクロクチュ)、金素姫(キムソヒ)らがいる。

[金 両 基]

『申在孝著、姜漢永・田中明訳注『パンソリ――春香歌・沈静歌他』(平凡社・東洋文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パンソリ」の意味・わかりやすい解説

パンソリ
p'ansori

朝鮮の代表的な民族芸能の一つ。日本の浄瑠璃に近く,物語に節をつけてうたう語り物音楽。唱劇または唱楽劇歌ともいう。唱夫すなわち広大 (クワンデ) 1人が右手に扇子を持ち,太鼓手1人の伴奏で歌と白 (せりふ) と科 (しぐさ) を織り交ぜて長い物語を劇的に語る。パンソリの語源は明らかでないが,パン (人の集るところ,または舞台) のソリ (歌) の意で,広大がうたう歌 (広大ソリ) の淵源は新羅の花郎道にさかのぼる。パンソリとして明確な形をとるようになったのは粛宗 (在位 1674~1720) 頃で,文献上は柳振漢 (1711~91) の『晩華集』にみえる『春香歌』 (1754) が最も古い。叙事巫歌の影響を受けて発展し,宋晩載,権三得,申在孝らの歌人が集大成し,多くの名唱が出た。『春香歌』『沈清伝』『興甫歌』『水宮歌』『赤壁歌』『はい裨将伝』『雍固執打令』など 12曲あったが,現在は初めの5曲が伝承されており,劇的な内容をもつ『春香歌』が最も有名。地方色豊かなリズム (長短) と旋律で歌われる。 20世紀初めにパンソリを劇化し,数人役柄を分担して扮装舞台装置を伴い歌い分ける唱劇の形式が生れ,多くの唱劇団が活躍している。

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