沈清伝(読み)しんせいでん

改訂新版 世界大百科事典 「沈清伝」の意味・わかりやすい解説

沈清伝 (しんせいでん)

朝鮮,李朝のハングル小説作者不詳。《春香伝》同様にパンソリ系統の小説であるが,一方では〈伝奇叟〉と呼ばれた街頭講釈師の出し物にも名前が挙がっており,18世紀ころには小説に定着したと思われる。地上竜宮を舞台にした儒仏思想混淆の親孝行物語。生後7日で母を失った主人公の沈清は,盲目の父のもとで貧しいながら可憐な少女に育つ。15歳のとき,父の目があくよう仏に願をかけ,供養米300石のために中国の船員に身を売り,印塘水の航路のいけにえとなり入水する。蓮の花と化した沈清は皇帝の前に差し出され,還生して皇后となり,盲人のための饗宴を開いて父にめぐり会い,父は喜びのあまり目があく。《春香伝》と並んで最も愛好された李朝小説。1972年に尹伊桑(いんいそう)によってオペラ化され,ミュンヘン初演空前反響を得,世界的に有名になった。板本に京版(ソウル),完版(全州)があり,写本多種ある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「沈清伝」の意味・わかりやすい解説

沈清伝(しんせいでん)
しんせいでん / シムチョンジョン

朝鮮の古典小説。古くからの説話がパンソリ(『沈睛歌』)としてうたわれているうち、18世紀末ごろ小説化されたものであろう。孝女沈清は盲目の父の目を治そうと、寺に納める供養米の代価に身を売り、渡海商人のため、海神をなだめる人身御供(ひとみごくう)として海へ身を投じる。だが、その孝心を賞(め)でた玉皇上帝によって人間界に送り返され、皇后の位につく。沈清は父会いたさに全国の盲人を集めて宴を催すが、そこで娘の声に驚いた父の目があき、多年の念願がかなう。儒教の孝の倫理と、仏教の因果応報の理とをあわせ説く孝女譚(たん)で、似た話として観音寺(全羅南道)の縁起説話などが指摘されている。しかし、興味深いのは、物語の後半、娘を失った父鶴圭(かくけい)が淫女(いんじょ)ペンドクを妻にして、色香に迷う狂態を演じる場面が続くことである。主テーマとまったく異質なこうしたくだりに、李朝(りちょう)末期の欲望肯定的な庶民文化の浸透ぶりがうかがわれる。

[田中 明]

『申在孝著、姜漢永・田中明訳注『沈睛歌』(『パンソリ』所収・平凡社・東洋文庫)』


沈清伝(ちんせいでん)
ちんせいでん

沈清伝

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「沈清伝」の意味・わかりやすい解説

沈清伝
しんせいでん
Simchǒng-jǒn

朝鮮,李朝後期の代表的ハングル小説。作者,成立年未詳。語り物やパンソリとして伝承されながら 18世紀頃小説に定着したと思われる。地上と竜宮を舞台にした儒仏思想混交の孝行娘物語。生後7日で母を失った主人公の沈清は,目の不自由な父のもとで貧しいながら可憐な少女に育つ。 15歳のとき父の目が見えるよう仏に願をかけ,供養米 300石のために中国の船員に身を売り,印塘水の航路のいけにえとなり入水する。蓮の花と化した沈清は皇帝の前に出され還生して皇后となり,目の不自由な人のための饗宴を開いて父に会い,父は喜びのあまり目が見えるようになる。 1972年に尹伊桑によってオペラに作曲されミュンヘンで初演,空前の反響を得,世界的に有名になった。

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百科事典マイペディア 「沈清伝」の意味・わかりやすい解説

沈清伝【しんせいでん】

朝鮮のパンソリをもとにした古典小説。作者不詳。18世紀ころ成立。物語は盲目の父親を助けるため,人身御供となって海に身を投げた娘の沈清は,天帝のはからいで竜王のところに至るが,やがて地上にもどされ天子の妃となった後,父親にめぐりあいその目が開くという話。古い説話に基づくものらしく思われるが,種々の版本・写本がある。
→関連項目春香伝

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