暴利行為とは、相手方の窮迫、軽率または無知に乗じ、自己のした給付に比し著しく不相当な財産的利益の供与を相手方と約束しまたは相手方をして現実に供与させる法律行為(契約など)をいう。暴利行為は、経済的強者が弱者を一方的に搾取するのを防止するために、法律上無効とされている。
ドイツ民法138条2項は明文で暴利行為を無効であると規定している。わが国の民法には明文の規定はないが、民法90条には「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス」と定めており、暴利行為も「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗」(公序良俗)に反する行為であると解されている。
近代市民法は、法の下の平等の原則、私有財産尊重の原則と並んで私的自治の原則をもっとも基本的な指導原理としている。私的自治の原則とは、市民相互間においては自己の意思に従って自由に法律関係を形成することができ、それゆえに自己の意思決定行為には責任を負わなければならないという思想のことであり、この原則の具体的制度として、民法は「公序良俗」に反しないかぎりどのような内容の法律行為(契約)でも自由に行うことができるという法律行為自由の原則(契約自由の原則ともいう)を認めている。「公序」とは国家社会の一般的秩序をいい、「良俗」とは社会に広く通用している一般的道徳観念ないし倫理観をさしており、両者をまとめて「社会的妥当性」といわれている。それゆえ、法律行為は社会的妥当性に反するならば無効であり、反しない限り有効である。
「公序良俗」に反する行為は大きく二つに分かれる。一つは、その内容自体が社会的にみて妥当でないもの、たとえば賭博(とばく)行為、麻薬取引や請負における談合行為のように犯罪となる行為とか妾(めかけ)契約のような一夫一婦制に反する行為などである。二つめは、行為それ自体はかならずしも社会的妥当性に反していないが動機が不法な行為(密輸のために金を借りることなど)と暴利行為である。ある行為が暴利行為として「公序良俗」に反すると評価されるためには、
(1)相手方の窮迫、軽率または無知に乗じている(つけこんでいる)こと、
(2)当事者間の給付内容が財産的にみて著しく不均衡である(法外な利益の取得を目ざしている)こと
という二つの要素が含まれていなければならない。
これまで裁判所によって暴利行為と認められた代表的なものは、借金の弁済のため数倍もする不動産の提供をあらかじめ約束する代物弁済予約、さらにクラブの経営者が優越的地位を利用して不当な利益を得るためにホステスに顧客の未払金を引受けさせ苛酷(かこく)な責任を負わせる連帯保証契約などであり、いずれも無効とされている。なお、高利貸が不当な高利をむさぼることは暴利行為にはちがいないが、高利取締りのためには利息制限法が制定されているので、それによって無効となる。
[髙森八四郎]
『四宮和夫著『民法総則』(第4版)(1986・弘文堂)』
一般的には不当の利得を得ることをいうが,法律上は,相手方の無知,軽率,窮迫に乗じて不当な利益をむさぼる行為をいう。たとえば,貸主が借主の無知・窮迫に乗じて解約返戻(へんれい)金が貸金の倍額にもなるような保険証書を担保にとったうえで短期間の弁済期を定め,不履行の場合,返戻金が貸金を超過しても借主は返還を請求しない旨を約することなどが,その一例である。暴利行為は無効とされる。その旨を明文で規定する立法例もあるが(ドイツ民法138条2項),このような具体的規定をもたない日本においても,暴利行為は公序良俗に反するものとして無効とされる(民法90条)。経済的弱者を保護するためである。ある行為が暴利行為として無効とされるためには,単に給付と反対給付との客観的不均衡が存在するだけでなく,行為者に相手方の無知,軽率,窮迫に乗ずるという主観的非難性がなければならない。
上述の例のほかに,高率の利息,過大な損害賠償額の予定ないし違約金,不相当に高価な物による代物弁済予約,流れ担保契約などが具体的に問題とされてきた。なお,金銭消費貸借上の利息等については利息制限法の規定があり(1,4条),その適用のある限り民法90条は原則として問題とならないこと,また,代物弁済予約については〈仮登記担保〉としてその債権担保機能が認められ(〈仮登記担保契約に関する法律〉),今日,代物弁済予約全体が暴利行為として無効とされることのないことなどに留意すべきである。
執筆者:平林 勝政
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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