AがBから借金をする際,もし期限に返済しなければAの所有する土地や家屋をBが取ってもよいとあらかじめ約束し,法務局へ行って仮登記を付けることをいう。不動産を担保に融資を受ける方法の一つである。抵当権の設定とあわせて,あるいは単独で使われる。
(1)実際の取引での名称・態様 仮登記担保ないし仮登記担保契約という呼び方は,判例および〈仮登記担保契約に関する法律〉(1978公布)が学説に従い用いたものであり,実際の取引では〈代物弁済の予約〉または〈売買の予約〉と呼ばれる。後者は,金銭貸借に際し,もし期限に返済できなければBは売買の予約を完結して問題の不動産を自分のものにし,Aに対して支払うべき売買代金は貸金元利などとの間で決済すると約束する。前者は,予約であるにもかかわらず〈代物弁済契約〉と証書に書かれている場合も少なくない。
(2)利用の意図・ねらい 不動産担保には抵当権という立派な制度があるのに,こういう方法が用いられてきたのは次のような理由による。(a)予約の対象にした不動産の価格が貸金の債権額よりも高い場合に,Bがおつりを返さずまるまる得をする。(b)抵当権の規定にはBからみて好ましくない滌除(てきじよ)の規定などがあり(民法374,378,395条など),仮登記担保を使えばそれらの適用を回避できる。(c)抵当権の場合は競売という厄介な手続で貸金を回収しなければならないが,仮登記担保では予約完結と本登記でことが足りる。(d)抵当権は,Bが順位1番でも後日2番や3番が付けられてわずらわしいが,仮登記担保ならそれを実際上避けられる--などである。このため,高利貸だけでなく中小金融機関や事業会社も,これをよく使っていた。
(3)判例と立法による修正 上記のメリットは,まず最高裁判所の判例で(a)と(d)がつぶされて,Bは〈清算義務〉(担保目的物の評価額が債権額を超過している場合,債権者は超過した額を返還清算しなければならない)を負い,他人が競売手続をかけてきたときは原則としてそれに乗って回収しなければならなくなった。この点は仮登記担保契約に関する法律でも確認され(3,13条),さらに競売手続の行われる場面が拡大されて(12条),(c)の利点も小さくなった。とくに,企業実務で多く用いられてきた〈根(ね)仮登記担保〉(継続的な売掛け取引から生ずるような増減変動する一団の債権を担保するための形態)が,競売手続とぶつかる場合にはその効力を有しないこと(14条)は,実用度に対する致命傷となった。
(4)未来像 仮登記担保は外国に例をみない日本独特の担保契約だといわれるが,判例と立法とにより,債権者Bからみての利用価値は激減した。とはいうものの現在でも,競売によらない担保権実行(私的実行という)は不可能となったわけではなく,また,最高裁判所が仮登記担保に対し,Bに不利となる短期賃貸借を保護する395条の規定の準用を否定したので,上記(b)のメリットも絶無ではない。しかし,全体としてみるなら,仮登記担保は,規制強化により衰微の方向をたどるであろう。不動産の譲渡担保がこれに代わるものとなるかは問題である。
執筆者:椿 寿夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
民法には定められていないが、実際の取引慣行から生まれた担保制度で、いわゆる変則担保(あるいは非典型担保)の一つ。不動産を担保に融資を受ける方法の一つで、単独にあるいは抵当権の設定と併用されて用いられる。たとえば、AがBに金を貸す際、もし期日に返済しなければ、Bの所有している不動産をかわりに取得することを約束(代物(だいぶつ)弁済の予約)し、この約束に基づいて、その不動産に所有権移転の登記請求権の順位を確保するため仮登記をつけておくことが通例であるところから、仮登記担保とよばれている。
仮登記担保(契約)という呼び方は、「仮登記担保契約に関する法律」(1978制定)および判例が、学説に従って用いたものである。仮登記担保は、抵当権のように複雑な手続を要しないで、債権者の安心が得られるので広く行われるようになった。しかし貸し金と不動産の価格に開きがあって、債務者Bが返済できない場合(たとえば1億円の債務で2億円の不動産を失う)、Aの丸取りを認めると不衡平が生ずる。そこで判例および前記の法律は、譲渡担保におけると同様に、仮登記担保権者Aに清算義務を課すなど、合理的な担保制度に近づけるよう努めてきた。さらに競売手続の行われるケースが拡大されたので、Aが丸取りできるうまみは完全に封ぜられ、競売による、金額的な不利ややっかいな手続などが避けられないなど、Aのメリットがなくなったので、仮登記担保契約を結ぶ債権者は減少する傾向にある。
[川井 健]
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