イギリスの作家サマセット・モームの長編小説。1919年刊。作者が強く心をひかれていた画家ゴーギャンをモデルにした作品。ロンドンの株式仲買店の平凡な事務員だった主人公ストリックランドは、ある日突然、17年間も生活をともにした妻と2人の子供を捨てて、パリへ行ってしまう。それは、ただ絵を描きたいという理由からだけだった。その後さらにタヒチに行き、30歳も年下の先住民の娘アタと同棲(どうせい)し、ハンセン病を病みながらも、金のためでもなければ、他人に見せるためでもなく、ただひたすら絵を描き続ける。金は芸術家の第六感だとうそぶいたモームが、純粋な芸術への郷愁を満足させるために書いた作品といえよう。題名の「月」は芸術創造の狂気を、「六ペンス」は平凡な俗世間をさすものと考えられる。発表と同時に反響をよび、モームの作家的地位を不動のものとした。
[瀬尾 裕]
『中野好夫訳『月と六ペンス』(新潮文庫)』
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