中国南宋(なんそう)の時代(12~13世紀)から伝わる点心(てんしん)の一種。中国では旧暦8月15日の仲秋節に、月輪すなわち満月の円満な姿を象徴してつくり、クリ、スイカ、ナシ、カキなど丸い果物とともに月に供えたり、親しい間で贈答しあい互いに幸福を祈る習慣があった。月餅が日本へ伝来した年代は不詳であるが、最近は中国の銘菓として常時市販されている。中国では仲秋節のすこし前からつくられ、仲秋節以後はあまりつくられないようである。広東(カントン)地方、また香港(ホンコン)ではこの時期に限って、みごとな月餅が市販される。
[野村万千代]
小麦粉にラード、砂糖、水飴(みずあめ)、卵などを混ぜ合わせ、温湯でこねて皮をつくり、好みの餡(あん)を包み、彫りのある円形の木型に入れて形を整えてから抜き出し、上面模様のほうへ色つや出しの装液(そうえき)(卵黄、砂糖、カラメルでつくる)を塗って焼く。餡の種類によって名称をつけている。上面の模様の大部分は月宮図である。豆沙月餅(トウシャーユエピン)は、小豆(あずき)餡に豚脂身、干しぶどう、クルミ、砂糖、黒ゴマなどを加えてつくる。百果月餅(パイクオユエピン)は、なつめ餡にラッカセイ、干しぶどう、スイカの種、豚脂身などを加えてつくる。このほかに鹹蛋(シエンタン)(アヒルの塩漬け卵)入りの月餅などもある。月餅は中国の菓子で、宴会席の献立には入れない。
[野村万千代]
中国の菓子の一種。旧暦8月15日の中秋節は八月節,団円節ともいい,正月,清明節とともに重要で伝統的な祭日で,種々の果物,野菜とともに月餅を供える。中国の代表的な味を一つに包むといわれ,小麦粉を主体にした皮に,アズキ,松の実,杏仁,クルミ,ハスの実,ナツメなどに砂糖を加えて練ったあんを包んで満月の形にかたどり,天火で焼いたもの。表面にウサギやカエルなどの絵柄を型押しすることが多い。大きさは直径約10cmぐらいがふつうであるが,50cmのものもある。供えたあとすぐに食べるが,長期間の保存がきくため大晦日に食べることもある。これを団円餅という。月餅を月に供える風習は,1526年(嘉靖5)の《煕朝楽事》(進士田助成)に出ており,明代以後の風習と考えられる。日本ではモンゴル起源説があるがこの説は当たらない。
執筆者:田中 静一
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…清代では,元旦・端午とともに三大節として重視され,商業取引の決済期でもあった。庭先に設けられた祭壇上には,太陰星君(月の神)やウサギなどを描いた紙製の月光馬児が立ち,その前に月餅(げつぺい)や果物,枝豆,鶏頭の花などを供えて月を祭った。月餅とは満月をかたどった平たく丸い菓子であり,団円(一家だんらん)の象徴でもある(使用は元末以後という)。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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