( 1 )①は一三世紀初頭、禅宗と共にもたらされた習慣の一つで、いわば中国式軽食である。
( 2 )近世には、昼食の意味に用いられるようになったが、次第に中食・昼食という言い方に統一されていったようである。
( 3 )昼食にならないような甘いものをいう②は茶の子・茶菓子とも称されたが、「類聚名物考‐飲食部四・総類・雑品」では甘いものだけを点心としている。
( 4 )現代の日本語では、「点心」は中国料理におけるスナック風の料理(饅頭・焼売・餃子・包子などと菓子類)をもっぱら指す。
中国の間食のことで、そのなかには簡単な食事になるもの、一献立の途中に供されるもの、また日本の菓子と同様に用いられるものなどがある。
点心の語は唐の時代に始まって、元の初期ごろまでは朝食(1日2食時代)前の小食をさしたが、元時代に食間の小食をすべて点心というようになった。したがって日本への仏教の渡来と同時に、日本にも点心なることばと、その内容の一部が伝えられ、その後現在までに豊富な種類の内容に発展し、中国はもちろん日本でも一般に愛好されるようになった。
[野村万千代]
点心をその内容から分類すると、餅(ピン)、糕(カオ)、(トワン)、飯(ファン)、粥(チョウ)、果子(クオツ)、その他の加工品に分けられる。
[野村万千代]
日本の餅(もち)とは関係がなく、小麦粉を原料としてつくられたもので、春餅(チュンピン)、大餅(ターピン)、小餅(シャオピン)、月餅(ユエピン)、芝麻酥餅(チーマスーピン)などがある。饅頭(マントウ)、麺(ミエン)、ギョウザ(餃子(チャオツ))も餅に属する。(1)春餅は小麦粉に温湯、卵白、少量の油を加えて耳たぶくらいの柔らかさに練る。しばらく休めてから薄く伸ばし、片面の全体に油を塗って二つに折る。ふたたび1.5ミリメートルに薄く伸ばし、直径10センチメートルくらいの丸形に抜く。鉄板に油を塗り、弱火でこれを両面焼くと一枚が二枚にはがれるので、これに春の種々の野菜と甜醤(ティエンチャン)(甘みそ)を入れて巻き、手に持って食べる。(2)大餅は前記の小麦粉を練って伸ばして片面に油を塗ったときに、ゴマ、ネギのせん切りを入れ、塩をふって二つ折りにして大形に切り、鉄板で焼いてそのまま指でちぎって食べる。盂蘭盆(うらぼん)のときには、餅(ピン)の表面にハスの葉の形に筋をつけて焼き、精進物を包んで食べるので荷葉餅(ホーイエピン)という。(3)小餅は小麦粉に温湯を入れて耳たぶくらいの柔らかさにこね、帯のように薄く長く伸ばす。表面に油を塗り少量の塩をふって、両端からくるくる巻いて中央であわせ、重ねてこれを1センチメートルくらいの厚さに伸ばして2.5センチメートルの長さに切る。1個ずつその角を丸めて団子状にして上に黒ゴマをつけ、中央に紅のぽちをつけて厚手の鉄板で蓋(ふた)をして弱火で焼く。できあがるとパイのように幾枚にもはがれて食べやすい。小餅はカオヤンロウ(烤羊肉)を食べるときの主食である。(4)酥餅(スーピン)は小麦粉に加えるラードの量の多少によって、AとBの2種類のものをつくり、AとBを二枚あわせ薄く伸ばして片端からくるくる細く巻いて、1.5~2センチメートル幅に切る。形を整えて表面をゴマやアーモンドなどで飾り、クッキーのようにオーブンで焼いたり、あるいは油で揚げる。粉に砂糖を加えてもよく、小豆餡(あずきあん)やジャムなどを中に包んでつくったものを酥盒子(スーホーツ)という。
[野村万千代]
本来は米の粉(上新粉)でつくられたが、かわりに小麦粉や葛(くず)粉を用いることもある。鶏蛋糕(チータンカオ)は蒸しカステラのことをいい、上新粉によく泡立てた卵(砂糖入り)を軽く混ぜ合わせて蒸したもので、干果類を混ぜてつくってもよい。年糕(ニェンカオ)は日本の餅(もち)のことで、白いものや、中に桂花(コイホワ)(モクセイの花)、黒砂糖、柑橘(かんきつ)類などを入れたものもある。正月には白い餅と肉、野菜類をともに炒(いた)めて食べるという。
[野村万千代]
米やその他穀類を粒のままで使ったもので、八宝飯(パーパオファン)、蒸糯米鶏(チョンヌオミーチー)などがある。粥は日本の粥(かゆ)よりも薄く、スープで炊くことが多い。中には魚、リョクトウ、エビ、鶏肉などを入れてつくるものもある、中国では南方の米の産地以外では、白飯よりも粥を食することが多く、とくに朝食には中国全土でいろいろの粥を食べる。(1)蒸糯米鶏は、縦半羽の鶏を少量の塩、酒を入れたたっぷりの水で柔らかくなるまで煮て、煮汁はスープに用いる。鶏は大骨を取り除き、皮付きのままぶつ切りにする。糯米(もちごめ)は蒸し、中にぎんなん、栗(くり)、マツタケなどを入れてもよい。どんぶりの底をハムなどで飾り、ぶつ切りの鶏の皮を外側にしてどんぶりの周りに張り付け、中にきっちりおこわを入れてかぶせ蓋(ぶた)をして蒸す。これを食卓に出す器に逆さにあけて、熱いスープをかけて供する。筵席(イエンシー)(宴会席)に点心として、八宝飯と同様に適する。(2)臘八粥(ラーパーチョウ)(別名五味粥(ウーウエイチョウ))は、旧暦12月8日に中国のおもに北方地方でつくられる。糯米、粳米(うるちまい)、大麦、粟(あわ)、コーリャンの粥に、胡桃(フータオ)(クルミ)、松の実、ハスの実、干しなつめ、栗など種々の果子を入れ、くふうを凝らしてつくる五穀の祝い粥である。12月8日はこの粥を家族で食べる節句(せっく)と定められ、紅、白の砂糖をのせて食べる。最初に祖先や仏に供え、親戚(しんせき)や友人に互いに配る。なお12月のことを臘月(ラーユエ)という。
[野村万千代]
果物その他を加工したもの。(1)杏仁豆腐(シンレントウフ)はアンズの種子でつくった寄せ物のこと。杏仁(アンズの種子の仁)をよくすりつぶして汁を漉(こ)し取り、寒天で固めて適当に切り、シロップをかけて冷やし、宴席の点心とする。(2)抜絲栗子(パースーリーツ)は皮を除いてゆでた栗を油で揚げ、砂糖飴(あめ)でくるんだもの。箸(はし)でとるとき銀の糸を引くので銀絲栗子(インスーリーツ)ともいう。(3)糖葫蘆(タンフール)はナツメやリンゴ、サツマイモなどの糖包児(タンパオル)(飴だき)を串(くし)に通し、葫蘆(藁(わら)でつくった苞(つと))に挿して攤子(タンツ)(手押し車)で売り歩いているもの。昔は青く晴れ渡った秋空に飴が日差しに輝いて、秋の北京(ペキン)風景の一つでもあったという。
[野村万千代]
中国からの外来語で〈てんしん〉ともいい,定時の食事ではなく空腹を感じたとき,とりあえず摂取する食べ物。空心(空腹)に点じる意味という。
中国の食事を大きく分けると飯(主食),菜(副食),点心(間食,小食)となる。点心は鹹(かん)点心(塩味),甜(てん)点心(甘味),小食(鹹,甜以外のもの),果物に分類される。したがってめん類,ギョーザなどは,食べるときにより飯になったり点心になったりする。点心は解釈の多いことばであるが,間食,非時の食,小食とするのが最も適当である。飲茶(ヤムチヤ)は全部点心である。点心という字は,宋代の《能改斎漫録》に初めて出るが,この本には唐代にすでにあったと記されている。
執筆者:田中 静一
日本では1241年(仁治2),道元が夏安居(げあんご)で《碧巌録》の講解を行った際,徳山宣鑑の逸話を引いて〈もちゐをかふて点心にすべし〉(《正法眼蔵》)と用いたのが文献上の初出とされる。
さらに13世紀初頭に禅宗が日本に将来されてから,彼我の僧の往還も盛んとなり,教義や仏典と同時に,かの地の寺院の制度や日常の習慣ももたらされ,点心の語や習慣も,やがて日本に定着していったものであろう。1303年(嘉元1)に鎌倉幕府は円覚寺の僧に,点心は1種を超えてはならないことを命じており,寺院における食制の変化と点心の慣習化を裏書きしている。《異制庭訓往来》をはじめ各種の古往来は南北朝から室町時代へかけての撰述とされるが,そこには点心として各種の〈羹(かん)〉〈麵(めん)類〉〈粥〉〈饅頭(まんじゆう)〉などが列挙されている。また,狂言《饅頭》ではまんじゅう売をして田舎大名に〈まんぢう共申,てんぢんとも申し,上つ方の御衆も参るものでござる〉といわせており,これらのことは点心という語の大衆化の度合を示すと同時に,点心の代表的食物として〈饅頭〉が挙げられているのは興味深い。また,《看聞日記》《康富記》などの貴族の日記にも点心の語が現れ,寺院社会ばかりでなく在俗社会にも点心の語は日常化していった状態がうかがわれる。浮世草子《籠耳》には〈侍は中食といひ,町人は昼食といひ,寺方には点心と云……〉ともみえるから,点心,すなわち昼食という用法もされたのであろう。
執筆者:平田 萬里遠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…また,本来〈ようこう〉と読むべきものを〈ようかん〉というようになっていた。《庭訓往来》などには,点心の品目として鼈羹(べつかん),猪羹(ちよかん),驢腸羹(ろちようかん)などとともに羊羹,砂糖羊羹の名が見られるが,それらは〈惣(そう)じて羹は四十八かんの拵様(こしらえよう)有りといへども,多くは其の形によりて名有り〉と《庖丁聞書》にあるように,〈羹(かん)〉と総称され,スッポンの形にすれば鼈羹,猪(ブタ)の形にすれば猪羹といったぐあいに,形によっていろいろな呼名がつけられていたようである。伊勢貞丈によると,鼈羹はヤマノイモ,アズキのこし粉,小麦粉を用い,羊羹はアズキのこし粉,葛粉(くずこ),もち米の粉を用い,それぞれ甘味料を加えてこね,蒸したものだという。…
※「点心」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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