日本大百科全書(ニッポニカ)「点心」の解説
点心
てんしん
中国の間食のことで、そのなかには簡単な食事になるもの、一献立の途中に供されるもの、また日本の菓子と同様に用いられるものなどがある。
点心の語は唐の時代に始まって、元の初期ごろまでは朝食(1日2食時代)前の小食をさしたが、元時代に食間の小食をすべて点心というようになった。したがって日本への仏教の渡来と同時に、日本にも点心なることばと、その内容の一部が伝えられ、その後現在までに豊富な種類の内容に発展し、中国はもちろん日本でも一般に愛好されるようになった。
[野村万千代]
分類
点心をその内容から分類すると、餅(ピン)、糕(カオ)、(トワン)、飯(ファン)、粥(チョウ)、果子(クオツ)、その他の加工品に分けられる。
[野村万千代]
餅
日本の餅(もち)とは関係がなく、小麦粉を原料としてつくられたもので、春餅(チュンピン)、大餅(ターピン)、小餅(シャオピン)、月餅(ユエピン)、芝麻酥餅(チーマスーピン)などがある。饅頭(マントウ)、麺(ミエン)、ギョウザ(餃子(チャオツ))も餅に属する。(1)春餅は小麦粉に温湯、卵白、少量の油を加えて耳たぶくらいの柔らかさに練る。しばらく休めてから薄く伸ばし、片面の全体に油を塗って二つに折る。ふたたび1.5ミリメートルに薄く伸ばし、直径10センチメートルくらいの丸形に抜く。鉄板に油を塗り、弱火でこれを両面焼くと一枚が二枚にはがれるので、これに春の種々の野菜と甜醤(ティエンチャン)(甘みそ)を入れて巻き、手に持って食べる。(2)大餅は前記の小麦粉を練って伸ばして片面に油を塗ったときに、ゴマ、ネギのせん切りを入れ、塩をふって二つ折りにして大形に切り、鉄板で焼いてそのまま指でちぎって食べる。盂蘭盆(うらぼん)のときには、餅(ピン)の表面にハスの葉の形に筋をつけて焼き、精進物を包んで食べるので荷葉餅(ホーイエピン)という。(3)小餅は小麦粉に温湯を入れて耳たぶくらいの柔らかさにこね、帯のように薄く長く伸ばす。表面に油を塗り少量の塩をふって、両端からくるくる巻いて中央であわせ、重ねてこれを1センチメートルくらいの厚さに伸ばして2.5センチメートルの長さに切る。1個ずつその角を丸めて団子状にして上に黒ゴマをつけ、中央に紅のぽちをつけて厚手の鉄板で蓋(ふた)をして弱火で焼く。できあがるとパイのように幾枚にもはがれて食べやすい。小餅はカオヤンロウ(烤羊肉)を食べるときの主食である。(4)酥餅(スーピン)は小麦粉に加えるラードの量の多少によって、AとBの2種類のものをつくり、AとBを二枚あわせ薄く伸ばして片端からくるくる細く巻いて、1.5~2センチメートル幅に切る。形を整えて表面をゴマやアーモンドなどで飾り、クッキーのようにオーブンで焼いたり、あるいは油で揚げる。粉に砂糖を加えてもよく、小豆餡(あずきあん)やジャムなどを中に包んでつくったものを酥盒子(スーホーツ)という。
[野村万千代]
糕
本来は米の粉(上新粉)でつくられたが、かわりに小麦粉や葛(くず)粉を用いることもある。鶏蛋糕(チータンカオ)は蒸しカステラのことをいい、上新粉によく泡立てた卵(砂糖入り)を軽く混ぜ合わせて蒸したもので、干果類を混ぜてつくってもよい。年糕(ニェンカオ)は日本の餅(もち)のことで、白いものや、中に桂花(コイホワ)(モクセイの花)、黒砂糖、柑橘(かんきつ)類などを入れたものもある。正月には白い餅と肉、野菜類をともに炒(いた)めて食べるという。
[野村万千代]

米の粉で団子にしたもの。翡翠(フエイツオイトワン)は白玉粉に上新粉を混ぜて蒸し、これにゆでて刻んだヨモギを入れてよく混ぜ、緑色の団子にする。この団子は春につくる。
[野村万千代]
飯・粥
米やその他穀類を粒のままで使ったもので、八宝飯(パーパオファン)、蒸糯米鶏(チョンヌオミーチー)などがある。粥は日本の粥(かゆ)よりも薄く、スープで炊くことが多い。中には魚、リョクトウ、エビ、鶏肉などを入れてつくるものもある、中国では南方の米の産地以外では、白飯よりも粥を食することが多く、とくに朝食には中国全土でいろいろの粥を食べる。(1)蒸糯米鶏は、縦半羽の鶏を少量の塩、酒を入れたたっぷりの水で柔らかくなるまで煮て、煮汁はスープに用いる。鶏は大骨を取り除き、皮付きのままぶつ切りにする。糯米(もちごめ)は蒸し、中にぎんなん、栗(くり)、マツタケなどを入れてもよい。どんぶりの底をハムなどで飾り、ぶつ切りの鶏の皮を外側にしてどんぶりの周りに張り付け、中にきっちりおこわを入れてかぶせ蓋(ぶた)をして蒸す。これを食卓に出す器に逆さにあけて、熱いスープをかけて供する。筵席(イエンシー)(宴会席)に点心として、八宝飯と同様に適する。(2)臘八粥(ラーパーチョウ)(別名五味粥(ウーウエイチョウ))は、旧暦12月8日に中国のおもに北方地方でつくられる。糯米、粳米(うるちまい)、大麦、粟(あわ)、コーリャンの粥に、胡桃(フータオ)(クルミ)、松の実、ハスの実、干しなつめ、栗など種々の果子を入れ、くふうを凝らしてつくる五穀の祝い粥である。12月8日はこの粥を家族で食べる節句(せっく)と定められ、紅、白の砂糖をのせて食べる。最初に祖先や仏に供え、親戚(しんせき)や友人に互いに配る。なお12月のことを臘月(ラーユエ)という。
[野村万千代]
果子
果物その他を加工したもの。(1)杏仁豆腐(シンレントウフ)はアンズの種子でつくった寄せ物のこと。杏仁(アンズの種子の仁)をよくすりつぶして汁を漉(こ)し取り、寒天で固めて適当に切り、シロップをかけて冷やし、宴席の点心とする。(2)抜絲栗子(パースーリーツ)は皮を除いてゆでた栗を油で揚げ、砂糖飴(あめ)でくるんだもの。箸(はし)でとるとき銀の糸を引くので銀絲栗子(インスーリーツ)ともいう。(3)糖葫蘆(タンフール)はナツメやリンゴ、サツマイモなどの糖包児(タンパオル)(飴だき)を串(くし)に通し、葫蘆(藁(わら)でつくった苞(つと))に挿して攤子(タンツ)(手押し車)で売り歩いているもの。昔は青く晴れ渡った秋空に飴が日差しに輝いて、秋の北京(ペキン)風景の一つでもあったという。
[野村万千代]